第3回「悪魔」が奪った日常、幼子の手握れなくなった私「元には戻せない」

有料記事クラスター弾 「悪魔の兵器」が残した傷

セルビア南部コパオニク=高野裕介
【動画】かつて北大西洋条約機構(NATO)軍によってクラスター弾が投下され、今もその影響が残るセルビア=高野裕介撮影
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 98・7%――。安全だとされる確率だという。

 標高約2千メートルの山の頂。深緑の木々に覆われた山肌に、ハーブが生い茂る。歩を進めようとした記者に、ボバン・クランディッチさん(51)がやめるよう促した。

 「爆発の危険は決してゼロではないので」

【連載】クラスター弾 「悪魔の兵器」が残した傷

「悪魔の兵器」と呼ばれるクラスター弾。非人道的な殺傷力から、多くの国が使用や生産を禁止する条約に参加しています。ロシアの侵攻を受けるウクライナで使用されていますが、今も残る傷に苦しむ人もいます。

 ここはウクライナのような「現在進行形」の戦場ではない。スキー場のリフトが並び、観光客らが訪れる高原のリゾート地だ。

 1999年。この場所にクラスター弾が投下された。多くの場所で除去作業を終えたが、四半世紀近くが経つ今も、不発弾による「汚染」の恐怖は消えてはいない。

 旧ユーゴスラビアセルビア南部コパオニク。北大西洋条約機構(NATO)軍は当時、セルビアの自治州だったコソボの独立をめぐる紛争に介入し、空爆でクラスター弾を使った。

クラスター弾

 親爆弾と呼ばれる大型の砲弾から、子爆弾と呼ばれる数十~数百個に及ぶ小型爆弾が空中で飛び散り、サッカー場数面分ともされる範囲を攻撃できる。一方で範囲が広いために民間人を巻き込んだり、その場で爆発しなかった子弾が何年も後に爆発したりする危険もある。

 セルビア側は不発弾として残った子爆弾による被害を食い止めるため、専門の技術を持った軍関係者らが除去作業にあたってきた。クランディッチさんもそのメンバーだった。

 ただ、クランディッチさんによると、コパオニクではこれまで、除去作業中に4人が亡くなり、13人が負傷した。

 「NATOの攻撃で落とされたクラスター弾の除去中に死亡」

慰霊碑に記された人たちの名前

 頂上付近には、2012年夏の除去作業中に犠牲となった人の慰霊碑がある。空爆から10年以上が過ぎているにもかかわらず被害は残る。

 旧ユーゴ軍のスラジャン・ブチュコビッチさん(57)は、作業中に負傷した一人だ。

 「たばこに火をつけてくれませんか? ほら、手がこういう状態なので」

ブチュコビッチさんの身に何が起きたのでしょうか。壮絶な当時の状況を語ります。

 ブチュコビッチさんは記者に…

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この記事を書いた人
高野裕介
国際報道部次長|欧州、中東
専門・関心分野
中東、紛争、外交、国際政治
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