夫の実家(五) 03/21/2019
暫く滞ってしまいましたが、長らく滞っている夫(ネパール人)の実家での体験記の続きを書こうと思います。
「今更書くのもな~」
と思いつつ、途中で投げ出すのもなんなので、ゆっくりながらも書き上げます。
ご興味ある方はカテゴリのネパールをチラ見してみて下さい。
夫の村での生活3日目のことだった。
痒みで、早朝に目が覚めた。
初めは足の裏側が痒く、見ると、膝から下の足の裏側全体に赤い発疹が出ている。
「足の後ろに赤いブツブツが沢山あって、すごく痒いよ。背中も痒いんだけど、背中にも赤いのある?」
夫に言いうと
「ある、ある。背中も、たーくさんある。どうしたんだ?」
どうしたと言われても私にもわからない。
だがしかし、心当たりがなきにしもあらず。
当時私はアジアの貧乏旅行記なる本をよく読んでいた。
貧乏旅行だから、みなさんが泊まる宿は1泊数百円の激安宿で、そこに決まって登場するのが「南京虫」という虫である。
当時はスマホもなければネットも普及していず、『南京虫』を深く追求することもなく、恐らくダニのようなものだろうと勝手に想像していたのだが、これを書くにあたってネットで調べみたら、トコジラミであった。
とはいえ、トコジラミといっても、知らない。
シラミは聞いたことはあるが、トコジラミは初めてである。
そしてこの南京虫ことトコジラミに刺されると非常に痒いらしのだ。
「ねえ、ベッドに虫がいるんじゃない?きっと虫がいるんだよ。」
私が言うと
「ワタシのうちに虫はいません。ワタシの家族、みんな大丈夫です。」
自分の家に難癖つけられるのは夫もおもしろくないらしく、きっぱり言い放った。
とはいえ、この痒み、非常を通り越して、異常に痒い。
気が狂わんばかりの痒さとでも言おうか。
痒くて痒くて、虫がいるかもしれないベッドで、手の届く範囲を掻きむしりながら、のたうち回る。
そんな私を見て
「どこかで虫がついたのかもしれない。」
夫が「虫」を認め、
「今、着ている服は全部脱いで、他のに着替えろ。」
服を脱いだところで痒みがおさまることもなければ発疹も消えない。
時間がたつにつれて痒みは増すばかり。
午前中だったと記憶しているが、
「夜になったらドクターが来るから、それまで我慢して。」
夫が言う。
電気もガスも水道もなければ、店一件すらないこの村に医者がいるとは驚きである。
「ドクターがいるの!いるなら、夜じゃなくて、今すぐ診てもらいたい。我慢できないよ。」
と言う私に
「夜じゃないとダメなんだ。」
夫の実家は夜になると、人が集まる家だった。
この村に初めて来た外国人の私を見に来たのかもしれないが、毎日3、4人の男が来て、夫の父親と長々とお喋りをし、酒を飲み、夕食を食べて帰って行く。
その日も3人の男が来た。
その3人は私が村に到着した日から毎日来ていた男であり、前日、前々日同様、夫や夫の父親と喋ている。
「医者はいつ来るのー?」
医者を待ちわびていた私に
「今からこの人がアナタの痒いを治します。」
夫の言う「この人」は3人の中のひとりで、人を外見で判断してはいけないのだが、一番ひどい身なりをしているお爺さんであった。
肩より長い髪は、自然にできたドレッドヘアーとでも言おうか。
整えていないから、下の方で髪が絡みあい、団子状になっている。
全身黒の服は埃で灰色になっており、こう言っては悪いが、また今となっては死語であろうが、見た目は乞食である。
「本当に、本当に、この人が医者なの?」
と言う私に
「そうです。この人がこの村のドクターです。」
家の外に出、村のドクターは私にしゃがむように言う。
私がしゃがむと、村のドクターは私のすぐ後ろにしゃがみ、何事か唱え始めた。
ひとしきり唱えると、フーフーと後ろから息を吹きかける。
後ろからの息は、正直言ってあまり気持ちのいいものではない。
「これはマントラです。この人の言葉、誰もわかりません。この人だけがわかる言葉です。この人、すごいパワーがある人です。」
と夫が言い、村のドクターは呪術師だったのである。
マントラというのは、日本で言えばお経のようなものだと思われる。
