(社説)AIの防衛利用 リスクへの備え厳格に

社説

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 防衛省人工知能(AI)の活用を防衛分野でも推進するための基本方針を策定した。米中はじめ、世界中で急速に利用が広がる中、「新しい戦い方」に対応できるかどうかが大きな課題だとして、重点分野から情報基盤の整備、人材の確保・育成まで、包括的な考え方を示した。

 人口減少と少子高齢化の進展で隊員不足に悩む自衛隊にとって、AI活用は省人化・省力化にも資する。一方で、基本方針も明記するように、学習データの偏りによるバイアスや誤用・悪用のリスクもある。明確なルールを定め、厳格に運用する必要がある。

 重点分野は(1)目標の探知・識別(2)情報の収集・分析(3)指揮統制(4)後方支援(5)無人機などの無人アセット(装備品)(6)サイバーセキュリティー(7)事務処理。AIが行うのは「人間の判断のサポート」だとして、「人間の関与」確保の必要性にも言及した。その考えを貫いてもらいたい。

 AIが人を介さずに敵を殺傷する自律型致死兵器システム(LAWS)の登場が懸念されており、国際社会で規制に向けた議論が続けられている。日本政府は自らの開発意図を否定しており、国際的にも開発・使用は認められるべきではないとの文書を今年5月、国連に提出している。

 ただ、人間の関与があれば、AIの活用はヒューマンエラーの減少など安全保障上の意義があるとの考えも示している。AIによって戦闘のスピードが上がったり、激しさが増したりすることが想定されるなか、情報の誤りや偏りによって、偶発的な衝突や予期せぬ事態のエスカレートを招く恐れは否定できない。

 基本方針も掲げる「リスク低減」の取り組みに、どこまで実効性をもたせられるか。部隊や装備品など、具体的な状況に即して、議論を深めていかねばならない。

 基本方針にあわせて、サイバー人材育成・確保の総合戦略も公表された。入隊時からサイバー業務に継続的に従事する道筋を導入するなど、採用からキャリア形成、幹部育成に至る仕組みを改善する。外部人材を積極的に受け入れるため、任期付き自衛官や幹部への採用も打ち出した。

 防衛省・自衛隊は、サイバー専門部隊を27年度までに4千人に拡充し、関連業務を含む要員を2万人体制とする方針だが、社会全体でサイバー人材への需要は増しており、確保は容易ではない。施策の柱にあげる、民間と自衛隊の間で人材が行き来する柔軟な仕組みを本当に実現できるのか。待遇や機密保持を含めた具体策が問われる。

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