写真だけでなく、文章もうまい。
いい表現者の必要条件なのかもしれない。
本書を読んでいるとそう感じた。

表現するものは、ただの外見ではなく、その奥にある精神を映した「実像」が対象だ。
だからいい写真やいい文章は人を感動させる力がある、と表現のからくりに近づいた気がした。
ただの画から心象画へ。

日本を飛び出してインドやタイなど放浪する若者たちのルポとその数年後の彼ら彼女たちの軌跡。
旅は人生のシミュレーションと小林さんは表現する。
旅は人生、とだけでなく、シミュレーションが入ることによって、言葉に熱を帯びた。

皆、管理された日本社会のシステムから本当の自分を取り戻そうともがいている。
人に人生を決めてもらって、それでいいのか?
昨日も今日も区別のない、のっぺりした日常でなく、自分の日常はどうあるべきなのか。
一方で、自分の生活を求めず、たんたんと暮らすことが旅の意義と捉えている人もいる。
小林さん自身もカメラマンとして入社した新聞社をやめて、人生のシミュレーションをした旅だったようだ。

ファインダー越しのフレームの中に見る彼ら彼女らの姿と自分の想いを重ねようとしているようにみえた。