脊髄損傷、患者が多いのは若者ではなく70代 「平地で転倒」が4割
脳からつながる神経の束である「脊髄(せきずい)」が傷つくと、傷ついた部位より下には脳からの指令が伝わらず、体の感覚も脳に伝わらなくなってしまう。どの程度のまひが残るかは、損傷の位置や程度によって一人一人異なる。
連載に登場した関口和正さん(57)は足が動かず、感覚も失う「完全まひ」となった。歩けないだけでなく、排泄(はいせつ)の障害など外からは見えにくい障害も残った。
本格的なリハビリは、全国に約2千ある「回復期リハビリテーション病棟」で行う。脊髄損傷では、診療報酬のルールで入院期間が最大150日(首の位置での損傷では180日)だ。1日にリハビリができる上限は3時間までになっている。
受傷から時間がたつと、戻らない機能と残された機能がはっきりする。リハビリも、損なわれた機能の回復から、残された機能で生活する訓練へと重点が移る。
東京大学病院リハビリテーション科の緒方徹(おがたとおる)教授は、退院後に自立して生活できるようになるためには、機能回復から生活訓練へいつ移るかが重要だという。「リハビリの開始時から、患者さんとのゴールの共有が大事」と話す。
退院後も、尿路感染や、座っている部分の血流がとどこおって皮膚がただれたり傷ができたりする「褥瘡(じょくそう)」を起こしやすい。関口さんの主治医で筑波大の清水如代(ゆきよ)准教授は「患者さんと並走しながら、医学的に生活をサポートすることが、リハビリに関わる医師の大事な役割」と話す。
この30年ほどで、脊髄損傷の年齢構成や原因は大きく変わった。
日本脊髄障害医学会の1990年代の調査では、20歳前後と60歳前後の患者が多かった。主な原因は交通事故(約44%)▽転落(約29%)▽転倒(13%)だった。
一方、2018年の調査では、70代に一つだけピークがある形に変わった。主な原因も、平地での転倒がもっとも多く約39%を占め、交通事故は約20%に減った。
年齢別に原因を見ると、交通事故は20代で約4割を占めるが年齢が上がると減った。平地での転倒は年齢が上がるにつれて増え、70代では約4割、80代では5割超を占める。
10代ではスポーツが約4割で最多だった。
18年の調査結果からは、年間に人口100万人あたり49人が脊髄損傷になると推定されている。
東大病院の緒方教授は、「今後、中高年の転倒による脊髄損傷の予防やリハビリが重要」と話す。一方、回復期病棟の中で若い患者が少なくなり、年齢が近い「先輩格」の患者が周囲にいないケースも増えると予測する。「専門性を高めるなどの工夫が、今後は必要になるかもしれない」と指摘する。(野口憲太)
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