廃墟に乞う (文春文庫)
佐々木 譲
文藝春秋
2012-01-04



北海道の各地方を舞台に休職中の刑事が被疑者側の関係者たちから乞われて私的に捜査する物語。

オージーたちによる英語圏化するスキーリゾート地、ニセコ
旧炭鉱の町、夕張
競馬や博労の多い日高地方の町
など

土地が持つ風土と住民の気質が、それぞれの短編に表れている。

被疑者の一瞬の目の色で判断する感を大事にしながら、
思い込みや先入観にとらわれない思慮や抑制された主人公 仙道の言動に
いぶし銀の職人気質を感じた。

派手なシーンは全くなく、仮説と検証を1人で地道に繰り返していく手法に共感しながらも
分野は違うが、ずぼらな自分ではなかなかできない芸当と羨望を感じました。

物語自体は説明過多を避け、読者に想像、解釈させるスタイルのようだ。
ネタを順に出していって、あとの調理は任せる感じか。
実際の刑事事件が幾つもの物的証拠や状況証拠を集め、真実を探索してく過程と何気にダブった。

本作で佐々木譲氏は直木賞(2009年下期)を受賞した。
去年から佐々木さんの本を読んできて、すごいと感じた小説ばかりだったので、
この作品での受賞とは、正直ちょっと意外な印象だ。
キャリア31年、ノミネート過去3回での受賞に佐々木さんは
「『永年勤続表彰』の意味もあったのではないか」とコメントされたそうだ。
この小説の価値を否定するつもりは全くないが、私も同感でした。