将軍曰く『秋刀魚は目黒に限る』
焼き魚は、炭火で焼ければそれにこしたことは無い。
とくに秋刀魚は、七輪でモウモウと煙を上げて焼くのが一番・・・とは言え、現代の一般住宅では、余程庭の広い一軒家でもなければ無理。
隣家と接していたり、まして集合住宅では、願うだけ・・・グリルでさえ気が引ける。
秋刀魚は、ほかに秋光魚とも、銅况魚などと書くが、いずれも体形の細さと光る皮肌を刀に見立てている。
元は細さから“狭真魚(さまな)”からと言われ、関西では“サイラ”と呼ぶところもある。
近海物は、9月末から10月にかけてが旬で、とくに房州沖のものが美味しいと定評がある。
この時季は『秋刀魚が出ると、按摩が引っ込む』と言われるくらい、栄養価も高く、脂肪に富んで美味。
尾の付け根の辺りが黄色くなるほど、脂の乗った秋刀魚ならばこそ、炭火でジュウジュウいわせて焼きたい・・・焼き立てに大根下ろしをたっぷり添え、いい醤油で食べる醍醐味・・・庭の広い方は、ぜひ七輪で。
『秋刀魚、苦いかしょっぱいか』と、佐藤 春夫の詩でも思い出し、“青い蜜柑をしたたらせ”も良し、内臓のほろ苦さも味わいながら、存分に秋の味覚を楽しもう。
塩焼き、付け焼き、味噌焼き、蒲焼などのほか、煮付けもいいし、バター焼きやフライ、唐揚げ・・・何にしても美味しい。
一夜干しもまたいける。鮮度が良ければ刺身、締め秋刀魚、マリネにも。
秋刀魚の当て字に“三馬”というのもあるが、これでは落語に出てきそう。
落語で、思い出したが『目黒の秋刀魚』という噺がある。
あれは、実話がもとになっていて、三代将軍・家光が、鷹狩りの折に空腹から、目黒村の茶店に立ち寄り、そこで焼きたての秋刀魚を食べて大層気に入ったと言う話。
将軍は「秋刀魚は目黒に限るのぉ」と言ったそうだが、日頃は冷めて味の落ちた秋刀魚を食べているのだから、焼きたての美味しさにビックリしたのだ。
目黒では、秋のイベントとして、焼いた秋刀魚を振舞っている。
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