米軍弾薬庫周辺で高濃度PFAS 進まぬ実態調査 東広島市

柳川迅
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 広島県東広島市の瀬野川流域の井戸水などから国の暫定目標値を大きく上回る濃度の有機フッ素化合物(PFAS)が検出されている。付近に在日米軍の川上弾薬庫があるため、市は敷地内の環境調査を実施するよう繰り返し求めてきたが、米軍側から実態解明への前向きな回答はないという。

 市が昨年から瀬野川水系で複数回実施した水質調査によると、水路や井戸など計99地点のうち25地点でPFASの暫定目標値を上回った。弾薬庫近くの井戸水からは暫定目標値の300倍に相当する1万5千ナノグラムが検出された。

 市は、弾薬庫に流れこむ水路の水質と、弾薬庫から流れ出る水路の水質をそれぞれ調査して比較。その結果、弾薬庫に流れこむ水路ではPFASはほとんど検出されなかったが、流れ出る水路では暫定目標値を大幅に上回る3600ナノグラムが検出された地点もあった。市は「弾薬庫の敷地に由来する可能性が高い」との見方を強めている。

 市は今年2月、防衛省に対し、泡消火剤使用の有無の確認や敷地内の水質調査の実施などを米軍に求めるよう要請した。

 これに対し、米軍側は防衛省を通じ、広島県内の米陸軍基地施設で泡消火剤を消火活動や訓練で使用したことはなく、基地内外で漏出を確認していないと回答。2020年に泡消火剤を約8300リットル処分し、一切保有していないとしている。

 市は米軍側が保有していた泡消火剤の実態について情報公開が不十分であり、水質調査についても回答しないとして、追加回答を要請。6月4日には、湯崎英彦知事と高垣広徳市長が防衛省を訪問し、米軍側への働きかけを改めて要請。環境省など関係省庁に対しても、PFASの健康影響についての情報提供や実態調査をするよう求めた。

 日米地位協定の壁に阻まれ、米軍側が環境に及ぼす事故があったと認めないかぎり、市などが米軍施設で立ち入り調査をするのは難しい。市の担当者は「事故がないと言われている以上、立ち入り調査ができる可能性は低い」と話す。

京都大学大学院の原田浩二准教授(環境衛生学)は「暫定目標値を大きく上回る数値が出ており、健康リスクを避けるために飲まないようにすることが必要だ。個人個人でどのくらい水を飲んでいたかは違うので、PFASの濃度を調べる血液検査も希望者には実施を検討する必要がある。弾薬庫の敷地に原因がある可能性は高い。周辺の地下水などの調査を続けて科学的根拠を積み重ね、敷地内の調査の実現を求めていく必要がある」と指摘する。(柳川迅)

     ◇

 東広島市は高濃度のPFASが検出された地域で、井戸水を使っていた17世帯などを対象に臨時の健康診断を実施し、55人が受診した。今月26日には、その結果を評価する専門家委員会を開く。地域特性による健康への影響を検証し、今後の診断方針を話し合い、健康相談のあり方も検討する。

 市は現在、井戸水を使っていた世帯に対しては上水道を敷く費用の一部を補助している。配水管から住宅までの整備費用は補助対象だが、住宅内の配管や水道加入金は住民の自己負担となる。

 30年余り井戸水を使ってきたという対象世帯の男性(70)はPFASの問題が浮上したのを受け、市から2カ月間、1日あたり3リットルの飲料水の支給を受けたという。

 ただ、井戸水については「洗濯や風呂に使っていいのかも明確な説明はなかった」と語る。健康に不安を感じ、4月上旬に5万円ほど自己負担して水道に切り替えた。近所では、数十万円の費用がかかった世帯もあったという。(柳川迅)

 〈PFAS(ピーファス)〉有機フッ素化合物の総称で、代表的なものがPFOSPFOA。水や油をはじき、熱に強い性質がある。防水加工や泡消火剤などに使われてきた。コレステロール値の上昇や発がんなどとの関連が指摘される。どの程度の量が体に入ると影響が出るのかはっきりしていない。水質について国が1リットルあたり50ナノグラム(ナノは10億分の1)とする暫定目標値を定めている。

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