【朝乃山を追う:23年九州場所〈下〉】「来年は30歳。あきらめないで頑張りたい」
大関経験者の朝乃山(29=高砂)は、2023年最後の本場所を4勝4敗7休で終えた。年頭に目標に掲げていた、年内の三役復帰にわずかに届かなかったものの、東前頭筆頭まで番付を上げたが初日から休場した。10月28日に広島市で行われた秋巡業で、左ふくらはぎを肉離れ。「左腓腹筋(ひふくきん)損傷で3週間の安静加療を要する」との診断書を提出し、7日目まで休場した。謹慎休場を除くと初日からの休場も、そこからの途中出場も初。途中、4連敗も喫したが、随所で存在感も見せた。
2021年5月に新型コロナウイルス感染対策ガイドラインの違反。6場所の出場停止処分を経て、三段目から再出発した朝乃山のドキュメント。今回は九州場所を振り返る。
大相撲
<九州場所東前頭筆頭:4勝4敗7休>下編 8日目~千秋楽
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死去した先代師匠の教え
足は震えていた。控えの土俵下。10歳で相撲を始めて以来、初めて経験する体の異変が、朝乃山の緊張を物語っていた。謹慎休場を除くと初日からの休場も、そこからの途中出場も初。土俵に上がっても足は震えたままだった。だが「思い切っていこう!」と、心の中で自らを鼓舞。時間いっぱいの仕切りで、ようやく震えが止まった。1年間、立ちたくても立てなかった本土俵。その最高峰、出場力士で番付最高位の貴景勝戦に臨める喜びを再確認すると、覚悟が決まった。
立ち合いから、まわしが遠かった。貴景勝の強烈な張り手にグラついた。それでも、ひたすら前に出た。初日10日前の11月2日に亡くなった入門時の師匠、先代高砂親方(元大関朝潮)から口酸っぱく言われてきた「前に出ろ!」の教えを忠実に守った。ようやく距離を詰めると、相手の方が焦ったように組みついてきた。押し込まれたが土俵際で下手投げ。2人とも土俵下に落ち、物言いがついた。だが、わずかに相手の方が先に落ち、行司軍配通りに勝ち名乗りを受けた。
「足が震えていたし、怖さはあった。でも攻めないとケガにも影響する。勝っても負けても前に出ようと思っていた」。前日は午後10時半に就寝。普段なら午前7時までグッスリと眠るが、この日は同4時に1度目が覚めた。前夜から無意識に体は緊張していた。
ただ、土俵では無意識に体も動いた。貴景勝には10月の秋巡業で4度も三番稽古に指名された。他の関取衆を差し置き、多い日は1日15番連続して相撲を取った。「(けがで)3週間、相撲は取れなかったけど感覚は残っていた」という。
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高田文太Bunta Takada
1999年入社。現在のスポーツ部ではサッカー(1)→バトル→五輪→相撲(1)→(5年半ほど他部署)→サッカー(2)→相撲(2)→ゴルフと担当。他に写真部、東北総局、広告事業部にも在籍。
よく担当や部署が替わるので、社内でも配った名刺の数はかなり多い部類。
数年前までは食べる量も社内でも上位で、わんこそばだと最高223杯。相撲担当になりたてのころ、厳しくも優しい境川親方(元小結両国)に「遠慮なく、ちゃんこ食っていけ」と言われ、本当に遠慮なく食べ続けていたら、散歩から戻った同親方に「いつまで食ってんだ、バカヤロー!」と怒られたのが懐かしいです。
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