先日の大分戦、「選手応援タオル」が配られた。すでに述べたとおり、所長は背番号30・金子翔太だった。王者の旗の時、それを掲げた。金子へのレクイエムのつもりだった。
個人的には、ここまでロティーナ清水での出番が少ない以上、この夏の移籍はやむを得ないだろうと、覚悟していたわけである。他方、J2、J3で、きわどい順位にいるチームで、金子を欲しいところはいくらでもあるだろうから、「良い形で話がまとまれば」と思っていた。
ただ、それにしても、磐田というのは意外だった。磐田自体は好調だが、J2優勝および自動昇格をさらに確実なものにするために、あと一駒欲しいという判断だったのだろうか。対する金子は、他のオファーも色々あったのではないかと想像するのだけど、家族のこともあるので、近場を優先したといったところか。
俗に言う「禁断の移籍」ということになるわけだが、今回の決定、個人的にはまったくOKである。レアルとバルサのようなビッグクラブじゃあるまいし、清水も磐田も、そしてそこに所属する選手も、皆それぞれに生き残るのに必死である。移籍の最適解が隣のクラブにあったのなら、それを活かせばいい。増してや、現時点ではカテゴリーも違うわけだから。金子の磐田での活躍を、心から願う。
さて、金子が清水の中で、ここ2~3年、出番を失ってきた原因を考えるに、残念ながら、彼がJ1のスペックに合わなくなってきたという現実があると思う。
元々、金子は体格で劣り、俊敏ではあるが、実は足も遅い。最近目立つようになっているのは、シュートが相手ディフェンダーに簡単にブロックされるシーンである。比べてはなんだが、オルンガだったら右足から左足に持ち替えただけで、相手を揺さぶることができる。ところが、金子は懐が浅いので、大きく切り返したりしても、全然相手を揺さぶれず、シュートブロックの餌食になる。
ここ2~3年で、Jリーグはフィジカルなリーグになってきたと思う。外国人枠の拡大で、大柄な選手が増えた。また、昨年からだったか、Jリーグはフットボールコンタクトを積極的に許容し、ちょっとくらいの接触では笛を吹かなくなった。これ自体は非常に結構なことだが、小柄なテクニシャンタイプの金子のような選手には、逆風だっただろう。実際、金子が、「ファウルでしょ」とセルフジャッジして、しかしレフェリーには笛を吹いてもらえず、その流れで清水が失点するような場面も見られた。
金子は、持久力はある方である。しかし、昨年から5人交代制が取り入れられ、金子のように「90分間走れます」という選手よりも、60分でいいから密度の濃いプレーができる選手の方が優先されるようになった。
金子にとっては、2年連続で、状況的に不利な面があった。というのも、2020年に清水に来たクラモフスキー監督は、マリノス出身だから、金子の主戦場である右サイドハーフ/ウイングに、MVP男・仲川の役割を期待しただろう。2021年に清水に来たロティーナ監督は、セレッソから移って来たから、右サイドハーフに、大ブレーク男・坂元の役割を期待したはずだ。それぞれ日本代表に登り詰めた仲川や坂元のプレー振りを、金子に期待するのは、酷というものだろう。金子はサイドでデュエルを仕掛けて勝ちまくるというタイプではなく、右サイドで金子にボールが渡っても積極的に行けず、バックパスするような場面が多くなってしまった。
金子が最も輝き、二桁得点を挙げたのは、2018年のヨンソン体制下で、右サイドハーフを務めた時だった。その時の役割は、幅をとって一対一を仕掛けるというよりも、神出鬼没にゴール前に侵入していくというシャドーストライカーに近い形だった。スピードやフィジカルで劣る金子にとって、そうしたステルス的なプレースタイルが一番合っていたのだろう。
では、現ロティーナ清水で金子にとっての最適ポジションはどこかと言えば、個人的には、現在、鈴木唯人がやっているサンタナの相棒のFWとして、前線のチェース役ではないかと思う。しかし、ロティーナはそのポジションでは金子を使わず、唯人の代役としてはむしろ後藤を使った。金子ではボールを奪った後の推進力がなさすぎるという判断だったのか。
そんなこんなで、残念ながらJ1のスペックには合わなくなり、清水というチームの状況からも不利な立場になった金子。上掲のYouTubeでのコメントを拝見すると、清水に在籍した1年1年を噛み締めるような、異色の内容となっている。半年間で、ロティーナ監督の構想には入れなかったわけで、よほどのことがない限り、清水復帰は難しいということを、本人も自覚している様子である。
「よほどのこと」というのは、磐田で5~6点とったという程度では不充分であり、「後半戦の磐田のMVPは金子だった」というくらいの活躍をしないと駄目だろう。清水としても、金子と同じようなポジションには、北九州の大悟や岡山の川本もいるわけで、将来性込みでより若い選手を選択するはずだ。
専門家の河治良幸さんは、「(金子は)ロティーナ監督の戦術との相性も少なからずあると思うので。本人は合宿で適応しようと頑張ってたけど。磐田の距離感と連動で崩していくスタイルにはマッチしている」とコメントしている。もちろん、清水の未来と金子の未来がずっと重なり合えば、我々にとっても一番幸せだったが、そうでなくなったとしても、金子の未来にエールを送るだけである。
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