「ずっとここがいい」取り戻した尊厳 長期入院後「瞬間の幸せ」重ね
今年2月、男性が静かに息を引き取った。79歳、老衰だった。手を握りしめ、「大丈夫だよ」と声をかけ続けたのは、約9年暮らしたグループホーム「おきな草・福寿草」(横浜市)の職員だった。
半世紀、病院に
男性は10代で統合失調症を発症し、精神科病院の入退院を繰り返した。20歳からの入院は約50年に及んだという。年を重ねて介護が必要になり、病院側の勧めもあって特別養護老人ホームに移ろうとしたが、待機者が多くて入れず、家族も受け入れが難しかったという。
そんな男性を迎えたのがこのグループホームだった。
看護・介護からみとりまで――。そんな理念を掲げ、高齢の精神障害者を受け入れ、24時間365日、職員が支えている。
「瞬間の幸福」の積み重ねと、「かかわりの質」を常に問い直す姿勢は、長期入院せざるを得なかった人たちの「人間としての尊厳」にどう向き合うべきかを問いかけている。
現在暮らすのは、52~86歳の男女16人。大半が精神科病院で10~40年ほどの長期入院を経て入居している。亡くなった男性もそんな一人だった。
「言葉を発することが難しく、我の強い少年のような方でした。きっと、おきな草の穂のように飛び立って行ったのだと思います」
2014年にホームを設立し、昨年まで管理者を務めた精神保健福祉士の櫻庭孝子さん(74)は、撮りためた男性の写真を見つめて思い出を語った。
男性が青年期だった1960年代は、民間の精神科病院が増えた時期に重なる。68年には、日本が世界保健機関(WHO)の顧問から長期入院を改善するよう勧告を受けた。
国が「入院医療中心から地域生活中心へ」との方針を示したのは2004年。男性はすでに60代になっていた。
寄り添い、「人間の底力」引き出す
ホームに入居した当初は声を…