NadegataPapaのクラシック音楽試聴記

クラシック音楽の試聴記です。オーケストラ、オペラ、室内楽、音楽史から現代音楽まで何でも聴きます。 カテゴリーに作曲家を年代順に並べていますが、外国の現代作曲家は五十音順にして、日本人作曲家は一番下に年代順に並べています。

2016年11月

シューベルト「即興曲」「6つのドイツ舞曲」「楽興の時」P:フォークト

シューベルト:ピアノ作品集
ラルス・フォークト
ONDINE
2016-10-21


ラルス・フォークトは、1970年、ドイツのデューレン生まれのピアニスト。1990年にリーズ国際コンクールで2位になって国際的に注目された。その後着実に活動の幅を広げ、1998年からは「シュパヌングン音楽祭(発電所の音楽祭)」を主宰、また2003‐2004年のシーズンにはベルリン・フィルの「イン・レジデンス・ピアニスト」に任命され、数多くの室内楽や独奏曲を演奏している。
 
今回のシューベルト・アルバムは「即興曲」「6つのドイツ舞曲」「楽興の時」の組み合わせ。即興曲は、優しく歌う所の優さが′いに染みる。ガーン!と打ち付ける所との対比も鮮やかで力強い。第2曲では伸びやかに流れていくアルペジオが気持ちいい。後半の厳しい盛り上がりも気合が入っていた。
 
第3曲も冒頭のフレーズが柔らかいタッチで優しく響く。第4曲ではそこれまでの特徴であるデリカシーにスケールの大きな力強さが加わって、見事な演奏に仕上がっている。
 
「6つのドイツ舞曲」で検索するとすぐにモーツァルトの作品が出てくる。シューベルトのものはエステルハージ家の娘の教育用に作曲された物のようだ。そのためかとても素朴なメロディが聴かれる。優しいタッチとヴィヴィッドな色使いで魅力的な演奏になっていた。
 
楽興の時、第1曲はとても慎重な導入と躍動感を持ったフレーズの歌が聴ける。人の心のひだに入り込むような内省的な瞬間と生き生きした前進性が同居し、立体的な音楽が奏でられる。
 
第2曲も、こうした行き方で情感豊かな歌が歌われている。第2曲は特にしんみりした雰囲気が胸にぐっと来た。

第3曲は冒頭の激しいフレーズが印象的だが、全体のイメージは第1曲、第2曲と同様穏やか。
 
第4曲は、よく聴く曲。私でも知っている。第5曲も同系統の曲で、他の曲に比べて単純で親しみやすい。柔らかく細やかな配慮が行き届いた演奏で、曲の魅力が一段と発揮されていた。

第5曲は焦燥感がひたひたと迫ってくるような緊迫感があり、打鍵も鋭く力強かった。
 
第6曲は、人生の終わりを感じさせるようバラード。諦念と清々しさが入り混じったような境地に至り感動的だった。

2022年9月5日がんのため51歳でこの世を去った。

フランツ・シューベルト
①即興曲Op.90 D899
②6つのドイツ舞曲 D820
③楽興の時Op.94 D780
ピアノ:ラルス・フォークト Lars Vogt
録音2016年3月29‐31日 ドイツ、ケルン、ドイツ放送室内楽ホール

Lars_t

「献呈」Vn:ロザンヌ・フィリッペンス、P:ジュリアン・クエンティン

Faure/Chausson/Kreisler/Saint
Rosanne Philippens
Channel Classics Nl
2016-11-11


ロザンヌ・フィリッペンスは、1986年、オランダ生まれのヴァイオリニスト。3歳からアムステルフェーン・アンネッケ・シュルトの音楽学校でレッスンを受け、ベルリンのハンス・アイスラー・アカデミー、ハーグ王立音楽院で学んだ。2009年に国際ヴァイオリント・ヴェットベヴェルブ・フライブルクで一等賞を受賞し、2014年にはナショナル・ヴァイオリン・コンクールで1位を獲得して、国際的活躍を繰り広げている。
 
チャンネル・クラシックスからの3枚目のリリースは、ピアニストにジュリアン・クエンティンを迎え、クライスラー、フォーレ、イザイ、ショーソン、サン=サーンスなど、フランス物を集めている。
 