マントラ&息の吹きかけは10分位行われ、終わると、村のドクターはポケットから小さな物を取り出し、私の手の平に置いた。
軟膏である。
「軟膏か・・・。」
なんだか拍子抜けであった。
と同時に
「この軟膏、塗っても大丈夫なのか?余計に悪化したりしないのか?」
心配になったが、ここではマントラとわけのわからぬ軟膏に頼るしかない。
発疹は体の後ろ側全体に出ているから自分では手か届かず、夫に軟膏を塗ってもらう。
呪術師に会ったのは、実は初めてではない。
ネパールの首都カトマンズでも呪術師に会い、診てもらったことがあるのだが、これを書き始めると長くなるので、この話はまた別の機会にしよう。
で、マントラの威力はどうだったかというと、効き目なし。
「ねえ、マントラなんて全然効かないじゃん。」
ボリボリと足を掻きむしりながら夫に言うと
「アナタの痒いには効かないのかも・・・。でも、マントラ、効きます。あの人、すごいパワーあります。これホント!」
と夫。
「何に効くのよ?」
「あの人、マントラから、人、殺せます。」
「殺せるの!じゃあ、嫌いな人、みーんな殺しちゃうじゃない!」
「ダ、ダメなんです。ネパール、マントラで、人、殺しちゃダメなことになっています。」
「じゃあ、パワーがあるかわからないじゃない。」
「・・・・」
暫し沈黙した後
「でもマントラ、パワーあります。これ、ホント。」
全然説得力がないのだが、夫がマントラを信じていることだけはわかった。
痒みが引き、発疹が消えるのに10日位かかり、自然治癒したと言えよう。
20年以上たった今でも原因はわからない。
しかしながら、私は今でも、原因は夫の実家のベッドだと思っている。
なぜって、ネパールの村はどこもあんなもので、いや、むしろ他所の家より夫の家はマシなのかもしれないが、それにしても村のベッドはアジアの激安宿と似たり寄ったりだ。
以前に書いたかもしれないが、ベッドといっても木で作った台の上に布団が敷いてあるだけで、その布団はえらく古いせんべい布団。かけてあるシーツは古いから汚れているように見えるのか、或は一度も洗濯をしたことがないのかはわからぬが、「えー、ここで寝るの!」と驚いたほどだったのだから。
数日前のことです。
その日は私は仕事、夫は休みでした。
帰宅すると、いつものように夫が出迎え、次に愛しのルビ君がサーッと肩に止まり、お出迎えしてくれました。
夫が休みの日は、どうやらルビ君は朝からずーっと放鳥され、一日中遊んでいるようです。
夕食時、ルビ君は決まって私達人間の食事に興味津々になり、すきあらば盗み取りしようと狙っています。
ルビ君の餌はペレットなのですが、ルビ君がしつこいので、夕食時だけ少量のシードを与えます。
シードを食べ、満足すると、ルビ君は部屋の高い所に夫がこさえた遊び場へ行き、遊んだり羽繕いしたりします。
夕食を終え、ゴロンと横になりながらテレビを見ていた夜9時半頃、パラパラと音がしました。
なんの音だろうと思いつつもテレビを見ていると、パラパラパラパラと音は続き、見ると、遊び場にいるルビ君が吐いているではありませんか。
「ルビ君、おいで」
と呼ぶと、ルビ君は下へ降りて来て、羽を膨らませぐったりし、そして助を求めるかのように私の手の上に乗ってきました。
「うわー、ルビ君、具合悪いんだ。どうしよう。」
と言う私に
「うーん、明日、病院に連れて行くしかないよ。」
と夫。
しかし、その明日は私も夫も仕事です。
それに夫は自分の病院も言葉が不安でいつも私が付き添っているくらいであるから、病院へ連れて行くのは私しかいません。
ここで悩みました。
午前中に病院に連れて行き、病院後出勤するかと考えましたが、病院は予約制で、いつも混んでいます。
午前中に予約が取れるとも限りません。
それに運よく午前中に診てもらえたとしても、具合の悪いルビ君を置いて仕事に行くのは不安です。
仕事に行き、夜の最終の時間に病院へ行くということも考えましたが、そうなると休憩時間に病院へ電話をするしかなく、これまたうまいこと最終の時間に予約が取れるとは限りませんし、仕事をしている間中、ずーっと心配でなりません。
