恐怖の中、大切な人に伝えた言葉を思う 沈没事故の現場で感じたこと

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神村正史 上保晃平
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 昨年12月に公表された運輸安全委員会の報告書は、小型観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が知床岬沖で折り返し、復路で沈没したことを明らかにした。カズワンは折り返し地点までは、予定より7分しか遅れていなかったこともわかった。しかし、その約1時間後、「カシュニの滝」沖で沈没した。

北海道・知床半島で1日、小型観光船の知床岬をめぐるコースが再開されました。昨年4月に起きた観光船「KAZUⅠ」の事故後、初めての運航となります。発生時から取材を続けた記者、今春に札幌に赴任した記者の2人が船に乗りました。

 記者は、カズワン沈没事故の被害者を捜す捜索ボランティアの隊員でもある。知床岬コース運航初日に乗船した記者は、復路で知床岬から沈没現場にいたる間、ずっと事故被害者のことばかり考えていた。

 午前9時少し前にウトロ漁港を出港した「ゴジラ岩観光」運航のカムイワッカ88は、午前10時12分、往路で「カシュニの滝」前についた。

 乗客らが一斉にカメラやスマートフォンを滝に向ける。ここはカズワンの沈没現場のそばに位置する。沖から寄せてくる小さなうねりが生き物のように、船速を落とした船を上下左右に揺らすと、明るい笑顔を見せていた乗客の表情が心なしか曇ったように見えた。

 この滝の前から、折り返し地点である知床岬沖まではあと30分ほどだ。

「どうして逃げ込まなかったのか」

 午前10時44分、知床岬沖…

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この記事を書いた人
上保晃平
北海道報道センター|事件・司法担当
専門・関心分野
人権、社会保障、障老病異