ジュリアン・クエンティンは、パリ生まれのピアニスト。ジュネーヴ音楽院でアレクシス・ゴロヴィンのもとで学ぶ。2002年、インディアナ大学のエミリー・ナオモフに師事し、同大学で一年間アシスタント・インストラクターとして教鞭にあたるとともに、Presser Awardを受賞。2003年、ジュリアード音楽院にてジョルジ・サンダーに師事、修士号を取得した。パリ(サル・コルトー)でのデビュー・リサイタルで成功を収めている(琵琶湖ホールでのリサイタル時のプロフィールから)。
 
1曲目はクライスラーの「前奏曲」。ロマンチックで聴き応えのある曲だ。演奏会用小品って感じでコンサートでは映えそう。フィリッペンスのヴァイオリンは、あまり美音と言う感じではないが、芯は強く存在感がある。少々ささくれ立った音質だが、フォーレの「ロマンス」では、抒情的なメロディを伸びやかに歌って気持ちよかった。
 
今回のCDではイザイが3曲入つていて、中心的なレパートリーになっている。「悲劇的な詩曲」は、題名ほど悲劇的なイメージではない。最初は「ちよっと憂鬱」といったくらいだった。低音域の濁った音を大胆に取り入れたところは迫力があり胸に迫って来る。中間部でのクライマックスでは張り詰めた音が凄い緊張感を作り出し、悲劇的な感情を爆発させた。
 
4曲目はクライスラーの「レチタティーヴォとスケルツォ、カプリッチョ」。無伴奏の曲だ。第1楽章は内省的なモノローグで、第2楽章は動きが速くなり、多様なフレーズがヴァイオリンの多彩な表情を表現してみせる。アンコール用小品って感じだった。
 
5曲目、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番」がこのCDのハイライトだろう。バッハの無伴奏曲よリメロディに民族的なものが感じられる。ロマンチックな色合いが濃く、一味違った魅力を持っているが、その上でバッハのような構成の厳しさ、精神的な深さを持っているのがこの曲の素晴らしいところだろう。
 
第2楽章ではピチカートが印象的に使われ、特定のパターンが頻出する。とても可憐な音楽で、思わず引き込まれてしまう。曲の単純さが神々しさに繋がっている稀有な例だろう。
 
第3楽章は激しく情熱的な音楽。演奏も鋭さを十分に出して思い切りのよいものだった。

ショーソンの「詩曲」は、神秘的な雰囲気が濃厚。フランスっぽい香りも漂っているが、ドビュッシーやラヴエルといった印象派とは違い、よリロマンチックな志向が強い。結構長い曲で聴き応えがあった。
 
ショーソンの後にサン=サーンスを聴くと、同じフランスものでロマンチックな志向が強い曲でも、サン=サーンスの方がブレーズ平明で分かりやすい。サン=サーンスはショーソンより20歳も年上で上の世代に属しているが、ショーソンよりも22年も長生きしたので、作品を書いた時代は新しいはずなのだが、一旦身につけた作風は一生変わらないのだろう。
 
最後にイザイの作品で締めくくらている。この曲は演奏会用小品って感じで、ユーモラスで音楽に洒落っ気があって楽しい。フィリッペンスの切れ味鋭い演奏が曲を一段と栄えあるものにしている。気合十分でテクニックも完壁だ。

「献呈」Dedications
クライスラー:前奏曲
フォーレ:ロマンス
イザイ:悲劇的な詩曲
クライスラー:レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番
ショーソン:詩曲
サン=サーンス:エレジー Op.143
サン=サーンスの「ワルツ形式の練習曲」によるカプリース

ロザンヌ・フィリッペンス(ヴァイオリン)Philippens
ジュリアン・クエンティン(ピアノ) Quentin
録音:2016年1月27日-29日、MCO スタジオ

ショスタコーヴィチ「弦楽四重奏曲第5,6,7番」ブロドスキー弦楽四重奏団



イギリスの弦楽四重奏団、ブロドスキー弦楽四重奏団が、また、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全集をリリースした。「また」と書いたのは、1989年にも全集を録音しているからだ。前回はテルデックによって録音され今はワーナーから発売されているが、今回はイギリスのシャンドスから。
 
録音も前回はセッション録音だったが、今回はライブ収録となっている。ブロドスキー弦楽四重奏団は、1972年、イギリスで結成されたというから、もう結成から40年以上たつている。結成当時のメンバーはヴァイオリンのアイアン・ベルトンとチェロのジャクリーン・トマスだけになっている。因みに、ブロドスキーとはイギリスの著名な
音楽教師、アドルフ・ブロツキニから取っているそうだ。
 
