連載
心の眼
視覚に障害がある佐木理人記者が、誰もが不安を和らげ希望につながるような報道とは何かを考えます。
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世界を手のひらの上に=点字毎日記者・佐木理人
2024/11/1 02:04 839文字全盲の私が「目が見えなくて、この世界を十分知らないな」と痛感させられることがある。よく知られた建築物や話題の生物などの立体模型に触った時だ。 原爆ドームと、原爆投下前の広島県産業奨励館の模型では、核兵器のとてつもない威力に驚いた。新型コロナウイルスの模型では、えたいの知れないものの実態に恐怖心が少
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「アイ」の力で=点字毎日記者・佐木理人
2024/10/4 02:04 813文字全盲の私が、初対面の人からときどき質問されることがある。「どうして眼鏡をかけているんですか?」と。 理由は、目を守るため。実は、高校生の時、在学していた東京の盲学校の敷地内で右目を桜の木にぶつけて大けがをした。以来、取材でも、プライベートでも、外出時は必ず眼鏡をかけるようにしている。 白杖(はくじ
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取り残された点字表示=点字毎日記者・佐木理人
2024/9/6 02:01 812文字「駅のホームで気になっている表示があるんです」。視覚障害者の外出などのサポートをするガイドヘルパーの女性の一言で事態を知った。 大阪メトロ御堂筋線のホームドアの脇に書かれた点字のことだ。その内容が正確ではないという。触ってみると、確かにそうだった。 大阪市内の中央を南北に走る御堂筋線は、今年3月、
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注目したい「東の甲子園」=点字毎日記者・佐木理人
2024/8/2 02:01 835文字突然、右の前腕に鈍痛を感じた。友人が営む大阪市淀川区の治療院に駆け込んだ。 AMラジオのほっこりする番組が流れる治療室のベッドに横たわる。しんきゅうマッサージ師で全盲の西井一博さん(49)から1時間の施術を受ける。念入りなマッサージでコリが少しずつほぐれていく。小気味よいリズムで腕に打たれるはりに
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手でみる旅=点字毎日記者・佐木理人
2024/7/5 02:07 811文字初めて訪れる地での取材で困るのは、一帯の地図が頭に入っていないことだ。そもそも指で触って分かる地図はほとんどない。 状況は、旅でも変わらない。目が見える人と一緒でも、私が主になってルートを考え、街中を自由自在に歩き回るのは至難の業だ。 私が家族4人の旅行で助かったのは、「ディズニーランド」と「ディ
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新紙幣の手ざわりは=点字毎日記者・佐木理人
2024/6/7 02:05 812文字「これは大問題だ!」。2000年、視覚障害者の間で騒ぎになったのが、2000円札の登場だ。沖縄の守礼門や紫式部などが描かれて話題を呼んだ新紙幣は、当時の5000円札より横がわずか1ミリ短いだけ。視覚障害者からは「ほかのお札との区別ができない」という戸惑いの声が相次いだ。 目が見えない、見えにくい人
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よみがえる世界=点字毎日記者・佐木理人
2024/5/3 02:04 800文字全盲の私は、視覚障害者が活躍できる場についてのアイデアに大きくうなずいた。大阪市内の眼科で視力検査などに従事する視能訓練士の今村友香さん(25)は、においに敏感で、「目が見えない、見えにくい人だからこそ、オリジナルのフレグランスブランドが作れるのでは」と考えた。そんな提案は、視覚障害者を支援する「
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「誰もいなくなる」前に=点字毎日記者・佐木理人
2024/4/5 02:00 812文字「銀行を定年退職してから、この仕事に就いたんです。いろんな方のお役に立てて、やりがいを感じます」。地下鉄の駅での乗り換えで私を丁寧に案内してくれた初老の男性がいきいきと話す。 大阪メトロの駅で視覚障害者の移動や車椅子使用者の乗降をサポートする黄色のジャケットを着た「ヘルパー」と呼ばれる人たちだ。2
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「緑」でつながる仲間たち=点字毎日記者・佐木理人
2024/3/1 02:02 823文字私の目が少し見えていた小学生の頃、親から禁じられていたことがある。「一度にたくさんの水分を取ったり、うつむいた姿勢で長くいたりしないように」。生まれつきの眼病・緑内障を悪化させる眼圧の上昇につながると当時は言われていたからだ。 受けた手術は、生後間もなくから一昨年まで10回近く。目薬は最多で5種類
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諦めない力が道開く=点字毎日記者・佐木理人
2024/2/2 02:03 811文字私が文章を書く時に心に留めている言葉がある。「思い上がりではなく、読み手への思いやりが大切」。神戸の大学で学んでいた時、恩師の教授が論文の執筆指導でたびたび口にしていた助言だ。 全盲の私が大学入試を点字で受けたのは、今から30年余り前。現役合格はかなわず、1浪した。結局、志望先には受からなかった。
