「私は何をしてきたのか」国の過ちと優生思想、障害ある研究者は問う

有料記事ダイバーシティ・共生

聞き手・畑山敦子
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 障害者に不妊手術を強いた旧優生保護法憲法違反との判断を示した最高裁判決。旧法に奪われた障害者の人権や尊厳の回復、優生思想とどう向き合えばいいのか。先天性の小児まひがあり、倫理学、障害学の研究者である野崎泰伸さん(51)は、優生思想を鋭く批判しながら、「私自身にも優生思想はある」と言います。野崎さんが問い続けたいこととは。

 ――判決にどのような思いがありますか。

 立法目的である「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ということは、憲法の下であった明らかな不正義です。

 それが当時の社会状況にあっても許されない、立法時点から違憲だったとする踏み込んだ判決によって、障害者の人権、尊厳を回復する出発点に立てたと思います。除斥期間(不法行為から20年が経つと、加害者に損害賠償を求める権利が消失する民法の規定)も適用されず、原告の思いがやっとくみとられました。

 ――原告の方の言葉で注目されたのは。

 神戸市の原告の鈴木由美さんが「判決を第一歩に、障害者も当たり前に暮らせる世界にしていきたい」と話していたのが印象的でした。ようやく人間としての尊厳を回復するための一歩を踏み出せると感じているように受け止めました。

 私は神戸市の大学に通っていた頃、障害者の自立支援に取り組む拠点で鈴木さんに会ったことがあります。同じ脳性まひの当事者として、鈴木さんもさまざまな葛藤があるだろうと思っていました。

 それから時が経ち、5年前の2019年に鈴木さんが国を提訴した記者会見で、12歳の時に強制不妊手術を受けさせられていたことを初めて知り、衝撃を受けました。

 鈴木さんは結婚したものの、離婚していました。自身が希望していた人生が奪われたと判決で認められるまで、本当に長い道のりだったと思います。

 私自身が結婚や子どもを持つことについて否定的なことを言われたことはありません。ただ、障害のある知り合いの中には、親から結婚を反対されて悩んだ人もいました。鈴木さんや強制不妊手術の被害に遭った方を知る前から、障害のある人が「望ましくない生」と否定されることは決して遠くの出来事ではありませんでした。子育てを支える福祉制度が限られた時代であり、障害者が子どもを産み育てることを否定する社会の圧力は相当なものでした。

 この法律によって、どれほど障害者の存在が否定されてきたか。

能力主義と優生思想

 自分はここにいていいのか…

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この記事を書いた人
畑山敦子
デジタル企画報道部|言論サイトRe:Ron
専門・関心分野
人権、ジェンダー、クィア、ケア
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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年7月17日10時0分 投稿
    【視点】

    長い歴史のなかで人口問題と人権問題を結びつけてきた優生思想は、本当に手ごわい相手だ。日本の歴史を遡ってみると、“社会の進化”や“社会の優化”などを説く優生思想と、それに法律というお墨付きが与えられたことで強制不妊のような人権侵害が認められて

    …続きを読む
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    清川卓史
    (朝日新聞編集委員=社会保障、貧困など)
    2024年7月17日10時36分 投稿
    【視点】

     「 私自身にも優生思想は少なからずある」と語る野崎さんの言葉は重い。  数年前になるが、「優生思想」をテーマにした公開講座を取材した。講師は、安積遊歩さんだった。  安積さんは参加者に「あなたが障害者になるとしたら、どんな障害になりたいか

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Re:Ron

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