私は旧全集を持っているので、第7番だけ聴き比べてみた。旧全集の録音から20年たっているが、基本的な解釈はあまり変わっていない。変わったのは録音の状態だ。技術も進歩しただろうし、やはり録音会場が違うと音の傾向がガラッと変わるので、全体的な雰囲気が変わって聴こえる。
 
今回の録音のほうが細部の掘り下げがより深くなり、フレーズがしなやかに歌われている。音質がよくて空間的な広がりが感じられるのは、録音技術の進化の賜物だろう。印象としてよリスッキリして鋭さを増し、自由に演奏している気がした。
 
第7番の第2楽章は、電子音楽の先駆けのような曲。旧録音を聴いた後今回の録音を聴くと、曲の持つ恐怖感のようなものがより強く表現されている。今回のほうが研ぎ澄まされたイメージで、静けさも深くなつている。
 
激しく失踪する第3楽章は、目一杯暴れまわった後、後半は緊張が緩んで穏やかに終わる。今回のほうがより広い音場が広がっている。旧録音は音が一箇所に固まっているイメージ。音色も旧録音は音が丸く暖かいが、新録音は鋭い。曲想的には新録音が合っている気がした。
 
第5番第1楽章は、冒頭に出てくるテーマが楽章全体に、繰り返し、繰り返し、しつこく、脅迫的に現れる。中間部には甘くロマンチックなフレーズも出てくるが、総じて不気味で不安が強い。
 
第2楽章は、鋭い高音域と太い低音域が溶け合わずに流れていく。静かで荒涼とした曲だ。音楽が深呼吸しながら暗い闇に消えていくよう。弦楽器1本1本の音に芯があってとても美しかった。
 
第3楽章になると、第2楽章までの静かな音楽が少しずつ動き始める。明るくユーモラスなフレーズも出てきて、雰囲気も変わっている。少し盛り上がってから第2楽章を思わせる清明な世界に戻っていく。第1楽章冒頭のテーマが回想されて静かに終わった。
 
第6番第1楽章は、第5番に比べて明るく抒情的なフレーズで始まる。どこかロシア民謡的な懐かしさも漂い、その中に通奏低音のように不安の影が射している。それが次第に濃くなっていくが、あまり激しい盛り上がりは見せずに静かに終わった。
 
第2楽章は第1楽章は、もっと不安が強く静かな音楽になっている。

第3楽章はより静かだが、第2楽章よりは抒情的。静かに嘆いているような風情がある。
 
アタッカで第4楽章に入ると、音楽がスケールを増して大きく羽ばたいていく。不安感と抒情性が交差しながら流れていき、最後はやはり静かに終わった。
 
Complete String Quartets
Warner Classics
2003-12-01

ワーナーから出ている旧全集。6枚組3135円。

モーツァルト「オーボエ協奏曲」「オーボエ四重奏曲」他Ob:ブリュイヌ、モンゴメリー指揮18世紀オーケストラ

OBOE CONCERTOS & OTHER..
MOZART
GLOSSA
2016-10-01


フランク・ドゥ・ブリュイヌ(HMVではデ・ブライネと表記)によるモーツァルトのオーボエ作品集。協奏曲のバックをベルファスト出身の指揮者ケネス・モンゴメリー指揮の18世紀オーケストラが務めている。
 
フランク・ドゥ・ブリュイヌは、オランダ、ハーグの王立コンセルヴァトワールで音楽教育を受け、優秀な成績で卒業した。オランダ、イギリス、 ドイツ、フランスの多くの古楽器オーケストラと競演し、アカデミー室内管、18世紀オーケストラ、コンチェルト・コペンハーゲンの首席オーボエ奏者を務めている。
 
オーボエ協奏曲は、全体的にピラミッド状のバランスが取れた音域が広がっている。豊かで柔らかい低音域に支えられ、広大な音空間の中を鋭い音色のオーボエが遊んでいるよう。刺々しい音が全くしないのがいい。
 
第2楽章も、ガツン!と打ち付けるのではなく、広がりを持つて包み込むような18世紀オーケストラが素晴らしい。ブリュイヌが奏でるオーボエがデリカシーを持つた歌を歌っている。
 