なぜこんなに心配するかというと、私がルビ君を溺愛しているということもあるでしょうが、体の小さな小鳥は人間と違い、具合が悪くなると早いからです。
人間であれば1日様子をみるのでしょうが、小鳥の場合、1日様子を見ている間に死んでしまうこともあるようで、だから私はラニ君の時もそうでしたが、ルビ君に対しても体調面には敏感になってしまうのです。
翌朝、いつもならばギリギリまで寝ている私ですが、ルビ君のことが気になっていたので、いつもより早く目覚めました。
ルビ君を観察すると、昨夜よりは元気があるようなのですが、よくわかりません。
「大丈夫かな?仕事、どうしよう?」
などと考えながらルビ君を見ているうちに、刻々と時間はすすみ、
「もういいや。こんなに心配なのだから休んでしまえ。」
会社を休み、病院オープンと同時に電話を入れると、午前中は11時から手術が入っているらしく、それより前の時間は一杯で予約が取れず、一番早い時間で5時でした。
ルビ君はというと、午前10時頃から少し元気が出てきて、餌を食べ始めました。
前日の夜に殆どを吐いてしまい、お腹がすいたのか、ガツガツと食べ、一安心はしましたが、しかしながら心配なので病院にはかかることにしました。
診察室に入ると、まず体重を量ります。
35g。
先生に昨夜のこと、そして今は元気になったことを話すと
「食べすぎでしょう。」
「食べすぎ・・・。先生、インコが食べすぎるなんてこと、あるんですか!」
と驚くと
「あります、あります。」
食べ過ぎと聞いて思い当たることがありました。
ルビ君の餌はペレットで、毎朝私が計量スプーンで4gを量り、餌箱に入れます。
前日帰った来た時にルビ君の餌箱を見て、「あれ?全然食べていない。」と思い、きっと夫が私のいない間にたらふくシード(ルビ君の好きな殻付きの餌)を与えたのだと思ったのです。
吐いた餌もシードでした。
先生にそのことを言うと
「男ってそうなんですよ。食べると嬉しくなっちゃって、ついついあげちゃうんですよ。シードをあげちゃいけないわけではないのですが、あげても小指の先くらい、ほんのちょっとだけです。ご褒美にあげるくらいにした方がいいです。今も、少しオエッとしていますから、まだ少し気持ち悪いのでしょう。」
「先生、ここのところ33~34gだったのですが、3日前から35gなんです。これって、もしかして発情でしょうか?」
と聞くと、先生はニヤリと笑いながらルビ君の骨盤をチェックし
「少し開いていますねー。発情ですね。でも、今は他のヒトも発情の時期なんですよ。」
「先生、このままにしておくと、卵を産むのでしょうか?」
「卵を産むかどうかはわかりませんが、このヒトが年に2回の発情であれば、それは正常なことなので特に心配する必要はありません。」
「年に2回以上だったら、注射ですか?」
「いや、注射はしないで、ストレスをかけるとかで対処した方がいいです。」
「今の発情を抑えるのはどうしたらいいのでしょう?」
「まあ、今はみんなが盛り上がっている時期ですからねー。餌をあげすぎないことです。夜は餌箱を取ってしまってもいいです。」
「あと、この子、焼き芋の柔らかいところが好きみたいで、食べたがるのですけど、焼き芋はあげてもいいのでしょうか?」
「糖分がありますからね。焼き芋はあげないで下さい。」
「小松菜、ちんげんさい、豆苗とか、色々試しているんですけど、この子、野菜を食べないんです。ペレットを食べていれば、野菜はあげなくてもいいですか?」
「いやー、ペレットも完全食ではないですから、野菜はあげた方がいいです。タンポポとかハコベとかも試してみて下さい。」
胃薬と吐き気止めをもらって帰宅しました。
仕事から帰宅した夫に、私が怒ったのは言うまでもありません。
夫も心当たりがあったのでしょう。
「わかりました。今日からルビ君におやつ、あげません。」
いつまで続くかはわかりませんが、ルビ君は私達にとっては宝物です。
健康で長生きしてもらいたいので、私が夫を教育するしかなさそうです。
子供の時のルビ君の写真が出てきたので、記念に載せます。
まだ頭が黒く、お子様の顔です。
ルビ君はよく、この斜めの角度で「おやつ頂戴」とおねだりをします。
