コラム

事件は現場で起きている

サッカー関連の昔話をしていると、よく出てくるキーワードの一つに「ダイヤモンドサッカー」がある。
60年代から80年代に活動していたサッカーファンにとって、テレビ東京で放映されていたダイヤモンドサッカーが海外サッカーを知るための数少ない手がかりの一つだった、という定番の話題だ。

今やサッカーを見る方法には事欠かない。
何と言ってもプロの試合を気軽にスタジアムまで見に行ける環境が日本国内で整ってきたというのは大きい。
またテレビでは契約次第で古今東西の試合を四六時中放送しているし、スマホなどのオンデマンドを使えばJリーグの試合を外出先で生で見ることさえできる。
サッカー好きをこじらせた人間にとっては、興味ある試合を片っ端から視聴していては、とても追いつかないほどの数の選択肢が用意されているわけだ。
応援するクラブと選手を絞って、自分の生活サイクルに合わせて見る試合を厳選していけばいいだけの話なのだが……あのリーグについても知りたい、この選手も気になる、そういえばあの監督はどうしてるだろうかと、欲張りなファンは時間がいくらあっても足りなくなってしまう。

ここに一つの視聴番組の厳選法がある。
実況者・解説者で絞っていくというのが、その方法だ。

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十一年かけた三歩

先日のフランス戦、日本の両サイドバックの位置取りが特徴的だったので、試合を通して注目しながら見ていた。
ザッケローニ監督が日本代表の指揮をとるようになって二年。チームに植えつけてきた意識と哲学が少しづつ形になりだしてきたのかなという気がしている。
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抜き足、差し足、振り足

最近、ゴール前で芸を見せられる日本人アタッカーが増えてきた。

ボールを持った選手がシュートレンジに入る。読みを働かせながら食らいついてくる屈強な相手守備陣。そして、ボールホルダーがシュートモーションに……。
一体どんなアイデアでシュートを放つのか。
息を呑んで見守るその一瞬は、サッカーという競技のクライマックスの一つだ。そんな華やかな場所で違いを見せられる選手が次々と出てきている。続きを読む

ニアより始めよ

佐藤寿人がJ1通算100ゴールを達成した。
今シーズンここまで5ゴール。得点ランキングではトップタイ。サンフレッチェ広島を最前線から引っ張っている。

ペトロヴィッチ時代の広島は確かに面白かった。
複雑かつ有機的な連動性を実現し、怪我や移籍で人が激しく入れ替わる中でさえ、意欲的にムービングフットボールの形を模索し続けた。
今季の広島は、より機能的なサッカーを指向している。
虚飾を排し、縦へ速く。かといってアイデアなしのカウンターではなく、それまで積み上げてきた連動性も要所で見せる。

これがなかなか、ハマると刃物を思わせる凄みがあって楽しめる。

高萩やミキッチあるいは青山といった面々がボールを持った時、先ず見る相手がトップではる佐藤寿人だ。
歳を重ねる毎に熟成されていった佐藤のキレのある動き出しから、それに触発された後方の選手がアイデアを実際に形にしていく。

フィリッポ・インザーギを彷彿とさせる対戦相手の最終ラインとの駆け引きもさることながら、ここ数年で目に見えて厚みを増した上半身を駆使して楔として機能したり、また飛び出してくる味方の為にスペースを作る走りも忘れない。
持てるスキルを次々と繰り出してサポートをこなしつつも、ゴールに結びつく動きを貪欲に狙うダイレクトなプレーっぷりは、まさにこれぞフォワードといった感じがする。

そんな佐藤寿人が持っている幾つかの特徴的な動きの中でも、トレードマークとして認知されているプレーがニアサイドへの飛び込みだ。続きを読む

2-0の魔力

「2-0には気をつけろ」
「2-0は危ない」

サッカーの試合を見ていると、よく聞く言葉ではないだろうか。

序盤で立て続けに得点を重ね勢いにのっていたチームが、何故か試合途中から空中分解し連続失点を喰らう。この得点が入りにくいスポーツにおいて、まま目にする乱打戦のパターンだ。選手も指導者も(それぞれの経験則から)2-0になったら落ち着かなくてはと分かっているのだが、この得点差のジンクスを振り払うのはなかなか難しい。

何がそんなに危ないのか。
リードしているチームの動きを観察するのは面白い。そこにはチームスポーツの醍醐味ともいえる集団と個の心理の相克がある。続きを読む

打ち出す悪意と打ち消す悪意

監督と選手の試合後コメントって面白い。いつもJ`s Goalなど各サイトの更新を心待ちにしている。

シーズン開幕当初は、まだ形にならないチーム戦術への苛立ちとか、あるいは手応えが、言葉の端々から薄っすらと浮かび上がってくる。
またシーズン終盤ともなれば、より生々しい言葉が飛びかって、上位と下位の悲喜こもごもや中位のやるせなさが、ビシビシとダイレクトに伝わってくる。続きを読む

