対話不足の「過剰な配慮」、障害者雇用の発展阻む コンサルが指摘

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聞き手・金沢ひかり
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バリアーをなくすのは誰か③ 障害者雇用コンサルタント・黒原裕喜さん

 障害者の社会的バリアーを除くため、事業者にも義務づけられた合理的配慮。先天性の脳性まひをもつ当事者であり、障害者雇用のコンサルタントとして企業、求職者の双方に助言する黒原裕喜さん(37)は、実践的な「配慮」をどうとらえているか、聞きました。カギは、「過剰な配慮」をなくすことだと語ります。

 ――コンサルタントとして独立したのは昨春。それまで、ご自身も障害者雇用として外資系の医療機器メーカーに15年間働いていたそうですね。

 人事部で採用業務を担ったり障害者雇用のチームをマネジメントしたりしていました。コンサルタントとして現在は、障害者雇用を進める企業の相談に乗ったり、求職中の障害者のキャリアカウンセリングをしたりしています。

 ――障害者雇用について、企業側から聞く悩みは。

 人事担当者と話していると、腫れ物に触るような感じを受けることが少なくありません。

 障害者に「過剰な配慮」をしないといけない、と思ってしまっている。よく聞くのが、「どこまで聞いていいのかわからない」という悩みです。

 ――それは、コミュニケーションを取り始める最初の段階ということでしょうか。

 特に採用前、面接時のコミュニケーションでそのような悩みが出てくるようです。

 健常者の面接でも、どこまで質問していいのかというのは厚生労働省がガイドラインをまとめています。

 障害者もベースは同じなのですが、健常者の場合は身体的なことは聞いてはいけないことになっています。一方、身体障害者を雇用したいときには聞く必要がありますよね。

 なぜ聞いていいのかというと、企業には安全配慮義務があるからです。それを聞かないと安全配慮ができないので、きちんと聞いて欲しいと、企業側には伝えています。

「すべき配慮」、わかりやすい人を取り合う現状

 ――踏み込んだ質問をすることにもなり、聞きにくさを感じる企業側の気持ちも理解できるところがあります。

 聞き方はすごく難しい。

 たとえば、うつ病の人の面接で、障害を持った経緯まで聞かないといけないこともあります。どのような時に気分が落ち込み発症したのかを雇用側が知ることで同じ環境になることを避けるために必要なことです。ただ、聞き方を間違えるとフラッシュバックを起こす可能性もあるので、専門家がサポートに入るのがいいと思います。

 逆に採用時にコミュニケーションがしっかりとれ、配慮すべきことなどが互いにすりあわせられていれば、入社後のミスマッチもなくなっていきます。

 障害者雇用の法定雇用率は段階的に引き上げられていますが、実態は、「すべき配慮」がわかりやすい人をとりあっている状況です。

 特に、身体障害者はバリアフリーの面を配慮してもらえたら、その他は健常者と同じフローで働ける場合が多い。一方で、身体障害以外の配慮は、配慮の仕方にかなり個人差があり、「難しい」と感じている企業が多い印象です。

 ――配慮の方法で、企業側から聞く悩みは他にありますか。

 「どう評価すればいいのか」というのもよく聞きます。

 従業員のパフォーマンスが低かった場合、それは障害に起因するのか、個人の問題なのかを判断しづらい、と。ただ、そこの評価をきちんとできなければ、障害者の働き方が発展していきません。

配慮すべきこと知るためにもコミュニケーションを

 ――その悩みにはどう答えていますか?

 例えば、障害者雇用の従業員に入力業務をお願いしたとき、人間の一般的なエラー確率よりも大幅に多いミスが出たとします。

 本人に視覚障害があり、視野欠損などで入力ミスを引き起こす特性があったら障害起因と言えるでしょう。でも、視覚障害がない車いすの従業員のミスであれば、それは障害起因ではない可能性があるので、指摘して訂正してもらわないと本人も「これでいい」と思ってしまうのでよくありません。

 ――個々の障害特性を理解する姿勢に欠けたときに起こりうる事例だと感じました。

 雇用している障害者がどのような特性を持っているのかをわかっていないと、何に配慮すべきかもわかりません。そのことを知るためにコミュニケーションを図ることは、「合理的配慮」のベースにあるべきことです。

 雇用の場だけでなく、いま広く求められていることでもありますよね。

 ――働く環境作りに障害者側はどう関わったらいいでしょうか。

 私としては、健常者側からの障害理解もそうですが、障害者自身が自分の障害を理解しないといけないと思っています。

 自分の特性を理解しきれないまま、「なんでもできます」と言ってしまったりする人も中にはいます。そうすると、企業側も合理的配慮なんてできなくなってしまいますよね。障害者のキャリアカウンセリングをするときには、「自己理解をしっかりして、できることとできないこと伝えないといけない」と話しています。その“棚卸し”に加え、欲しい給与に対して、自分ができる仕事内容を整理してから就活を始められるようにしています。

黒原さんの「過剰な配慮」を巡る考えの基盤には、保育園時代から健常者と共に過ごしてきた環境があります。小学校の入学式で、黒原さんの母親が友人に伝えた言葉とは。

 ――障害者雇用で働き始めるまで、黒原さんご自身は、どのような環境で過ごしてこられたのでしょうか。

 脳性まひの診断がついたのは…

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この記事を書いた人
金沢ひかり
デジタル企画報道部
専門・関心分野
若者、社会福祉、ウェブ
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    富永京子
    (立命館大学准教授=社会運動論)
    2024年5月5日8時50分 投稿
    【視点】

    先日、ある産業別組合のインタビューで、「待遇を改善するためにも色々ヒアリングを行いたいが、あまりに個人の事情にに踏み込んでパワハラ、セクハラだととられるのが怖く、労働者へのヒアリングが難しいという声が聞かれるようになった」というお話がありま

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