夫はこの顔に弱いらしく、この顔をされるとシードをあげたくなってしまうそうです。
「今更書くのもな~」
と思いつつ、途中で投げ出すのもなんなので、ゆっくりながらも書き上げます。
ご興味ある方はカテゴリのネパールをチラ見してみて下さい。
夫の村での生活3日目のことだった。
痒みで、早朝に目が覚めた。
初めは足の裏側が痒く、見ると、膝から下の足の裏側全体に赤い発疹が出ている。
「足の後ろに赤いブツブツが沢山あって、すごく痒いよ。背中も痒いんだけど、背中にも赤いのある?」
夫に言いうと
「ある、ある。背中も、たーくさんある。どうしたんだ?」
どうしたと言われても私にもわからない。
だがしかし、心当たりがなきにしもあらず。
当時私はアジアの貧乏旅行記なる本をよく読んでいた。
貧乏旅行だから、みなさんが泊まる宿は1泊数百円の激安宿で、そこに決まって登場するのが「南京虫」という虫である。
当時はスマホもなければネットも普及していず、『南京虫』を深く追求することもなく、恐らくダニのようなものだろうと勝手に想像していたのだが、これを書くにあたってネットで調べみたら、トコジラミであった。
とはいえ、トコジラミといっても、知らない。
シラミは聞いたことはあるが、トコジラミは初めてである。
そしてこの南京虫ことトコジラミに刺されると非常に痒いらしのだ。
「ねえ、ベッドに虫がいるんじゃない?きっと虫がいるんだよ。」
私が言うと
「ワタシのうちに虫はいません。ワタシの家族、みんな大丈夫です。」
自分の家に難癖つけられるのは夫もおもしろくないらしく、きっぱり言い放った。
とはいえ、この痒み、非常を通り越して、異常に痒い。
気が狂わんばかりの痒さとでも言おうか。
痒くて痒くて、虫がいるかもしれないベッドで、手の届く範囲を掻きむしりながら、のたうち回る。
そんな私を見て
「どこかで虫がついたのかもしれない。」
夫が「虫」を認め、
「今、着ている服は全部脱いで、他のに着替えろ。」
服を脱いだところで痒みがおさまることもなければ発疹も消えない。
時間がたつにつれて痒みは増すばかり。
午前中だったと記憶しているが、
「夜になったらドクターが来るから、それまで我慢して。」
夫が言う。
電気もガスも水道もなければ、店一件すらないこの村に医者がいるとは驚きである。
「ドクターがいるの!いるなら、夜じゃなくて、今すぐ診てもらいたい。我慢できないよ。」
と言う私に
「夜じゃないとダメなんだ。」
夫の実家は夜になると、人が集まる家だった。
この村に初めて来た外国人の私を見に来たのかもしれないが、毎日3、4人の男が来て、夫の父親と長々とお喋りをし、酒を飲み、夕食を食べて帰って行く。
その日も3人の男が来た。
その3人は私が村に到着した日から毎日来ていた男であり、前日、前々日同様、夫や夫の父親と喋ている。
「医者はいつ来るのー?」
医者を待ちわびていた私に
「今からこの人がアナタの痒いを治します。」
夫の言う「この人」は3人の中のひとりで、人を外見で判断してはいけないのだが、一番ひどい身なりをしているお爺さんであった。
肩より長い髪は、自然にできたドレッドヘアーとでも言おうか。
整えていないから、下の方で髪が絡みあい、団子状になっている。
全身黒の服は埃で灰色になっており、こう言っては悪いが、また今となっては死語であろうが、見た目は乞食である。
「本当に、本当に、この人が医者なの?」
と言う私に
「そうです。この人がこの村のドクターです。」
家の外に出、村のドクターは私にしゃがむように言う。
私がしゃがむと、村のドクターは私のすぐ後ろにしゃがみ、何事か唱え始めた。
ひとしきり唱えると、フーフーと後ろから息を吹きかける。
後ろからの息は、正直言ってあまり気持ちのいいものではない。
「これはマントラです。この人の言葉、誰もわかりません。この人だけがわかる言葉です。この人、すごいパワーがある人です。」
と夫が言い、村のドクターは呪術師だったのである。
マントラというのは、日本で言えばお経のようなものだと思われる。
マントラ&息の吹きかけは10分位行われ、終わると、村のドクターはポケットから小さな物を取り出し、私の手の平に置いた。
