銀閣の人 (角川文庫)
門井 慶喜
KADOKAWA
2023-09-22



日本の伝統家屋の象徴である押板床 (床の間)、違い棚 (入れる象徴)*、付書院 (出す象徴) という装置、
四畳半という中途半端な広さで孤独が思索により宇宙につながる空間、
そこに漂う わび、さび という精神、
これらを発明し日本文化の礎を築いたのは、銀閣の人、足利義政 (室町幕府八代将軍)だった。
*明との勘合貿易により輸入した唐物を日本流の鑑賞のやり方で融合させる文化を創造した。

室町中期に生まれた文化的産物に歴史的な重要性の気づきを得た。
なかでも義政という人物のイメージが今までと逆転したのは個人的に極めて大きな「出来事」だった。

何ものから逃げた人ではない。何ものかに立ち向かった人だ。
文事を以って政事に立ち向かう。
歴史の長い時間においては、勝つのはしばしば政事ではなく文事であると慧眼した。
未来永劫の政事はない。
角度を変えて見れば実に深謀遠慮の人だ。

思想の体系化を推し進めることができたのは時代の雰囲気であり、廻りの人間関係に拠っている。
それが物語として人間の証明であるかのように描かれていた。

・祖父 義満 (三代将軍)、父 義教 (六代将軍)
・妻、富子 (「女将軍」)、子 義尚 (九代将軍、富子の傀儡)
・連歌の宗祇、茶の湯の村田珠光、善阿弥 (身分を越えた友人、仕事の仲間たち)
・松波新九郎 (義政死後の銀閣・東山の思想継承、普及へ。斎藤道三の父)
下剋上の世の中、応仁の乱はそれまでの封建的な因習からの自由といえようか。

これらの条件がそろって銀閣は生まれた。

哲学的な思考で理論を補強したい。

不足の美
孤独であること、不足であることに積極的な意味を見出した思想の化身
孤独にむしろ自由という価値を見て、最も崇高な「人からの自由」を得る

せまさを広さとし、飾り気のなさを飾りとする。
逆説的な理論に本質が隠されている深淵な世界を表現しているようだ。

「わび」は静的な状態であり
「さび」はそれに時間の変化を足したもの

時空を超えて伝わってくるように感じられるのは自分がそういう日本人の子孫だからだろうか。