高橋宏斗と戸郷翔征の投手戦になったわけだが、いかに両投手の質が高いか、データが物語っている。高橋宏はこれで防御率は0・52。強固な中日の投手陣の中にあっても圧倒的な安定感を誇る。

一方の敗れた戸郷はこれで5敗目となったが、負けた試合の平均失点は2点。これはもうバッテリーの責任とは言えない。先発投手として十分に役割を果たしている。エースだけに、広島大瀬良やDeNA東ら、この日の高橋宏のように相手チームのエース格と投げ合うことになるが、これは宿命として受け止めるしかない。

私も現役時代、日本ハムのダルビッシュと対戦したが、どうにかして出塁しようとしたが、そうは簡単にいかなかった。もちろん、工夫して臨むのだが、それで打てるほど甘くはない。つまり、好投手を崩すというのは、それほどの困難さを伴うということはしっかり伝えておきたい。

そこでこの日の巨人打線だが、高橋宏のファーストストライクを56%の確率で振っていた。追い込まれる前にどんどん振っていく。私は何とかしようという意識の表れだと感じ、この姿勢は良かったと感じる。

淡泊さと積極的という表現は、私の中では同義語だと思っている。結果によって、打てば積極的と言われ、打たなければ淡泊だったと酷評される。そういうものだ。

巨人ベンチとして、ファーストストライクから狙って行ったのは決して悪くなかったと感じる。ベンチは走者が出ないと、采配を振るにも、やれることはかなり制限される。塁に出て、初めて高橋宏を揺さぶることができるが、そこまで至らなかったほど、高橋宏のピッチングは良かったということだ。

あえて指摘するならば、8回2死から泉口がヒットで出塁。ここで巨人ベンチは代走門脇で、打席の戸郷に替えて長野を打席に送った。ここは増田大を代走に、盗塁させてもと感じた。盗塁が成功したとしても、得点できたかどうか、そこは何とも言えない。それほどの高橋宏の出来だった。

巨人が優勝するには、エース戸郷の登板試合を落とさないという鉄則を守っていくしかない。この日のようになすすべもなく1点に泣く試合もある。

初回の両投手の立ち上がりを見て、ロースコアの展開になると確信した。かなりレベルの高い投手戦を見ながら、打線の苦悩とベンチのつらさが伝わってくるような試合だった。(日刊スポーツ評論家)

中日対巨人 巨人先発の戸郷(撮影・菅敏)
中日対巨人 巨人先発の戸郷(撮影・菅敏)