軟膏である。
「軟膏か・・・。」
なんだか拍子抜けであった。
と同時に
「この軟膏、塗っても大丈夫なのか?余計に悪化したりしないのか?」
心配になったが、ここではマントラとわけのわからぬ軟膏に頼るしかない。
発疹は体の後ろ側全体に出ているから自分では手か届かず、夫に軟膏を塗ってもらう。
呪術師に会ったのは、実は初めてではない。
ネパールの首都カトマンズでも呪術師に会い、診てもらったことがあるのだが、これを書き始めると長くなるので、この話はまた別の機会にしよう。
で、マントラの威力はどうだったかというと、効き目なし。
「ねえ、マントラなんて全然効かないじゃん。」
ボリボリと足を掻きむしりながら夫に言うと
「アナタの痒いには効かないのかも・・・。でも、マントラ、効きます。あの人、すごいパワーあります。これホント!」
と夫。
「何に効くのよ?」
「あの人、マントラから、人、殺せます。」
「殺せるの!じゃあ、嫌いな人、みーんな殺しちゃうじゃない!」
「ダ、ダメなんです。ネパール、マントラで、人、殺しちゃダメなことになっています。」
「じゃあ、パワーがあるかわからないじゃない。」
「・・・・」
暫し沈黙した後
「でもマントラ、パワーあります。これ、ホント。」
全然説得力がないのだが、夫がマントラを信じていることだけはわかった。
痒みが引き、発疹が消えるのに10日位かかり、自然治癒したと言えよう。
20年以上たった今でも原因はわからない。
しかしながら、私は今でも、原因は夫の実家のベッドだと思っている。
なぜって、ネパールの村はどこもあんなもので、いや、むしろ他所の家より夫の家はマシなのかもしれないが、それにしても村のベッドはアジアの激安宿と似たり寄ったりだ。
以前に書いたかもしれないが、ベッドといっても木で作った台の上に布団が敷いてあるだけで、その布団はえらく古いせんべい布団。かけてあるシーツは古いから汚れているように見えるのか、或は一度も洗濯をしたことがないのかはわからぬが、「えー、ここで寝るの!」と驚いたほどだったのだから。
数日前のことです。
その日は私は仕事、夫は休みでした。
帰宅すると、いつものように夫が出迎え、次に愛しのルビ君がサーッと肩に止まり、お出迎えしてくれました。
夫が休みの日は、どうやらルビ君は朝からずーっと放鳥され、一日中遊んでいるようです。
夕食時、ルビ君は決まって私達人間の食事に興味津々になり、すきあらば盗み取りしようと狙っています。
ルビ君の餌はペレットなのですが、ルビ君がしつこいので、夕食時だけ少量のシードを与えます。
シードを食べ、満足すると、ルビ君は部屋の高い所に夫がこさえた遊び場へ行き、遊んだり羽繕いしたりします。
夕食を終え、ゴロンと横になりながらテレビを見ていた夜9時半頃、パラパラと音がしました。
なんの音だろうと思いつつもテレビを見ていると、パラパラパラパラと音は続き、見ると、遊び場にいるルビ君が吐いているではありませんか。
「ルビ君、おいで」
と呼ぶと、ルビ君は下へ降りて来て、羽を膨らませぐったりし、そして助を求めるかのように私の手の上に乗ってきました。
「うわー、ルビ君、具合悪いんだ。どうしよう。」
と言う私に
「うーん、明日、病院に連れて行くしかないよ。」
と夫。
しかし、その明日は私も夫も仕事です。
それに夫は自分の病院も言葉が不安でいつも私が付き添っているくらいであるから、病院へ連れて行くのは私しかいません。
ここで悩みました。
午前中に病院に連れて行き、病院後出勤するかと考えましたが、病院は予約制で、いつも混んでいます。
午前中に予約が取れるとも限りません。
それに運よく午前中に診てもらえたとしても、具合の悪いルビ君を置いて仕事に行くのは不安です。
仕事に行き、夜の最終の時間に病院へ行くということも考えましたが、そうなると休憩時間に病院へ電話をするしかなく、これまたうまいこと最終の時間に予約が取れるとは限りませんし、仕事をしている間中、ずーっと心配でなりません。
なぜこんなに心配するかというと、私がルビ君を溺愛しているということもあるでしょうが、体の小さな小鳥は人間と違い、具合が悪くなると早いからです。
