昭和27年11月12日に、武蔵がふた月の余をすぎて自宅にもどってきた。憔悴しきった小夜子を「おかえりなさいませ、おくさま。それから、旦那さまも」と、千勢があかるく迎えいれた。「たけしぼっちゃんは、ついさっき、おねむになりました。それから竹田さんたちにおてつだいいただいて、きゃくまにごよういいたしました」その夜、通夜が執りおこなわれた。入れ替わりたちかわり社員たちが武蔵の○に顔に手を合わせるなか、小夜子はただただ呆然と座りつづけていた。今日いちにちなにも食していない小夜子にたいし、千勢が汁物を用意したが、ひと口ふたくち口だけで、「もういいわ」と下げさせた。しずかにねむる武蔵をじっと見つめながら、「ひどいよ、ひどいよ」とお念仏のようにつぶやいている。五平はむろん、竹田ですら声をかけることができない。「結婚前は...水たまりの中の青空~第三部~(四百三十九)