音楽雑誌「レコード芸術」の休刊について、音楽評論家で慶応大教授の片山杜秀さんへのインタビュー。後編は、21世紀に入ってからの音楽界の変化について語ります。クラシック音楽自体が後退するのではないかと、強い危機感を示します。【聞き手・須藤唯哉】
前編 「レコード芸術」休刊 片山杜秀さんが指摘する「崩壊の兆し」
巨匠不在の時代へ
21世紀に入ると、物理的存在としてのCDやレコードを買うという機会が減りました。そういうものをいちいち買わなくても、インターネットで聴いたり、サブスクでお金を払ってたくさん聴いたりする鑑賞スタイルが、今の30代以下は当たり前になっています。一生懸命に雑誌を読んで、CDを買うという人たちは、今でもたくさんいることはいるけれども、高齢層になってしまいました。クラシック音楽のコンサートに足を運ぶ人たちと重なるところがあるわけですが、読者層が高齢に偏ってしまっている。
結局、昔ながらの名曲名盤主義へのノスタルジーみたいなのがいつまでもある高齢の読者たちが、近年は「レコ芸」を買ってくれていたという状態だったと思うんです。
一方で、書き手たちは世代交代していて、音楽史や音楽学の専門家たちは、昔ながらのベートーベンやバッハだけでなく、バロックや現代音楽、ロマン派の音楽でもものすごく細かい話を書くようになりました。細かい知識で、CDの種類が多様化している流れに対応する記事を書くような新世代の書き手がレコ芸でも数多く執筆するようになりました。趣味の多様化に対応しているような自覚は、書き手にもあります。「どれが名曲名盤か」よりも、「はるかに細かく、詳しく、学問的なことを書いているぞ」というタイプが増えました。
でも…
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