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今どきの若者は=点字毎日記者・佐木理人
2024/1/5 02:03 832文字取材では、情報だけでなく刺激もいただく。視覚障害者が使えるパソコンソフトの開発・普及に取り組む「アクセシブル・ツールズ・ラボラトリー」(アクトラボ)のメンバーへのインタビューもそうだ。 2020年に発足したアクトラボは、高校生から20代までの全盲や弱視6人で活動する。これまでインターネット上で公開
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頼もしい腕=点字毎日記者・佐木理人
2023/12/1 02:01 833文字右手に白杖(はくじょう)を持った私は左手でガイドヘルパーの男性の腕をしっかりつかみ、山道を急ぐ。妻と幼稚園児だった2人の娘と参加した大人数のハイキングでのことだ。家族4人で外出すると、妻は娘たちにかかりきりになる。視覚障害者の安全な移動と情報入手をサポートする仕事に従事するガイドヘルパーは、子供た
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IT化に聖域はない=点字毎日記者・佐木理人
2023/11/3 02:06 821文字「満席で傍聴席には入れないんです」。大阪地裁の廊下で、私は何度も頭を下げた。大阪の地下鉄駅で私が電車に接触・転落した事故を巡り、1999年に「転落防止対策が不十分」と起こした訴訟の口頭弁論でのことだ。 支援者たちは、法廷の外でじっと待っていてくださった。心苦しく感じながら、そんな人たちの存在に大き
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大事に育てたい「第3の目」=点字毎日記者・佐木理人
2023/10/6 02:01 823文字名刺交換で目からうろこの体験をした。点字付きの私の名刺を中途失明の男性に渡したところ、米アップルのスマートフォン「アイフォーン」のカメラで内容を読み取らせていた。翌日、その人からメールが届き「そんな方法があるんだ」と驚いた。 私もスマホのアプリで名刺の内容を読み取らせ、名前の漢字や連絡先を確認する
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いったい誰のもの!?=点字毎日記者・佐木理人
2023/9/1 02:04 817文字「そんな対応でいいのか?」。私のもやもやは晴れない。 12桁の個人番号(マイナンバー)などを記した通知カードの郵送が始まった2015年10月のことだ。1人暮らしの視覚障害者が、通知カードに書かれた番号の読み上げを買い物や家事をサポートしてくれるヘルパーに頼んだところ、断られたという。「プライバシー
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チャレンジの自由=点字毎日記者・佐木理人
2023/8/4 02:01 800文字耳から流れ込んでくる英文に意識を集中する。「終了」の合図に全身の力が一気に抜けた。 全盲の私は、大学生だった30年ほど前、英語能力測定テスト「TOEFL(トーフル)」にチャレンジした。海外の大学に留学するためだ。 当時のTOEFLは、点字では受けられず、口頭受検だった。問題文を読み上げ、回答を代筆
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すてきな二人=点字毎日記者・佐木理人
2023/7/7 02:04 813文字「視覚障害者の生活について調べてるんですが」。突然の電話に面食らった。全盲の私が大学生だった30年近く前のことだ。 当時は、関西の大学に通う視覚障害学生と点訳サークルで作る団体の会長をしていた。熱心な話しぶりに会う約束をした。 彼は翌年、私たちの団体に入り事務局長になった。彼が所属する大学の点訳サ
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変わる街の音=点字毎日記者・佐木理人
2023/6/2 02:05 818文字車のエンジン音が後ろから少しずつ近づいてくる。白杖(はくじょう)を使って路地を歩いていた全盲の私は、即座に道の脇に寄って立ち止まり、その車をやり過ごす。 私の横を通る時にドライバーが窓を開けて「ありがとうございます!」と声をかけてくれることがある。交差点で車と鉢合わせすると、私は手で合図して先に通
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細やかな情報保障=点字毎日記者・佐木理人
2023/5/12 02:01 823文字「窓ガラスを触ってみてください」。美術館のスタッフに勧められ、全盲の私は、1階壁面の大きな窓ガラスを順にそっと触っていく。円柱形の建物のデザインがよく分かった。 4月に休暇を取って妻と訪れた「金沢21世紀美術館」でのことだ。別の美術館の取材でお世話になった方たちが館内を案内してくださったので、仕掛
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「スマート」じゃない=点字毎日記者・佐木理人
2023/4/7 02:01 810文字全盲の私は、1993年に神戸の大学に入ってからキャンパスの近くで1人暮らしをした。長期の休みになると、電車を乗り継いで2時間近くかけて大阪の実家に帰った。 休み明けは、母が車に食料をいっぱい積んで神戸まで送ってくれた。白杖(はくじょう)を使って1人で歩くと多くの荷物が持てないため大変助かった。 あ
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