風が強く吹いている (新潮文庫)
しをん, 三浦
新潮社
2009-06-27



東京大手町と箱根間の往復200km強の道のりを走者10人が襷でつなぐ箱根駅伝。
正月2日間に渡って凡そひとり約20kmを約1時間で駆け抜けるペースで、選ばれた大学20校(シード10校 + 予選会通過10校)+学連選抜1チームが競走を繰り広げる。

ベタなスポーツ青春小説のようで、実はそれだけでもない。
”スポ根もの”によくある単純明快にゴール(目標)を目指す以上の何かがあった。

陸上競技の経験がない素人が大半の寄せ集めメンバーで、
しかも選手の替えが効かないびったり10人でどうやって箱根に行けるのか?
さらに新学年が始まる4月に急遽結成され、翌年の1月まで1年もない。
その辺の非現実性は「作り話」だから、ということで横に置いておいて、
巧妙な話の展開が、ロードレースらしく疾走感を醸し出していてぐいぐい惹きこまれた。

「速く」でなく「強く」
この物語の一番のテーマだったように思う。
1人ひとりの実力を上げる方法は、個性を生かし、走る速さよりも走るための強さを鍛えるところにあった。
そして個人個人で新しい景色を見られる新天地を目指す。

「いいか、過去や評判が走るんじゃない。いまのきみ自身が走るんだ。
 惑わされるな。振り向くな。もっと強くなれ」

メンバーすべての面倒をみるハイジはコーチでもあり、マネージャーでもあり、竹青荘の寮監だ。
彼のことばは、時にうそがあっても、その時のメンバーにとっては本物だ。
夢と目標を掲げ、強く導く。

走(カケル)とハイジのつながりとぶつかりあいも、10人の個性どうしのぶつかりあいも、尊い形をした人間のありかたを示している。

強くなるために肉体と魂を鋭くなめらかに磨きあげる。
恃むべきは、自分であり、仲間でありの肉体と魂だ。
”Body & Soul”の新たな意味合いが自分の認識に加わった。

最後の10区のハイジのシーンは涙で前が見えなくなりそうだった。
肉体と魂のすべてで走っている。

読了のとき、得も言われぬ「達成感」を味わうことができた。
三浦しをんさんは初めてだったが、なかなかいいな。