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初夏の夕べ、蛙の鳴き声が外に聞こえる。大きく開け放たれた窓から時折そよぐ風。窓から入った風は部屋を抜けて壁にあたり消えていく。薄灯の部屋でただぼんやりと横になっている。誰もいなくなった。妻も母も父も叔母も叔父も、みんな居なくなった。彼女らのことを段々と忘失していくことへの申し訳なさを感じながらただ時折そよぐ風にあたり横になっていた。寂しさは生まれた時から持っていた。結局は1人になることを幼い頃から...
隕石落下まで後数時間。その時あなたはどうする?これは地球最後の日を迎えたある夫婦の物語である。「後数時間だな、、おれはお前と一緒にいられて楽しかったよ。ユリ、いい人生だった。」ユリは頷きながら「わたしも貴方と同じ気持ちだよ。いい人生だった。ただ、、」うんん、なんでもない。いい人生だった。「ただ?なんだい?何か不満でもあったかい?」「まあ、そりゃあ、おれは三流でユリには苦労をかけっぱなしだったけども...
落ち葉が降っていた。 春先なのに落ち葉が舞っている。この季節に映える青々とした葉がハラハラと散っている。 濃い群青色をした葉が螺旋を描いて地に降っていた。春先の淡く色付いた地面が落ち葉により青く染まる。ユウコは落ち葉を降らす老木を見上げた。遥かな年月の経過を感じさせる、 こぶをたたえた老木はささくれ立ち、乾燥し、その生命力が残りわずかなものであるということをその容姿から告げていた。 ...
色々困難なことが重なった時期に気晴らしに描いたもの。好きなことは他にもあるが、一番エキサイトするのは、絵を描いた時。元々素質はあるらしいのだが(周りから認められて育ってきたのと、それなりな自信も持っているが)、あとは、技法だとかその道へ進まなければこれ以上は上達しないな、といったところ。油彩、水彩、細密画と試したり、そこから自分の伸び代を想像して見たりしたが、どれも感覚的に合わない。それで、どちらのタッチも表現できるアクリル絵具に落ち着いている。といって、そんなに描きまくったという形跡もなく、ごくごくたまに、気晴らしのために描くのであった。他にも満足したいことがあるので、後回になるのであった。…
狭い箱の中に閉じ込められている。 外に出ようと必死に中から扉を叩くが一向に開く気配はない。 無駄だと悟り、そのうちに叩くことをやめる。 長いこと箱の中で過ごしたので、そのうち外がどうなっていたのか忘れてしまった。 外の世界は季節が巡り春先になっているようだ。 随分昔に嗅いだ春の匂いが、箱の中にも入り込んで来る。 外は明るい陽光に照らされているのだろう、でも中はいつだって真っ暗...
メッセージはありません。通信を終了します。 黒いコンソールに白い文字でそう表示された。 事実だけを告げる冷徹なその言葉は、大きく期待を裏切るものだった。 僕はその言葉を1文字づつマウスでなぞって、現実を認識しようと努めた。 端末からは、バッハの無伴奏チェロ組曲第一番が流れている。 その大きく包み込む温もりを感じさせる旋律は、端末の持つ無機質さとあまりに対照的で、 隣...
沖合にある島を目指していた。大しけだった。海はうねりをあげて荒れ狂っている。 小舟は怒涛により何度も転覆の危機を迎えた。1つの怒涛を超えても息つく間もなく次の荒れ狂った大波が押し寄せてくる。小船は急流に飲み込まれる木の葉のように翻弄され続けた。 穂先を波に対して真っすぐに。大波を被りながらも、ただそれだけを愚直に延々と繰り返す。 大しけの日は監視が緩む。決行するにはこの日しかなかっ...