人間であれば1日様子をみるのでしょうが、小鳥の場合、1日様子を見ている間に死んでしまうこともあるようで、だから私はラニ君の時もそうでしたが、ルビ君に対しても体調面には敏感になってしまうのです。
翌朝、いつもならばギリギリまで寝ている私ですが、ルビ君のことが気になっていたので、いつもより早く目覚めました。
ルビ君を観察すると、昨夜よりは元気があるようなのですが、よくわかりません。
「大丈夫かな?仕事、どうしよう?」
などと考えながらルビ君を見ているうちに、刻々と時間はすすみ、
「もういいや。こんなに心配なのだから休んでしまえ。」
会社を休み、病院オープンと同時に電話を入れると、午前中は11時から手術が入っているらしく、それより前の時間は一杯で予約が取れず、一番早い時間で5時でした。
ルビ君はというと、午前10時頃から少し元気が出てきて、餌を食べ始めました。
前日の夜に殆どを吐いてしまい、お腹がすいたのか、ガツガツと食べ、一安心はしましたが、しかしながら心配なので病院にはかかることにしました。
診察室に入ると、まず体重を量ります。
35g。
先生に昨夜のこと、そして今は元気になったことを話すと
「食べすぎでしょう。」
「食べすぎ・・・。先生、インコが食べすぎるなんてこと、あるんですか!」
と驚くと
「あります、あります。」
食べ過ぎと聞いて思い当たることがありました。
ルビ君の餌はペレットで、毎朝私が計量スプーンで4gを量り、餌箱に入れます。
前日帰った来た時にルビ君の餌箱を見て、「あれ?全然食べていない。」と思い、きっと夫が私のいない間にたらふくシード(ルビ君の好きな殻付きの餌)を与えたのだと思ったのです。
吐いた餌もシードでした。
先生にそのことを言うと
「男ってそうなんですよ。食べると嬉しくなっちゃって、ついついあげちゃうんですよ。シードをあげちゃいけないわけではないのですが、あげても小指の先くらい、ほんのちょっとだけです。ご褒美にあげるくらいにした方がいいです。今も、少しオエッとしていますから、まだ少し気持ち悪いのでしょう。」
「先生、ここのところ33~34gだったのですが、3日前から35gなんです。これって、もしかして発情でしょうか?」
と聞くと、先生はニヤリと笑いながらルビ君の骨盤をチェックし
「少し開いていますねー。発情ですね。でも、今は他のヒトも発情の時期なんですよ。」
「先生、このままにしておくと、卵を産むのでしょうか?」
「卵を産むかどうかはわかりませんが、このヒトが年に2回の発情であれば、それは正常なことなので特に心配する必要はありません。」
「年に2回以上だったら、注射ですか?」
「いや、注射はしないで、ストレスをかけるとかで対処した方がいいです。」
「今の発情を抑えるのはどうしたらいいのでしょう?」
「まあ、今はみんなが盛り上がっている時期ですからねー。餌をあげすぎないことです。夜は餌箱を取ってしまってもいいです。」
「あと、この子、焼き芋の柔らかいところが好きみたいで、食べたがるのですけど、焼き芋はあげてもいいのでしょうか?」
「糖分がありますからね。焼き芋はあげないで下さい。」
「小松菜、ちんげんさい、豆苗とか、色々試しているんですけど、この子、野菜を食べないんです。ペレットを食べていれば、野菜はあげなくてもいいですか?」
「いやー、ペレットも完全食ではないですから、野菜はあげた方がいいです。タンポポとかハコベとかも試してみて下さい。」
胃薬と吐き気止めをもらって帰宅しました。
仕事から帰宅した夫に、私が怒ったのは言うまでもありません。
夫も心当たりがあったのでしょう。
「わかりました。今日からルビ君におやつ、あげません。」
いつまで続くかはわかりませんが、ルビ君は私達にとっては宝物です。
健康で長生きしてもらいたいので、私が夫を教育するしかなさそうです。
子供の時のルビ君の写真が出てきたので、記念に載せます。
まだ頭が黒く、お子様の顔です。
ルビ君はよく、この斜めの角度で「おやつ頂戴」とおねだりをします。
夫はこの顔に弱いらしく、この顔をされるとシードをあげたくなってしまうそうです。
| Home |