第3楽章は溌刺として躍動的一杯に弾んでみせると思ったが、意外と落ち着いた雰囲気でじっくり聴かせている。テンポも少し遅めで、丁寧な演奏と言えるが、少々迫力不足な気がした。
 
オーボエ四重奏曲も協奏曲と同様の傾向の演奏で、しっとりと落ち着いた中に丁寧な演奏を聴かせている。特に第2楽章は、古楽器のヴィブラートを排した弦の響きが笙のように聴こえて美しい。とても深い味わいがあった。

第3楽章もゆつたりとした雰囲気の中に、微妙なニュアンスを表現した大人の演奏だ。
 
ディヴェルティメント第11番K251は、2本のヴァイオリン、ヴィオラ、オーボエ、2本のホルン、コントラバスという編成の曲。この中でもオーボエの音色が一番鋭く突き抜けているので、小編成のオーボエ協奏曲のように聴こえる。
 
演奏は、オーボエが音色的には目立っているが、音量的にはあまリクローズアップされてないので、オーボエが大勢の仲間に取り囲まれて楽しく歌っているイメージ。全体としてはオーボエ協奏曲と同様なニュアンスの豊かな演奏でt抒情性を感じさせるしっとりとしたものだ。その一方で、ここでも聴く者の心にぐっと迫つてくるものがないので、少々物足りない気もした。
 
最後にモーツァルトがアロイジアのために書いたアリア「あなたに明かしたい、おお神よ」が入っていて、オランダのソプラノ、レンネケ・ラウテンが瑞々しい歌を聴かせている。オーボエもオブリガードで大活躍。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
①オーボエ協奏曲K 314
②オーボエ四重奏曲K370
③デイヴェルティメント第11番 KV251
④アリア「あなたに明かしたい、おお神よ」K 418
オーボエ:フランク・ドゥ・ブリュイヌ Frank de Bruine
指揮:ケネス・モンゴメリー Keneth Montgomery
管弦楽:18世紀オーケストラ
ソプラノ:レンネケ・ラウテン Lenneke Ruiten④
録音:2015年1月、10月 アムステルダム 
Frank de Bruine

Plaatpaal このCDが聴けるサイト

私も吹きました 三浦真理「想い出は銀の笛」Lynx

Sweet Classics Primavera
Lynx
ソニー・ミュージックレコーズ
2002-02-20


Lynxのアルバム「Sweet classics Primavera」の中に入っている1曲で、三浦真理の「想い出は銀の笛」。Lynxの初期のアルバムは、映画音楽やクラシックの有名曲のアレンジものが中心になっていて、それらの最後にオリジナルのフルート四重奏曲が入っているというパターンが多かった。
 
「Lynx」の最後にボザの「夏山の一日」が入っていて、「quadrant」の最後にはカステレードの「フルート吹きの休日」が入っている。そして「Sweet Classics Primavera」には三浦真理の「想い出は銀の笛」という具合に。全部確認したわけではないが、どこかにデュボアとかも入っているんじゃないだろうか。

私は自分でもフルートを吹き、ボザやカステレード、デュボアなどのアンサンブルも吹く。この「想い出は銀の笛」も吹いたことがあるが、フルート・アンサンブルのCDを聴くことは滅多にない。それはひとえにフルート・アンサンブルのCDが少なかったからだ。以前は東京フルート・アンサンブルのCDの他には見当たらなかった。それがLynxの活躍で一気に選択肢が広がり、クドウ・シゲノリ・フルート・アンサンブルまで出来て、同じ曲を聴き比べることさえできるようになった。
 
しかし、私がフルート・アンサンブルのCDを聴く頻度は変わらない。殆ど聴くことはない。それは、何と言っても、オリジナル曲が少なく、殆どがポップス、映画音楽、有名クラシック曲の編曲だからだ。やはリフルート・アンサンブルの魅力を最大限に発揮出来るのはオリジナル曲だと思う。
 
ただでさえ音を息で表現するフルートは、弦楽四重奏のような細やかな表現やダイナミクスの大きさがないのに、編曲物でオリジナルに優る魅力のある演奏をするのは至難の業だろう。フルート・アンサンブルの良さを考慮して書かれた曲でないと、真価を発揮出来ないのだと思う。
 
