ラルス・フォークトは、1970年、ドイツのデューレン生まれのピアニスト。1990年にリーズ国際コンクールで2位になって国際的に注目された。その後着実に活動の幅を広げ、1998年からは「シュパヌングン音楽祭(発電所の音楽祭)」を主宰、また2003‐2004年のシーズンにはベルリン・フィルの「イン・レジデンス・ピアニスト」に任命され、数多くの室内楽や独奏曲を演奏している。
今回のシューベルト・アルバムは「即興曲」「6つのドイツ舞曲」「楽興の時」の組み合わせ。即興曲は、優しく歌う所の優さが′いに染みる。ガーン!と打ち付ける所との対比も鮮やかで力強い。第2曲では伸びやかに流れていくアルペジオが気持ちいい。後半の厳しい盛り上がりも気合が入っていた。
第3曲も冒頭のフレーズが柔らかいタッチで優しく響く。第4曲ではそこれまでの特徴であるデリカシーにスケールの大きな力強さが加わって、見事な演奏に仕上がっている。
「6つのドイツ舞曲」で検索するとすぐにモーツァルトの作品が出てくる。シューベルトのものはエステルハージ家の娘の教育用に作曲された物のようだ。そのためかとても素朴なメロディが聴かれる。優しいタッチとヴィヴィッドな色使いで魅力的な演奏になっていた。
楽興の時、第1曲はとても慎重な導入と躍動感を持ったフレーズの歌が聴ける。人の心のひだに入り込むような内省的な瞬間と生き生きした前進性が同居し、立体的な音楽が奏でられる。
第2曲も、こうした行き方で情感豊かな歌が歌われている。第2曲は特にしんみりした雰囲気が胸にぐっと来た。
第3曲は冒頭の激しいフレーズが印象的だが、全体のイメージは第1曲、第2曲と同様穏やか。
第3曲は冒頭の激しいフレーズが印象的だが、全体のイメージは第1曲、第2曲と同様穏やか。
第4曲は、よく聴く曲。私でも知っている。第5曲も同系統の曲で、他の曲に比べて単純で親しみやすい。柔らかく細やかな配慮が行き届いた演奏で、曲の魅力が一段と発揮されていた。
第5曲は焦燥感がひたひたと迫ってくるような緊迫感があり、打鍵も鋭く力強かった。
第5曲は焦燥感がひたひたと迫ってくるような緊迫感があり、打鍵も鋭く力強かった。
第6曲は、人生の終わりを感じさせるようバラード。諦念と清々しさが入り混じったような境地に至り感動的だった。
2022年9月5日がんのため51歳でこの世を去った。
2022年9月5日がんのため51歳でこの世を去った。
フランツ・シューベルト
①即興曲Op.90 D899
②6つのドイツ舞曲 D820
③楽興の時Op.94 D780
ピアノ:ラルス・フォークト Lars Vogt
ピアノ:ラルス・フォークト Lars Vogt