(社説)日本人男児死亡 中国は学びの安全守れ
起きてはならない惨劇が再び起きた。中国・深センで日本人学校に登校中だった10歳の男児が刃物を持った男に襲われ、病院で治療を受けていたが死亡した。中国側は捜査に全力を挙げるとともに、子どもの安全を守る方策を万全にしてほしい。
中国では6月にも江蘇省蘇州で日本人学校の送迎バスが襲われ、日本人の母子が負傷し、バス案内係の中国人女性が刺されて亡くなる事件があった。
中国で暮らす多くの日本人になじみ深く、最も安全であるべき日本人学校にかかわる場所で相次いだ事件に、現地の日本人社会が不安を募らせるのは当然だ。
だが、蘇州の事件では日本人を標的にした犯行かどうかも含め、動機など事件の核心部分について中国側から十分な説明がないままだ。この状況が今回も続くようでは不安は払拭(ふっしょく)されないし、必要な安全対策も立てようがない。
両事件とも容疑者はすぐ拘束された。いずれも現場は市街地で監視カメラの映像もあるはずだ。中国側には情報公開と説明を強く求めたい。
深センの事件が起きた9月18日は、1931年に満州事変が始まった「国恥の日」として中国では記憶される。日本政府が事前に日本人学校の安全対策を中国側に促していただけに、事件を防げなかったのは残念でならない。
現時点で事件を「反日」と直結させるのは戒めたい。ネットで反日的な言論を拡散する中国人はいるが、一部にすぎない。今の中国社会で日本への印象が悪化しているとはいえず、世論調査によれば、日本に良い印象を持つ中国人の比率はむしろ上昇傾向にある。訪日客の増加などが影響しているのだろう。
多くの中国人が事件に心を痛めていることも忘れるべきではない。中国のSNSには犠牲者を追悼するメッセージが並んでいる。
中国国内には日本人学校が11カ所あり、ほかに補習校もある。1990年代から日本企業の進出が本格化し、すでに中国の大都市で日本人社会は定着したといえる。
他国と比べて中国は治安も良い方だ。とはいえ、事件に巻き込まれるリスクは常にあり、中でも子どもは一番弱い立場にある。最近の景気の低迷が治安に悪影響を及ぼすことも考えられる。
蘇州の事件後、日本人学校では見回りなどの警戒を強化していたという。だが学校独自の対応には限界がある。日中両政府は協力し、子どもたちが安心して学べる環境を早急に整えてほしい。
- 【視点】
この事件そのものを「反日」と連想させるのは戒めるべきだが、「反日」の言説がネット空間にあふれていることをどう分析するのか。言論を厳しく統制している中国で、「反日」的な発信や、フェイクニュースさえも野放しになっている。その現状こそが問題ではな
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