1987年 ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進先生に、立花隆が20時間インタビューした記録文。
ノーベル賞受賞の対象は「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」。
1990年刊行。

今更ながら、まず認識したのは、時代は「生物学」から「分子生物学」の時代が来ているということ。
つまり、生物の個体全体(の現象)を見る時代から分子レベルで個体全体を見るのが時代のトレンドといえるようだ。
方法論でいうと、おおざっぱに、従来の帰納的な手法から演繹的な手法が加わったイメージを持った。
そのプロセスが始まる原点は遺伝子の解明から始まった。

遺伝子の本体である塩基の配列がアミノ酸を作り、アミノ酸が多数結合したものがタンパク質となり、
このタンパク質によって筋肉や臓器、肌、髪、爪、体内のホルモンや酵素、免疫物質などを作る。
よって、遺伝子はいわば「生命の設計図」といわれる。

すると、タンパク質である抗体は「決定論」のように限定的にしか存在しないのだろうか。
という抗原・抗体の免疫現象の未来を含めた多様性に疑問と不安が残る。

利根川さんの発見は、生殖細胞(受精卵)から体細胞(個体)にいたる過程で、遺伝子の組み換えが起き、
それまでの分子生物学の常識であった、1遺伝子、1タンパク質という考えをくつがえすと同時に、
生殖細胞が体細胞になる発生分化過程で遺伝情報は変化しないという原則をくつがえした。

利根川さんの発見に至るまでに、真実には様々な可能性があり、幾つかの仮説や学説があった。
それらを実験科学で検証をしていった、というのが利根川さんの功績であり、ノーベル受賞の一つの要因のようだ。
(自分が理解するように端折っているので、間違いがある場合はご容赦願いたい)

遺伝子組み換えや突然変異がいろいろな局面での多様性を生み、それが進化の実態である、
というのが私の今回の理解で、この「いろいろな局面」を想像することが、できるようで、なかなかできないのが現実なのかも。

科学的な本質とは別に、科学者の発想に興味を引いたところが多々あった。

・科学の実態は失敗の連続
 仮説のたて方で間違えるか(これが問題)、 実験のやり方で間違えるか(やり直しがきく)

・生物学は当たるも八卦
「その人の自然観が本当のネイチャーに近い人ほどセンスがいい」

・オリジナリティは大事だが(何をやるかというアイデアについて)
 オリジナリティの意味を取り違えている人が多い。
 オリジナルでかつ重要度が高いことをやることがポイント。
 一例の発見ではなく、今までの考え方をくつがえす発見を。

立花さんは事前に相当、勉強したようだが、利根川さんにぶつけていく質問はまるで同じ学会にいる同業者のよう。
そう思わせてくれるのがジャーナリズムの神髄なのでしょうね。

最後に。
「物質と精神」というタイトルは少々違和感が残った。
この並びは精神と物質が対比の関係に見えるけど、
この本で書かれている内容では、精神も物質に還元され、同根であるという印象が強い。