今月の18日に行われた日本対オーストラリアの一戦で印象的なプレーがあった。

試合の序盤、猛烈にプレスをかけてきたオーストラリア。この試合に合わせてコンディションを整えていただけあって、体のキレを活かした高い位置からの激しいプレスだったが、対する日本は長いボールをトップの岡崎に当ててしのぐ局面が何度もあった。
football91

最初に吉田がロングボールを蹴った時には、それが日本の狙いだとまでは思わなかったのだが、続いて香川や長谷部、更に本田や遠藤までもが岡崎に長めのボールを入れているのを見て、戦術的判断を持って蹴っているのだということが分かった。

マルカ紙などのインタビューでアギーレ監督が答えているように、今の代表のベースはあくまでも従来通りの短いパスだ。しかし、試合後に岡崎が明かしていたが、「狙いを持った」ロングボールに関してはアギーレ監督も認めているという。というよりも、むしろ奨励しているのだろう。この日、オーストラリアが序盤からハイプレスを仕掛けてくるということを、日本は読んでいた。その上で相手の足が切れる時間まで(あるいは相手の足をより消耗させる為にも)日本はロングボールを多めに蹴っていたのではないか。

試合後、日本メディアの注目はもっぱらシステム変更に集中していた。試合中に守備的中盤を厚くした日本の判断が素晴らしいものだったということに異論はない。しかし、相手に合わせてフォーメーションをいじることに関しては、新鮮な驚きはなかった。ピッチ上にいた選手の経験値を考えても、それくらいの要求に応じることは当然できるだろうし、実際にこなしている場面を何度も見てきていたからだ。

個人的にはそれよりも何本か蹴った意図的なロングボールに意義を見出していた。アギーレ体制に移行した日本代表が、ようやく見せた一歩目。新たな大テーマに取り組み始めた選手達の姿が、そこにあったように思う。


ザッケローニ監督が率いた四年間。代表が掲げていたテーマは明確だった。

日本が持つ攻撃の力を活かして勝つ。

Jリーグが発足してから約20年が経ち、遂に日本も世界に通用するアタッカーを排出できるようになってきた。本田、岡崎、香川といった面々は、能力が発揮できる形で起用されれば、トップクラスのリーグでも結果を出せるだけのスキルを持っている。バロンドールを狙える世界屈指のスーパーエリートというわけではないにしろ、充分にワールドクラスの実力を備えたアタッカーだ。

欧州サッカーファン曰く「悪くない面子」が揃った日本代表だったが、本番であるワールドカップブラジル大会では惨敗した。

未だに各所で敗因の検証が行われているが、実際に起こった事は至極シンプルな話だ。内田篤人のコメントが端的にそれを語っている。

「こういう大きい大会で自分たちのサッカーをできれば、というのはあるけど、させてくれないですからね」

日本代表は自分たちのサッカーを「させてもらえなかった」わけだ。武器を手にしたとしても、それを相手に当てられないでは話にならない。存分に攻撃陣が力を発揮した上で負けた方が、まだしも多少は痛快であったろうが、現実は非情であり、ザッケローニ監督が率いたチームはその前の段階で潰されてしまった。


ここで当然のごとく浮かび上がってくる疑問がある。

本気の強豪国を相手にした際、どうすれば日本は攻撃を当てられるようになるのか?あるいは攻撃できない時間帯をどうしのげばいいのか?

ワールドカップで惨敗したことは、落胆させられる出来事ではあったが、そのことで新たな局面が目前に開けたことも事実だ。悲しい形で手に入れたテーマに答えるべく、日本サッカー協会が招聘した人物がハビエル・アギーレ監督である。

来日前、現在の日本サッカーに欠けているものについて、アギーレ監督はこう語っている。

「敬意を持って言わせてもらうと、競争力に欠けている、そしてそれこそが私が加えようと思っていることだ。試合をマネージメントする力とラテンの即応力(viveza)」


アギーレ体制になってから6試合。目前にアジアカップを控え、メンバー選考も一段落したことで、ようやく監督の打ち出す色が外からも薄っすらと見えるようになってきた。

なにも数本のロングボールを蹴っただけで、日本代表の試合をマネージメントする力が上がってきたと過剰に持ち上げるつもりはない。それでもコンディションを一週間かけ整えてまで日本戦に挑んできたオーストラリアをいなすことが出来たのも事実だ。

オーストラリアのサッカーファンは「日本がギアを上げてきた時に対応できなかった」と試合を振り返っていたが、試合のポイントはオーストラリアのギアを空転させた時間帯にこそあった。35分ほどで切れた足を見て、日本は徐々にショートパス主体の攻撃に切り替え、試合の主導権を掌握。そこで試合は決まった。

欲を言えば、そこから先の戦術のやり取りこそが見てみたかったのだが……オーストラリアは手札を温存したのか、ケーヒルという個のカードを切るだけで、厚みのある対応をしてくることはなかった。


元来、日本の試合を綺麗にオーガナイズする力は、アジアレベルでは頭ひとつ抜けている。問題となってくるのは、あくまでも世界トップクラスのチームと試合をした時に、どれだけ試合を作れるのかという点なのだが、ではアジアレベルではもう日本が成長できる余地はないのかというと、そうでもないだろう。

「試合を勝利に導くラテンの即応力と狡猾さに欠けている。勝っている時にコーナーへ向かってドリブルしたり、(フリーキックで)壁を前へ出したり、ゴールキーパーが突然足をつったり、スローインの位置をずらしたり……こういったことを日本人はやらない。常にルールの範囲で、ズルはしないんだ」

アギーレ監督が指摘する、こういったプレーのいくつかは、中東のチームが得意とするところだからだ。

アジア各国のチームが見せる様々な顔に、アギーレ監督がどう対応していくのか。その過程で、どのように日本のマネージメント力を養っていくつもりなのか。今からアジアカップを楽しみにしている。

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