しかしLynxは、2001年ソニーレコードからメジャーデビューしてからリリースしたCDは12枚を数え、全員が結婚、出産を経験してなお、アンサンブル存続の決意を固めているというから凄い。フルート・アンサンブルというジャンルを世に知らしめた功績は、今までのどのフルート奏者にも出来なかった偉業だ。

↓最近ではバッハのフーガの技法をフルート・アンサンブルで録音したと言うから、その快進撃は止まる所を知らない。是非聴いてみたいような、恐ろしいような・・・。ついでに言うなら、Lynxはフルート・アンサンブルのオリジナル曲をまとめて1枚に入れたCDを出して欲しいものだ。
FUGA~バッハ フーガの技法~
LYNX
インディーズ・メーカー
2013-04-13

 
三浦真理(みうらまり)は、1960年、東京生まれの作曲家。1983年、国立音楽大学作曲科を首席で卒業、同大学院修了している。第1回サクソフォーン協会主催作曲コンクール入選。ピアノデュオ国際作曲コンクール第1回,第2回入選。その他委嘱作多数と、華々しい経歴を持っている。
 
その割にはネットの検索で見つけたプロフィールには「都内の幼稚園でピアノを教えています」と書いてある。本格的な作曲家家業はしてないんだろうか?

第1楽章「エメラルドグリーンの風」は、鐘が鳴るようなオープニングから、ゆったりとして複雑な和声の中間部に繋がる。メロディは柔らかく親しみ易い曲だ。演奏はちょっと音程が不安定なことが気になった。

第2楽章の「真紅のルビー」は、爽やかなメロディが美しく、テンポはゆっくりで抒情味を感じる。
 
第3楽章は「ブラック・インヴェンション」。黒い発明?インヴェンションは音楽用語のインヴェンション(探求されるべき曲)か。硬く鋭いスタカットで緊張感を出そうとしているが、音楽自体も少々硬くなってしまっている。
 
第4楽章「紫の薔薇」は、もっと神秘的な曲だと思っていたが、ここでは速めのテンポでスッキリ演奏している。神秘性が薄れて爽やかな音楽になっているが、私としてはもっとねっとり演奏しても良かったのではないかと思ってしまった。
 
第5楽章「ブルー・パステル」は、弾んだ曲調と演奏の方向性がぴったり合って爽快な気分になれる。ここでも細かい所の完成度を求めたい所。
 
Lynxの演奏は、この曲を比べたわけではないが、東京フルート・アンサンブルやクドウ・シゲノリ・フルート・アンサンブルなんかの演奏と比べると、少々頼りなさ気に聴こえる。録音のせいもあるのだろうか。もっと厚みがある録音だと、堂々として聴こえたかもしれない。
 
私もこの曲を演奏したことがあるが、ハッキリ言って下手っぴいなアマチュア奏者なので、Lynxの演奏にケチをつけられるほどの演奏が出来るわけがない。もしLynxが目の前で演奏してくれたら、涙を流して絶賛するだろう。
 
だけど、CDの演奏を聴く私は一消費者である。Lynxでもパユでも、その演奏は仰ぎ見る芸術であると同時に、消費される商品だ。商品は比較され、批評され、選別される。それがプロ演奏家の宿命なのだ。

三浦真理                    
フルート四重奏のための「想い出は銀の笛」
1エメラルドグリーンの風
2真紅のルビー
3ブラック・インヴェンション
4紫の薔薇
5ブルー・パステル
演奏:Lynx

ガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」「パリのアメリカ人」デ・ワールト指揮モンテカルロ国立オペラ管

Gershwin
ハース(ウェルナー)
マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
1994-03-05

大方の予想を覆して、トランプ氏が次期アメリカ大統領に決まった。テレビもネットも「トランプ氏が大統領になることはない」と繰り返していたが、結果が出ると「予想外に白人労働者の怒りは大きかった」などと自分たちの予想が外れたことの言い訳に忙しい。半年前のイギリスのEU離脱も予想外だったことも考え合わせると、マスコミの予想というものは、全く当てにならないということがよく分かった。

関係者全員がクリントン候補のほうが大統領に相応しいと考えていたことが通らなかったということは、関係者と大衆の考えが全く離れてしまっているということで、世界は専門家が考えている方向とは違った方向に動こうとしているようだ。それは、より本音が前に出る世界。大衆の生の感情、剝き出しの本音が政治を動かす世界だ。それが良いのか悪いのか分からないが、その流れは世界中を動かして行くだろう。