「速い」の向こう側

海外の有名選手へのインタビューで、お決まりの質問がある。

「日本サッカーの印象は?」
「日本人選手の~~をどう思う?」

選手の答えも、ほぼ決まっている。

「速いね」


サッカー用語の整備の必要性が訴えられて久しい。
毎年のように耳新しい単語がサッカー関連の雑誌や教本に載る現在、まだ日本サッカーは用語輸入期にある。

ボランチ、ディフェンシブミッドフィルダー、アンカー、レジスタ、ピボーテ。
こういった単語の細かいニュアンスの違いを指摘できるくらいのマニア層は増えてきているが、日本に適した単語のみをふるい落としたり、ライト層に向けて用語を整理するといった段階にまでは至っていない。


フットボールネーション、あるいはサッカー大国、というとどこになるだろうか。
ブラジル、スペイン、イタリア、ドイツ、イギリス、あるいはアルゼンチン、フランス、オランダ。
人によってあげる名に差はあるだろうが、とにかくサッカーを長いこと文化として楽しんできた国が沢山あるという点は間違いない。

日本のサッカーファンと関係者は貪欲だ。各国のサッカー情報をむさぼるように吸収しようとしている。
結果的に輸入される知識も多国籍なものになる。
元々ひどくシンプルで粗雑だった日本サッカー言語は、様々なルートからなだれ込んでくる新情報を吸収しきることができなかった。漂うに任せるといった状態で溢れでた単語群は、有志が懸命に整理しようとしているが、周知と吸収は需要にとても追いつかず、いまだカオスから抜け出すことができないでいる。
交通整理が充分でないのだから、当然、事故も多発する。

このカオス期における齟齬の代表例が「マリーシア」だ。
「malicia」という単語を直訳すると、犯意とか悪意といった意味になるが、サッカーにおいてマリーシアは策略的あるいは計画的な駆け引きのことを指す。
審判の目やルールの網をかい潜ったようなプレーを指す単語は「マランダラージ」で、こちらを直訳すると「だますこと、詐欺、ペテン」といったような意味になる。
日本では当初マリーシアとマランダラージの意味が取り違えて使われたりしたが、その誤りに気付いて本来の意味で使おうとする人や、定着したのだからこのままでという人もいたりと、今では何とも使い方が難しい単語となってしまった。
ブラジルからきた指導者や選手は、しきりに日本には「マリーシア」が足りないと指摘するが……これでは日本サッカーが置かれている状況を正確に捉えることさえ難しいだろう。


ヨーロッパの概念がどっと流れこんできた明治初期、高等教育は英語で行われるのが主流だったという。
帝大の法学部で日本語で授業ができるようになるまで二十年近くかかったというのだから、新概念や新用語の導入と普及がいかに大変な作業なのかがわかる。
当時の最高峰の叡智を結集させてさえ、それだけ時間がかかった。

日本サッカーの概念整理の最前線にいるのはネットの有志と一部メディアの有識者のみだ。総力をあげているという状態からは程遠い。
JFAもサッカー用語集を出してはいるが、扱っている言語も単語も物足りなく、(手堅くはあるが)現況に即した対応をしているとは思えない。
その他のメディアやマスコミに至っては、問題意識があるのかさえ定かでない。恐らく何も考えていないだろう。
それは上記のインタビューなどにおける「速い」という言葉の使い方を見ればわかる。

香川真司は速い。
宮市亮は速い。
今野泰幸は速い。
Jリーグは速い。

どの文も誤訳ではないが、これでは何を褒めているのか分からない。それぞれに対して詳細な知識を持っているもののみが、かろうじて意味を汲み取れる。
機動力、敏捷性、流動性、スプリント力、瞬発力、即断力、ターンの速度、展開のスピード、シュートまでの間。なんでもかんでもまとめて「速い」でいいものだろうか。


日本サッカーが生み出した数々の速度は(ひょっとしたら日本人が思っている以上に)国外のサッカー関係者からも評価されている。
中にはリップサービスとして定型文の褒め言葉を口に出す人間もいるだろうが、本心からの評価には耳を傾けてもいいはずだ。必ずしも海外の顔色をうかがう必要はないが、効率的な成長には外界からの刺激とアドバイスは欠かせない要素だろう。

日本サッカー言語は更に進歩しなくてはならない。
各方面に散らばった有識者や有志の連携を密にしていくには、やはりJFAが主導するのが最も効率がいいはずだ。現状を変えるために、もっと思い切った対策を打ち出して欲しい。
Jリーグが誕生してから、もうすぐ二十年になる。


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