早く目が覚めた。午前4時半。 遠くに新聞配達のバイクの音が静かに聞こえている。 僕と新聞配達員しか存在していないと思わせるような静かな時間帯。 すこし寒い感じがする。ハロゲンヒーターをつけようとしたが手が届かない。 パソコンに向かおうとしたけどめんどくさくてやっぱりやめた。 しばらくの間、ベッドから部屋を眺めている。 外はまだ暗い。カーテン越しに外の暗さが解る。 机があって...
ここしばらく凝っている描く・書くこと。 パステルのクラスが終わってみたら、色えんぴつのクラスがやりかけだったことを思い出しました。 これはイカン!と続きを書き始めたので、今日はこのチラ見せです。 /Colorful life.カラフルライフ
特製サラダには生のラディッシュも添えた。 ラディッシュはつい今しがた庭の一角の菜園から採ってきたものだ。色とりどりの一皿にテーブルがいっきに華やいだ。町を訪れた客人たちが息を呑むのがわかった。 ラディッシュを摘んできた菜園は庭の東側にあり陽の光をより長く浴びた作物はよく育った。 土作りにはこだわりがあった。季節季節に有機肥料や石灰をまぶして土をよく混ぜる。リン、チッソ、カリウムがバ...
その時、リエは静かに泣いていたようだ。 僕には、リエが確かに泣いていたように見えた。 そんなとこ、僕は初めて見た。 泣かない女性だった。 それまでは涙を見せない女性だった。 そんな彼女が泣いていた。 僕はなんて言葉をかけたらいいのか、わからなかった。 そんなリエの隣で、無力に打ちひしがれた僕は、やはり同じように泣いていた。2人で泣いていると、僕のお腹がぐーっと鳴っ...
夢を見ていた。大きな風船に掴まってふわふわと町の空に浮かんでいた。上に下にをふわふわふわふわと繰り返しながら、町の通りをふわふわ進んでいる。風船の行きたい方向に行きたいように任せて、ふわふわ浮かびながら、長い時間、空に浮かんでいた。 下に降りたタイミングで、突然、知らない男がしがみ付いてきた。二人は定員オーバー、風船は再び浮かび上がることなく、地面に落ちて転がった。 私はその男の顔をみて、...
稲光を背景にコンピュータ制御の塔が映える。 稲光が光る度に、狂ったコンピュータが1秒間に80億回の計算を行う。 周期も計算結果も明らかに滅茶苦茶だが、コンピュータは稲光が光る度に同じ処理を繰り返す。 Error 88890163 稲妻がコンピュータを直撃した。 煙をあげたコンピュータはそれでも止まらない。 稲光が光り、狂ったコンピュータが制御する塔が照...
黄金虫はヒマラヤスギの樹上に巣をつくる。 黄金虫の甲殻は魔女の秘薬の材料になる。 黄金虫の甲殻とマンドラゴラとイヌサフラン、ヨウシュトリカブト、蝙蝠の頭、 猫の目から作った秘薬を焚くと狼に変身することができる。 フェンリルの夜。 魔女たちは狼に変身して村々を襲う。 ...
ある国の、ある地方に在る、ある暗い森の中にそれは在る。昼でも暗いその森のさらに奥深い場所に、甘い香りを放つ植物が在る。この植物は土壌の窒素とリン酸とカリウムを栄養素としない。この植物は動物や人間を捕食して生きている。甘い香りを放ち、被捕食者たちを幻惑してその花びらに閉じ込め、そして食べた。...
なにか違和感を覚えた。何かがおかしい。違和感の正体を探るべく、私はその部屋を見渡してみた。特に変わったようなものはない。ぐるっと部屋を見渡して、ふと天井に視線を移した。うねうねとした澱がびっしりと付着している。なんだ、これは。澱は突起物をつくり、それぞれの突起物は意識を持っているように伸びては縮み、うねうねと蠢いていた。...
この間から、ちょっとずつ買い足したり、ケースを作ったりしている、お気に入りの色えんぴつ 眺めて悦に入るだけぢゃなく、ちょっとずつ使ってま~す。 今日は、描いたものをチラ見せしますぅ。 /Colorful life.カラフルライフ