性別役割意識、制度が正当化 遺族年金55歳未満の夫不支給を考える

有料記事Re:Ron×コメントプラス

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 妻を過労死で亡くしても、夫は55歳未満だと遺族補償年金を受け取れない――。そんな制度に一石を投じる動きを報じた記事に、SDGsジャパン理事の長島美紀さんはコメントプラスで「なぜこうした法規定が今なお残っているのでしょうか」と問いかけました。背景には根強い性別役割意識があると指摘する長島さんの寄稿です。

    ◇

規定の前提となっている「男性稼ぎ主モデル」

 「え、いまどきそんな規定あるの?」

 遺族補償年金の受給要件として妻は年齢を問わないのに、夫は55歳以上と制限している労働者災害補償保険法労災保険法)の規定は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとして、妻を過労死で亡くした男性(54)が近く行政訴訟東京地裁に起こす、という記事を読んだとき、びっくりして何度も読み直しました。

 読み返しながら改めて感じたのは、日本では「夫が稼ぎ、妻を扶養する」という「男性稼ぎ主モデル」を体現するような法律による規定は、この労災保険法に限らず、今なお根強く残っているということです。例えば、厚生年金加入者が亡くなった場合に配偶者らに支給される遺族厚生年金でも、受給要件が性別によって異なっており、今年7月に厚生労働省社会保障審議会の部会で見直しが始まりました。最近話題になっている、年収が一定額を超えるとパート労働者らの手取りが減る、いわゆる「年収の壁」問題もそのひとつと言えます。

 しかし、そもそも、なぜこうした規定が今も残っているのでしょうか。

 ひとつは、私たち自身の意識が今なお、「夫が主たる稼ぎ手で妻が従たる稼ぎ手(もしくは扶養される存在)」という従来の価値観に縛られていることです。内閣府が2022年度に実施した、「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査」の結果を見ると、男女ともに最も「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合が高かったのが、「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」(男性48.7%、女性44.9%)でした。

20代男性にも根強く残る性別役割意識

 先日、大学でジェンダーに関…

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    能條桃子
    (NOYOUTHNOJAPAN代表)
    2023年11月21日11時30分 投稿
    【視点】

    この数年で、専業主夫を選択するカップルが私の周りに数組生まれました。みんな口を揃えて言っているのが、この遺族年金問題です。 男性は稼ぎ主がいなくなっても仕事をすればいいのだから保障はいらない、女性は稼ぎ主がいなくなったら困るから保障が必要

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    畑山敦子
    (朝日新聞Re:Ron副編集長・記者)
    2023年11月22日10時23分 投稿
    【視点】

    長島さんが指摘されているように、すでに共働き世帯が専業主婦世帯を上回って久しく、女性が主に家計を担う場合も珍しくない中、「男性稼ぎ主モデル」前提の社会保障制度が変わらないこと、変わらない背景にあるアンコンシャス・バイアスなど、根が深い課題で

    …続きを読む
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