誰がこの物語を用意したのか-。日本航空(山梨)が1試合で「2度」のサヨナラ勝利を味わった。延長11回、最後は満塁から押し出し四球で4強入り。とはいえ、2人前の4番の雨宮英斗外野手(2年)が打った同点適時打に強烈な意味があった。「絶対に打ってやる」。一塁上で身を縮めてほえた。泣いた。打席でも潤んだ。打席前からはなをすすった。

「自分のミスでああなって。本当にすみませんって思いでいっぱいで」

9回裏の満塁機で中西海月外野手(3年)がサヨナラ打を打った…はずが、一塁走者の雨宮が「うれしくてうれしくて」と二塁を踏む前に歓喜の輪へと向かってしまい、帝京三側のアピールを経てフォースアウトに。白星が一瞬にして消えてしまった。

日本航空ベンチには納得できない表情も多く、感情を声に出す選手もいた。重い空気を金子優馬内野手(3年)が変えた。応援スタンドの仲間たちに向けて、思い切り声を張った。

「大丈夫、大丈夫。勝つよ!!」

頭を抱えて泣き崩れる雨宮の姿が苦しくてたまらなかった。「もらい泣きしました。先輩として絶対勝たなきゃなって」。延長11回、3番打者として四球を選ぶと、4番の雨宮へ視線を強く合わせた。無言でバットを差し向けた。絶対におまえが決めろ-。

日本航空、夏の主題は「きっと大丈夫」。劣勢でも何度もバントに徹した藤森友基主将(3年)など、個々の役割徹底が「きっと」を裏打ちする。豊泉啓介監督(39)が「優勝には何試合か奇跡を起こさないといけない」と選手に伝えた通りの奇跡が起こった。最後の押し出しでは二塁走者だった雨宮が、左足でグッと三塁ベースを踏みしめた。【金子真仁】

○…いわゆる「ドラフト候補」が出場しない19日の山梨大会2試合を、プロ5球団のスカウトが視察した。異例の光景について中日八木スカウトは「今は高校3年生は最終チェック、1~2年生の選手を探す時期でもあります」と説明。DeNA永池スカウトは「私はスカウト1年目なので。来年以降にどんな候補がいるのかも見ておきたいので」。この日は関東の高校野球は東東京、山梨のみの開催。とはいえスカウト陣も精力的に活動を続けている。

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