(社説)教団と養子縁組 調査尽くし厳正対処を

社説

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 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者間の養子縁組をめぐり、厚生労働省が教団に法令順守を徹底するよう行政指導をした。信者向け出版物などの内容を適切なものに改めることも求めた。

 行政指導は昨年12月に続き2度目になる。今回は、これまでの調査や当事者への聞き取りを踏まえ、具体的な問題点を指摘した。信者間の養子縁組の実態や法令違反があったかどうかについては、捜査当局にも情報を提供し、調査を続けているという。

 日本が批准する子どもの権利条約や児童福祉法では、子どもは父母に養育されることが前提で、養子縁組は、実親による養育が困難または不適当な場合などに、子どもの最善の利益のために検討すべきものとされている。組織や教義のために行うといったことは到底許されない。

 また、18年に施行された養子縁組あっせん法で、あっせん事業は都道府県知事の許可制になった。無許可の場合は懲役1年以下などの罰則がある。教団はこの許可を受けていない。

 一方で、教団は合同結婚式で結ばれた信者夫婦の子どもを「祝福2世」「神の子」などと呼び、子どもが複数いる信者から子どもがいない信者への養子縁組を推奨してきた。1981年以降、信者間で745件の養子縁組があり、このうち31件があっせん法施行後とされる。

 教団は、養子縁組はあくまで信者同士が行っていると説明している。だが、厚労省は今回、信者向けの出版物に「子どもに恵まれない家庭のために養子を捧げることは美しい伝統」「子宝の恵みを受けた家庭は、子女の授からない家庭にも分かち合う責任」などの記述があることを問題視し、改善を求めた。

 また、信者同士が同意した後であっても、養子縁組が円滑に進むように世話をしたり、金銭の授受がなくても一定の目的をもって反復継続的に行っていたりすれば、あっせん事業に該当するとも指摘している。

 教団は指摘を真摯(しんし)に受け止めなければならない。さらなる実態の解明にも誠実に協力するべきだ。

 「育てられるのに捨てるなら、いっそ産まないでほしかった」「何が悪くてひとりだけ捨てられたのかと考えてしまう」――。厚労省には、養子になった当事者から切実な訴えが寄せられている。

 子どもの人権にかかわる重大な疑惑でありながら、メディアを含めた社会の関心や行政の目が長年届いていなかったのは、極めて深刻な事態だ。調査を尽くして全容解明を急ぎ、厳正に対処しなければならない。

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