阪神監督の岡田彰布は力を込めて、絞り出した。

「野球は最後まで何が起きるかわからん。それが野球なんよ。だから…、あきらめたりはしない。ホンマ、何が起きても不思議でないんやから」。これは甲子園での巨人戦前のコメントだった。

8月31日、その通りの展開で勝った。巨人の戸郷から放った佐藤輝の3ラン、そして木浪のタイムリー。訪れたチャンスを逃がさなかった。そして月替わり。勝負の9月の初戦。9月1日のゲームで、チームとしての勝負手を見た。

相手投手はよみがえった菅野だった。戸郷同様、好機は多くはこない。すると1回裏、相手のミスからの2死一、二塁で4番大山がタイムリーを放った。打球は逆方向。右翼の前で弾んだ。菅野クラスを攻略するには、このバッティングだ。そう感じた。強引にいかず、逆らわない打撃。これを4番が実践した。大山は2打席目も右に安打し、3打席目も二塁ゴロ。すべて逆方向に打つのだが、これが菅野対策としてのチームの方針…。だが、そうではなかった。

大山だけが目立っていた。他は菅野のスピード、キレ、制球力にやられ、やがて強引さが出た。打線が束になって攻略する。やはり意思統一はなされていなかった。

逆に巨人はどうだったか。同点に追いついた場面では、阪神の西勇から岡本が右中間に二塁打を放ち、大城も反対方向のレフト線に逆らわないバッティングでタイムリーとなった。

さらに7回表の攻撃では小技を絡めて勝ち越しに成功した。走者が出てからのバントがキーになった。送りバントとスクイズだったが、巨人は狙いを三塁に定めていた。佐藤輝の前に転がす。守りが不安定な弱点を、巨人はわかっている。チームとして、やるべきことを選手が理解していた。その差が出た。この夜の勝敗は、チーム単位での方向性の差ではなかったか、と思わせた。

先に書いたように、まだあきらめる状況ではない。ただ、この「1敗」は取り返しのつかない重いものになった。チームがひとつになって、勝ち切った巨人と、一丸には遠かった阪神…。そんな印象しか残らなかった。

大山が示した菅野を崩す方策。これくらいに徹底して向かうべきところで、阪神ベンチは的確な指示を出していたのか。そこで問われるのが打撃コーチのコーチングのはず。もちろん打線としての方針があったはずだが、それが選手に明確に伝わっていたのか。そこが疑問に感じた。

上には広島と巨人がいる。2球団がこれから先、共倒れになることは考えづらい。それだけに極めて苦しい状態に陥ったタイガース。あきらめない…ために、チームがバラバラにならず、一丸で臨む。それを考えた9月1日だった。【内匠宏幸】(敬称略)