朝、尊敬する妻の息は止まっていた 心臓を脂肪がむしばむ病、知って

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鈴木智之
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 患者812人のうち120人が既に亡くなった(2023年12月時点)。

 中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)という病気は、大阪大学の医師が08年に見つけた。医師は治療法の開発とともに、「一人でも多くの方に知っていただきたい」と訴える患者、家族らと難病への指定を求め奔走している。

 TGCVは、中性脂肪が心臓の筋肉や血管に蓄積していく病気。蓄積の結果、心不全や心筋症、狭心症などを引き起こす。主に成人以降に胸痛や息苦しさ、むくみ、疲れなど、様々な症状がみられるという。

 患者会の共同代表を務める千葉県印西市の会社員望月稔仁(としひと)さん(65)は22年2月に、この病気を抱えていた妻和代さんを亡くした。

 「1人の人間として一生をともに歩みたいと思える人でした」

 責任感が強く、活動的で、考え方は柔軟。ポジティブで人生を楽しむ和代さんを、望月さんは人として尊敬していたという。

 和代さんは18年にTGCVと診断を受け、19年には治験で体調を持ち直したものの、その後は徐々に悪化した。

 補助人工心臓の手術を勧められたが、迷いなく断ったという。手術には合併症のリスクのほか、車の運転や旅行、入浴など人生の楽しみに対する制限もあった。

 「想像できないほどの命をかけてのせめぎ合いをしていたのだと思いますが、私にさえ、その姿は見せませんでした」と望月さん。「生きることを諦めたのではなく、逆に未来の人生の期待から出した決断だと確信しています」

 亡くなるまでの1年ほども、今までなら聴かなかった音楽に触れるなど、人生を楽しもうとしていた。

 しかし、和代さんは突然亡くなった。朝、起こそうとしたが、手足は冷え、何度呼んでも返事はなかった。63歳、心不全だった。

 TGCVを発見したのは阪大の平野賢一特任教授。04年から阪大病院循環器病棟の現場の責任者を務め、「原因不明の心臓病のメカニズムを解明し、内科的治療を開発して、目の前にいる患者さんを助ける」ことを目標にしていた。

 内科的治療に期待する背景には、心臓移植のドナー不足があった。

 阪大病院には、重症心臓病の最終的な治療として心臓移植を求める患者が全国から来院していたが、待機期間が3年以上に及んでいた。

 平野さんは移植待機中の患者の細胞を調べた。すると、心臓本来のエネルギー源である長鎖脂肪酸が代謝できず、中性脂肪が蓄積するケースがあるとわかった。

 治療につながる発見もした。中鎖脂肪酸の一つであるカプリン酸を添加すると、細胞内の中性脂肪が減る。体内でカプリン酸になる「トリカプリン」というココナツオイルやミルクに含まれる成分をもとにした薬の開発を進めた。現在は治験の最終段階が進んでいる。

 「平野先生であれば、必ず治…

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この記事を書いた人
鈴木智之
科学みらい部|大阪駐在
専門・関心分野
科学、交通、難病