第3回研究室にひとりぼっち 「使い捨て」させない、雇い止めと闘う60代

有料記事研究者を「使い捨て」にする国

吉備彩日
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A-stories 研究者を「使い捨て」にする国

 研究室には、ところ狭しと装置や器材がならんでいる。

 かつては7~8人の共同研究者が行き来していたこの部屋に、いまは自分1人だけが残された。

 「野球チームが解散して、監督1人で試合をするようなもんです」

 60代の男性研究者はこの3月末まで、理化学研究所のチームリーダーだった。有期雇用の契約が通算10年を超えることを理由に、一度は雇い止めを告げられた。

 ところが「雇い止めは不当だ」と理研を相手取って裁判を起こした後、理研は方針を変えた。

 理事長特例により、「上級研究員」として2年間、契約が延長されることになった。

 研究室は継続して使うことができ、研究をサポートしてくれる技術支援員の2人も引き続き働ける。

 それでも研究チームは解散となり、まったく畑違いの研究チームに配属された。人手がない分、実験にはこれまでの2倍も3倍もの時間がかかるようになる。降格されたので、給料も3割減った。

 男性はがんの早期発見をめざ…

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この記事を書いた人
吉備彩日
くらし報道部|社会保障担当
専門・関心分野
社会保障、医療、共生社会
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    磯野真穂
    (東京工業大学教授=応用人類学)
    2023年5月10日11時50分 投稿
    【視点】

    組織は、公式な構造と非公式な構造に支えられ、一体感を保ちます。 前者は表向き大変きれいに整っている。けれども、後者の影響が大変強いことが日本の組織の特徴です。これは例えば太平洋戦争の日本軍の敗戦を分析した「失敗の本質」や、人類学者・中根千

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    蟹江憲史
    (慶應義塾大学大学院教授)
    2023年5月10日11時50分 投稿
    【視点】

    日本における研究環境の悪さ、雇用状況の悪さ、そして、そもそも研究へのリスペクトの低さは際立ってしまっています。大変残念なことですが、短期雇用の研究者があまりに多いのです。理由の一つは予算です。  研究を行う資金には3年、5年、そしてこ

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