ということで、次期アメリカ大統領が決まったことを祝して、アメリカ音楽を聴こう。

私は今までガーシュウィンを殆ど聴いてこなかった。ガーシュウィンがヨーロッパ中心のクラシック音楽保守本流から外れていたからだろうけど、外れている作曲家を敬遠してきたわけではない。多分ガーシュウィンのアメリカの都会っぽい所やジャズの流れを汲んでいる所に、自分の守備範囲外だと感じていたからだろう。
 
私が持っている唯一のガーシュウィンは、エド・デ。ワールトがモンテカルロ国立オペラ管とフィリップスに入れた2枚組のCD。1970年代の録音だ。確か家内がガーシュウィンが聴きたいと言ったので、2枚組お徳用廉価盤を買ってきたことを覚えている。
 
ガーシュウィンは、1898年、ニューヨーク、ブルックリン生まれの作曲家もユダヤ系ロシア移民の息子だった。20歳くらいから歌曲の作曲家として活動を始め、「アイ・ガット・リズム」などのヒット曲やミュージカル・ナンバーを生み出した。
 
ジャズ王として人気絶頂だらた指揮者のポール・ホワイトマンが人気作曲家になったガーシュウィンに目をつけ、ピアノとジャズ・バンドのための演奏会用楽曲の依頼を行い、1924年に代表曲である「ラプソデイ・イン・ブルー」が作曲された。
 
ガーシュウィンがオーケストレーションに不案内だったため、ホワイトマン楽団のアレンジャー、ファーディ・グローフェが代わって編曲を行い、ピアノとジャズ・バンド版を作り上げた。
 
その後ガーシュウィン自身の2台のピアノ版、1924年の成功を受けて1926年にグローフェが作ったオーケストラ版、ガーシュウィンのピアノ・ソロ版、ピアノが入らないグローフェ再編曲版(1938年)、フランク・キャンベル=ワトソンによるピアノとオーケストラ版(1942年)などがあり、ワトソン版がよく演奏される。
 
私にはあまり馴染みのない曲なので、演奏の善し悪しを評価することはできない。曲を聴くと、よく知っているメロディが出てくるピアノ協奏曲って感じ。全てがアメリカ的で、陽気で楽しく、そして甘く切ない。
 
こういった音楽を聴く時いつも思い出すのは、子供の時よく見ていたアニメ、 トムとジェリー。トムとジェリーには、この手の音楽がよく使われていた。ガーシュウィンがそのまま使われていたこともあったんじゃないかな。古き良き時代のアメリカの都会の夜。ビルディングの光に照らされた都会の片隅は、それだけで孤独を感じて切ない気分にさせられる。
 
「パリのアメリカ人」は、1928年に、ニューヨーク・フィルの委嘱を受けて作曲され管弦楽曲。同年訪れたパリの印象を管弦楽で表したもので、「これは私の試みた最も現代的な作品で、この曲は一人のアメリカ人がパリを訪問し、様々な騒音に耳を傾けながら街を歩き、フランス的な環境を少しでも吸収しようとしている姿を描いたものだ」と述べている。
 
第1楽章は陽気でユーモラス。昔の映画音楽のようで、本当に標題的。もう、そのまんまって感じ。凄い喧喋の中に時々郷愁を誘う甘いメロディが出てくる。アンダンテに入ると本格的に優しい音楽になって、よく聴く懐かしいナンバーが出て来る。アメリカ的郷愁というか、南部の田舎を思わせるブルースが使われている。第3部は再びノリがよくなるが、第1楽章の音画的な喧喋とは違って、華麗でメロディックな管弦楽が展開される。
 
昔「巴里のアメリカ人」というジーン・ケリー主演の映画を見たことがあるが、ラストでジーン・ケリーがかなり長い間踊り続けるシーンがあり、見た時は「やたらと長く踊り続けるな~、いつまで踊るんだ?」と思った記憶があるが、あれはガーシュウィンのパリのアメリカ人をバックに踊っていたそうだ。

ジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin、1898~1937)
①「ラプソディ・イン・ブルー」
②「パリのアメリカ人」
ピアノ:ウェルナー・ハース①
管弦楽:モンテカルロ国立オペラ管弦楽団
指揮:エド・デ・ワールト
収録:①1970年6月10日、②1971年5月3日-8日


