久しぶりの浅田作品。
定年まで勤め上げた主人公の竹脇正一は送別会の帰りに地下鉄で倒れ意識を失う。
病院に担ぎ込まれて集中治療室で生死を彷徨うなか、魂は肉体を離れて過去の人生の記憶を遡るような旅が始まる。
人間の生と死
人生の入口と出口
なぜ東京の地下鉄がモチーフになっているのか?
その訳は、特異な出自をもった主人公とその周りの人たちの人生から見えてきた。
孤独が矜持を育ててきた人生。
ことばに人それぞれ固有の概念が宿っているようだ。
そういう世界を築きあげ感動の物語に昇華させるのが浅田さんは天才的に上手い。
とまた、実感した。
読んでいる途中で竹脇が浅田次郎と同い年であることに気づいた。
浅田さんが65才の時の作品。
つまり、世の中では一般的に定年の年であり、第1の人生を終え、第2の人生が始まる齢。
それまで一緒に頑張ってきた同世代の仲間たちに何か労いの贈り物をと考えた作品だったのかな。
1951年生まれ。昭和26年。
戦後復興と高度成長の時代の申し子だ。
戦争は直接、経験はしていなくとも戦争の影を大きく引きずっている世代だ。
戦前と戦後に思想的な連続性はないにせよ、その時代の人が生きてきた痕跡は必ずある。
東京の地下鉄は1960年代に建設ラッシュがあり路線網が拡充した。
地下社会が生まれ現実とは別のパラレルワールドの象徴のようでもある。
普段あまり意識することがない地下鉄だけど、そこから想像を色々膨らませてくれる作品でした。