背番号「9」が、価値ある1勝を生み出した。金足農(秋田)・近藤暖都(はると)外野手(3年)が準決勝の秋田工戦で先発し、5回を3安打4奪三振無失点。6月25日に父の章さんが急死したが、気丈に、勢いよく腕を振った。左腕の好投に、打線は“お家芸”のスクイズを3度成功。7回コールド勝ちで、今大会ここまで全3試合完投していたエース吉田大輝投手(2年)の温存にも成功。決勝の秋田商戦を万全の状態で迎えることとなった。

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近藤が真っ白なプレートに両足を置いた。スタンドでは、カメラを持ちながら不安そうな表情の母幸美さん(53)と、穏やかな表情で写真に納まる父の章さん(享年52)が見守る。「めちゃくちゃ緊張しました」という1回2死三塁のピンチを切り抜けると、一息ついた後に大きく声を上げた。5回まで0行進を続け、4回には自身でスクイズも成功。試合の流れを大きく引き寄せた。

突然の別れだった。6月24日の組み合わせ抽選会で、17年に甲子園に出場した兄寿哉さんの母校であるノースアジア大明桜との対戦が決定。家族みんなで初戦を待ちわびた。だが章さんは翌25日、くも膜下出血で急逝。幸美さんは「『初戦から楽しみだな~』なんて言ってたのに。一番楽しみにしてた人が…」。関東の遠征も含めて息子の試合は皆勤賞。元高校球児で、少年野球の審判員を務める。そんな父だった。

暖都は自分を奮い立たせた。別れの翌日から「もう多分父なら練習行けって言うと思う。落ち込んでる暇はない」といつも通りユニホームを着た。母も「『行かないと(父に)怒られる』って。チームの指導者やみんなも受け入れてくれて」と明かす。バッテリーを組んだ相馬英典捕手(3年)は「心の中では落ち込んでるかもしれなかったんですけど、表では全然いつもと変わりない感じだった。一番は支えることが大事」。隣には仲間もいた。

ついに6年ぶりの甲子園まであと1つ。ユニホームに遺骨を忍ばせ臨んだ公式戦初登板で好投し、エース吉田を休ませて21日の大一番を迎える。出発前、父に手を合わせて言う言葉は決めている。「甲子園、決めてくる」。自らの手で聖地へ、また1歩近づいた。勝利の校歌が流れると、保護者が掲げる紫色のタオルと一緒に、章さんの笑顔も揺れていた。【黒須亮】