モーツアルト「ピアノ・ソナタ第10番K330、第13番K333」 P:シフ

モーツァルト:ピアノ・ソナタ集Vol.5
シフ(アンドラーシュ)
ユニバーサル ミュージック
2016-01-27


モーツァルトのピアノ・ソナタ第10番K330から第13番K333までの4曲は、モーツァルトがザルツブルクに別れを告げ、ウィーンに出てきて自活するようになった時期に作曲されている。正確な作曲時期や場所については諸説あり、決定的証拠があるわけではないらしい。
 
タイソン:楽譜が書かれた用紙の研究に基づきK330~332の3曲を1783年にザルツブルクに帰郷した時に作曲されたと推定。
コンラート:3曲ともウィーンで作曲され、時期はK332は1780年代初頭。K330,331は1783年。 
アイゼン:3曲ともウィーンで作曲されたと考えるが、1781年初頭のミュンへン滞在中に作曲された可能性も捨てきれない。
 
K333はザルツブルク帰郷の帰り道に立ち寄ったリンツで着手され、ウィーンで完成された そうだ。(西川尚生:作曲家、人と作品シリーズ「モーツァルト」より)モーツァルトが故郷を捨てて単身ウィーンにやって来たのは1781年のことだ。ザルツブルクのコロレド大司教との仲は決定的な破局を迎え、お互いに罵り合ってのケンカ別れとなった。モーツァルトはザルツブルク宮廷を解雇され、ウィーンでフリーの青楽家としてやっていくこととなった。
 
当時音楽家が生きていく方法で、最も安定していたのが宮廷に雇われることだった。フリーの音楽家が生活の糧を得るのは並大抵のことではなかったようで、モーツァルトもウィーンに来てから宮廷への就職を画策している。
 
そのためには音楽好きの啓蒙専制君主として知られるオーストリア皇帝ヨーゼフ2世に認められることが第一だた。「後宮からの逃走」は宮廷歌劇場で上演して皇帝の気を引こうと作曲されたオペラで、モーツァルトは思惑通り宮廷歌劇場からドイツ語によるオペラ作曲の依頼を獲得していたのだ。
 
宮廷への就職を両策する一方で、日々の糧を得るためモーツァルトがウィーンで行っていたのは、公開演奏会の出演と、クラヴィーアの家庭教師だった。公開演奏会で演奏するのは自ら独奏者として出演するピアノ協奏曲で、この時期珠玉のピアノ協奏曲が量産されている。
 
その一方でピアノ・ソナタは主に富裕層の自宅で、行われる私的な演奏会で演奏されたと考えられるが、ピアノ協奏曲程の力作が作られているわけではない。ウィーン時代の11年間に作曲されたピアノ・ソナタは、9曲を数えるのみだった。
 
第10番K330は、第11番「トルコ行進曲付き」や第12番に比べてこれといった特徴を見いたしにくい曲だ。いつのモーツァルトらしい明るく屈託がない世界が広がっているが、一度聴いたら忘れられないようなメロディが出て来ないので、人気の点でも11番以降の曲に水をあけられている。
 
この曲を聴いていると「モーツァルトってやたらと音階の上がり下がりが多くない?」という思いが湧いてくる。今でこそモーツァルト程音階を美しく歌わせた作曲家はいないと思っているが、若い時モーツァルトを聴き始めた時は「なんだが音階が上がったり下がったりばかりでメロディがないじゃyん!」と不満に思っていたのだ。

さしずめこのK330なんかはその典型的な曲ではないだろうか。平明な曲想の中にメロディは音階の中に取り込まれている。そんな所が印象に残り難い点に繋がっているような気がする。第13番K332は第10番よりは陰影に富んだメロディが聴ける曲だ。

シフの演奏はデリカシーに溢れていてとてもいい。ちょっとロマンチックな香りがして甘い感傷に浸っていられるのだ。録音はイマイチで、ちょっと遠くで鳴っているようなモゴモゴ感がある。同時期にフィリップスから出ていた内田光子のほうが音がよかった。 

 

