パリオリンピック(五輪)が12日に閉幕し、29日にパラリンピックが開幕した。このタイミングで公開された、1936年(昭11)のベルリン五輪男子マラソンに日本代表として出場し金メダルを獲得した孫基禎さんの実話を元に描いた、この韓国映画を鑑賞する意義はあるだろう。

孫さんは五輪当時、韓国が日本の植民地だったため、銅メダルを獲得した先輩の南昇竜さんとともに日本名で出場。当時の世界最高記録2時間29分19秒2で優勝したが、記録は日本のものとされた。映画は孫さんが戦後、南さんから貧しいながら能力が高いソ・ユンボクを育成し、本名でボストンマラソンに出場させようと持ちかけられるところから始まる。韓国は難民国とされ国際大会に出場できず、米国入国も高額の保証金がいるなど壁がある中、乗り越えていく姿を描く。

人間ドラマだが、抜きつ抜かれつのボストンマラソンのシーンをはじめスポーツエンターテインメントとしても見応えがある。準備から4カ月かけボストンを再現したニュージーランドでの大規模ロケ、当時の写真を使って再現した運動靴などの衣装に、VFX(視覚効果)を絡めた映像は壮大だ。カン・ジェギュ監督は、徹底取材と資料の洗い出しで浮かび上がった史実を落とし込んだ脚本と妥協のない撮影で定評がある。

1日に都内で行われた試写会は満席の盛況ぶりだった。この映画をエンターテインメントとして真っすぐに受け止めた観客の姿に、日韓両国の関係改善に必要なものを見た思いだった。【村上幸将】

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