日本では、台湾の代表的な食べ物と言えば小籠包、小籠包と言えば台湾、というイメージが定着しているように思う。
確かに台湾の小籠包は概してレベルが高いし、小籠包の名店もそれなりに多い。だから前述のイメージも全くの間違いであるとは言わない。しかし少なくとも私的には少し違う。私が勝手に思うに、台湾の代表的な食べ物と言えば魯肉飯や蚵仔煎、小籠包と言えば上海、である。
台湾の小籠包のイメージが強いのは、台湾の名店が日本に進出していることや、台湾の官民一体の観光政策の影響などが大きいのではないかと思う。
現代では色々混じったり独自進化を遂げたりしているので一概には言えないが、そもそも台湾の料理といえば、中華料理のうちでも最初に台湾に移り住んだ福建人の料理がベースである。小籠包は上海生まれの浙江料理で、かなり後世に持ち込まれたものなのだ。古くからの台湾人としてのアイデンティティが強い人々の中には、外省人(=太平洋戦争後に大陸から移ってきた台湾人)が持ち込んだ小籠包などは台湾料理とは認めないという意見もあると聞いた。そこまで極端な意見ではなくても、台湾の代表的な料理としては疑義を挟む台湾人は多いのかも知れない。台湾の名物料理の一つではあっても、代表的な料理ではないのだ。
ちなみに上の小籠包の写真は、台北では有名な金品茶樓というお店。鼎泰豐で修行をしたシェフが作る小籠包が人気だが、他のメニューも豊富で美味しい。
ただし。以前にも書いたことがあったかも知れないが、私的に一番小籠包が良かった街はどこかと言われると、一瞬の迷いもなく上海と答える。上海でも台湾でも、そのほかの地域でも、結構たくさんのお店で小籠包を食べたと思う。高級な名店もあれば巷の小汚い食堂もあった。その平均的な実力が一番高かったと思ったのは上海だった。巷のお店でも美味しいし、名店となれば言わずもがな。そして値段も総じて安かった。
そういうわけで、もし美味しい小籠包を求めて旅をするなら、私的には上海やその周辺の浙江省をお勧めする。ただ断っておくが、台湾も素晴らしいパフォーマンスであることが多いし、私も台湾に行って食べるものに迷ったら、とりあえず小籠包を食べに行こうと思い立つ。
だってルーツだどうだの、歴史がどうだの、シェフだの名店だのと言ったって、結局は値段の割に美味しければ満足なのだから。
【写真】2009年12月
【文章】2019年8月