ショスタコーヴィチ「24の前奏曲」ラウエルバッハ「ヴィオラ・ソナタ」Va:カシュカシアン、P:アウエルバッハ

Arcanum: Auerbach & Shostakovi
Kim Kashkashian
Ecm Records
2016-09-30


世界的なヴィオラ奏者、キム・カシュカシアンとロシアの作曲家レーラ・アウエルバッハのコラボレーション・アルバム。
 
1曲目はショスタコーヴィチの「24の前奏曲」をアウエルバッハがヴィオラとピアノ用に編曲したもの。ただし24曲のうち19曲はドミトリー・ツィガノフがヴァイオリンとピアノに編由した版があり、残りの5曲はアウエルバッハがヴィオラ用に編曲したものだが、他の19曲はラウエルバッハが編曲したのか、ツィガノフ版をヴィオラ用に改変したものかはよく分からない。
 
キム・カシュカシアンは、1952年、アメリカ、デトロイト生まれのヴィオラ奏者。1980年代にギドン・クレーメルと競演したCDがリリースされて名前が知られるようになった。私は長いこと男性だと思っていたが、実は女性なのだ。
 
ショスタコーヴィチの「24の前奏曲」は、1933年(27歳)に作曲された。ショスタコーヴィチは、第1回国際ショパン・コンクール(1927年)に出場するほどの腕前であるにもかかわらず、ピアノ曲は少ない。はりきって出場したショパン・コンクールで落選したことはショックだったらしく、ピアノ演奏活動から遠ざかっていたようだが、この曲やピアノ協奏曲第1番の完成で自信をつけて、演奏活動にも復帰している。
 
私は「24の前奏曲」を数回しか聴いたことがないので、元曲のピアノ版との比較はできないが、知っていたら印象の違いなども書けたかもしれないのが残念だ。雰囲気はショスタコーヴィチらしい不気味さを持っているが、さほど暗くはない。それどころか随所に美しいメロディが現れて、ロマンチックな気分にさせられた。
 
短い曲が多く、中には始まってフレーズの提示があったと思ったらすぐに終わってしまう曲もあった。ピアノのアイディア集を聴かされているような気もする。
 
その中にあって、第16番は勇壮なフレーズにおどけた調子が入り込んで却って滑稽だったり、続く第17番は甘い雰囲気になりそうでならずに奇妙な調子に崩れて行ったりと、一筋縄では行かない複雑な曲ばかりだ。カシュカシアンとラウエルバッハは、そうした曲集の中の1曲1曲の特徴を明確に描き分けていた。

2曲目はピアノを弾いているラウエルバッハの「ヴィオラとピアノのためのソナタ〝アルカナム~秘薬、神秘”」。レーラ・アウエルバッハは、1973年、ソ連のチェリャビンスク出身の作曲家、ピアニスト。
 
ピアニストである母から音楽教育を受け、作曲家としての教育もロシアで受けていたが、1991年にニュー・ヨークにコンサートツアーに行くことを許可され、その時全く英語も話せなかったにもかかわらず、亡命を決心した。マンハッタン音楽学校、ジュリアード音楽院で学び、2005年に、ギドン・クレーメルとクレメラータ・バルティカのために作曲した「ヴァイオリンとピアノ、管弦楽のための組曲」でカーネギー・ホールにデビューしている。

ショスタコーヴィチよりも無調的だが、現代音楽としては聴き易い部類に入る。雰囲気は不気味だが、メロディはハッキリそれと分かるし、部分的には調性があった。第2楽章は透明感のあるピアノのフレーズの上に、特殊奏法を伴ったヴィオラが呻く様なフレーズを歌う。
 
第3楽章冒頭は動きのある激しいフレーズで始まったので、全編この調子で行くのかと思ったら、すぐに第2楽章と似た静かな音楽になった。そのまま再び盛り上がることもなく、とても静かな状態になって終わった。
 
第4楽章も静かな音楽。現代曲にしては親しみやすいし美しいフレーズもあるが、それ以上胸に迫ってくるものがあるかと訊かれれば、ちよつと疑問だ。
 
録音は残響が多めに取られていて、ピアノが特によく響いている。ヴィオラはあまリクローズ・アップされてないので、ピアノの力強さに少々押され気味だった。
 
①ドミトリー・ショスタコーヴィチ/アウエルバッハ編「24の前奏曲」
②レーラ・アウエルバッハ Lera Auerbach
「ヴィオラとピアノのためのソナタ“アルカナムArcanum~秘薬、神秘"」
キム・カシュカシアン(ヴィオラ)
レーラ:アウエルバツハ(ピアノ)
録音時期:2013年10月チューリッヒ放送スタジオ
Plaatpaal このCDが聴けるサイト
Kim Kashkashian - Lera Auerbach02
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