今となっては30年以上前、中東の産油国、イランで革命が起きました。打倒されたのはパーレビ国王が代表する政府で、その政府を支援していたアメリカは、革命政府から「悪の手先」と罵られることとなり、当然のようにイランに滞在していたアメリカ人たちは人質として拘留されることとなったのです。

 いわゆる「イラン大使館人質事件」。アメリカ人にとってこの事件はパールハーバーに並ぶ歴史的トラウマで、なかなか映画にもできないようです。基本的に敗北エピソード だから作ってもあまり受けない、という判断があるのも無理はありません。
 私の知る限りこの件に関する映画は、イランから自社の社員を救出したロス・ペローさんの映画「鷲の翼に乗って」くらいでしょうか。

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 さて映画「アルゴ」でございます。



  いわゆる「実話をもとにしたストーリー」というヤツですね。

 先ほど書いたイラン大使館人質事件、イラン人に踏み込まれる前に大使館を逃げ出しカナダ大使館に匿われることになった6人のアメリカ人。彼らを救出するためにCIAが計画したのは

 B級SF映画の企画をでっち上げて、アメリカ人たちを「イランにロケハンに来たカナダ人スタッフ」ということにして出国させる

 という嘘のような脱出プランだった・・・。


 ここまで書くとネタバレもくそもないのですね。映画化の事実が結末を示唆してますが、ハッピーエンドでございます。
 
 この映画、何か変です。

 どう考えてもコメディ向きのストーリーなのに、演出はどシリアス、緊迫感溢れるスパイ映画になっています。さらにイラン人のあつかいが酷いです。やたらと残酷で凶暴、さらに手の込んだ手段で主人公たちを追い詰めるさまは頭がいい土人といった趣、なんかWW2映画のドイツ軍をより野蛮にした感じ、といえばよいでしょうか。
 オープニングでイランの歴史、特にパーレビという困った王様の酷さを描いているだけに本編との落差が気になります。

 そんなこんなでハラハラしながら映画が終了、エンディングで、実在の登場人物たちの写真が登場します。

 一体どこから探してきたんだ、といいたくなるほど実物と映画内のひとたちはそっくりそのままです。ここにいたってようやく気づきました。

 この映画は70年代の映画を忠実に再現しているんですね。

 つまり、1980年、もしこの 事件が表ざたになっていたら製作されていたであろう映画をあえて21世紀の今製作しているわけです。アメリカの映画製作技術の粋をつくして、当時つくられたであろう反イラン映画を。

 こうして考えてみると、イランに対して強硬な意見が出ている現在、この映画を作った意図が見えてきますね。


 特にラスト、協力してくれたイラン人女性の行動を見れば、何をかいわんや、といったところです。

 でもこれ、日本人には理解しにくいような気がするなぁ。

 ちなみにこの作品の対になりそうな作品がこれ

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 こちらも実話が元で、主人公は同じくCIAから表彰されます。こちらはコメディタッチでアメリカのアフガン戦略が描かれます。
 アメリカ人も反省したがってるんですかね。