不運は悲運にならずにすんだ。

今月10日のオリックス-ソフトバンク12回戦(京セラドーム大阪)。オリックスが1点を追った9回無死一塁で、森が右中間に安打を放った。一塁走者の代走・小田は二塁ベースを蹴り、三塁に向かった…と思った。それがそうはならなかった。二塁ベース付近で、小田は勢い余って転倒した。打者走者の森も二塁へ向かいかけていたが、ストップ。うまくいけば無死二、三塁になりかけた好機は無死一、二塁にとどまり、ベンチの中嶋監督もぼう然だった。

プロ10年目の小田は、34歳の今も足のスペシャリスト。「失敗しない男」としてリーグ3連覇を支えてきた。転倒は、まさかだった。不運が悲運にならなければいいのに、と思いながら見守った。

この日のオリックスは粘り強かった。無死一、二塁から紅林の安打で無死満塁とし、宗の押し出し死球で同点。さらに頓宮の犠飛でサヨナラ勝ちし、ソフトバンク戦2連勝で幕を閉じた。試合後の中嶋監督は「一、三塁やと思ったら、ビックリするような、いろんなことが起こる。ケガしたんかなと思ったんですけど」と体を心配した。

試合後、小田は腰骨のあたりをアイシングしながら姿を見せた。「三塁に向かおうと思って走っていたんですが…」と振り返り、ケガについては「大丈夫です」と少し笑顔も見せたが、オリックスきってのイケメンの顔つきは険しかった。

東洋大4年の全日本大学選手権決勝・慶大戦では福谷浩司(中日)からサヨナラ2ランを放ち、日本生命でも長打も打てる好打者として注目された。ただオリックスでは50メートル走5秒9の俊足を生かし、ここ一番の代走の切り札からの守備要員として生き抜いてきた。チームメートは「代走のあとに守備に入って、打球が(小田の守備位置に)行ったら、もう安心する。チームとしていなくてはいけない存在」と信頼を寄せる。実際、攻守の出番は勝利を決定づける場面で巡ってくる。

小田自身は「守備、走塁は、プロ1年目からやってきたことの延長戦」と、特別な頑張りなど明かさない。失敗できない場面を任される重圧も「自分ではあまり思っていない」と言う。それでも自分の仕事への強い責任感を持ち続け、役割を果たし続けている。【堀まどか】

オリックス対ソフトバンク 9回、サヨナラ右犠飛を放った頓宮(背中)を笑顔で祝福する中嶋聡監督(2024年7月10日撮影)
オリックス対ソフトバンク 9回、サヨナラ右犠飛を放った頓宮(背中)を笑顔で祝福する中嶋聡監督(2024年7月10日撮影)