トランプ氏はなぜ「風車」を憎む? 富豪の強欲と狭量 NYTコラム

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ポール・クルーグマン

 米国のトランプ前大統領ドン・キホーテではない。だが、風車に対してかなりの敵対感情を抱いている。

 トランプ氏の風力発電に対する敵意は、人が持つ多くのこだわり(トイレもそう! ヘアスプレーもそう!)のなかでも最も奇妙なもののひとつである。彼は長年にわたり、風力タービンはがんの原因になるだとか、電力不足の原因になるだとか、風力エネルギーは「すべての鳥を殺す」(それを言うなら猫と窓の方がはるかに害がある)などと、いい加減な主張をしてきた。そして今、11月の大統領選に勝てばその「初日」に、洋上風力発電所建設に待ったをかける大統領令を出すと言明している。

有力者の危険な狭量さ

 トランプ氏は根拠もなく、風力発電所はクジラを殺しているとも主張している。真偽はさておき、あなたがもし、彼がクジラのことを心配していると思うなら、「トゥルース・ソーシャル」(トランプ氏が設立したSNS)の株は買いかも知れない。

 トランプ氏の風車への思いはさておき、これは、前職大統領だからということにとどまらない広がりを持つ問題である。それは、多くの有力者が持つ並外れた狭量さと、それが米国の民主主義とこの惑星の未来の双方にもたらす危険性の問題である。

 まず、風についてひと言。再生可能エネルギーの技術はこの15年ほどの間に革命的な進歩を遂げ、太陽光や風力発電を基礎とする経済という発想は、ヒッピーの空想から現実的な政策目標へと変わった。再生可能エネルギーの発電コストが急激に下がっただけでなく、関連技術、特に蓄電池によって「太陽は常に輝き、風は常に吹くとは限らない」という問題が解決に向けて大きく前進したためだ。

 現代経済のほとんどすべてがそうであるように、再生可能エネルギーも環境に何らかの影響を及ぼす(たしかに、風力タービンに飛び込む鳥もいる)。しかしその影響は、化石燃料を燃やすことでもたらされるダメージに比べれば微々たるものだ。気候変動問題抜きに、微粒子窒素酸化物など大気中の汚染物質による健康影響だけに着目したとしてもである。

風車にまつわる「個人的な問題」

 ではなぜトランプ氏は、このように有益な技術の進歩を阻止したがるのだろうか? 実のところ、その動機は大した謎でもない。

 まず、強欲さだ。化石燃料産…

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連載ニューヨーク・タイムズ コラムニストの眼

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