モーツァルトのピアノ協奏曲第第8番“リュッツォウ” K.246は、1776年4月にザルツブルクで作曲された。リュッツオウとは父レオポルトのピアノの弟子リュッツォウ伯夫人アントーニエのこと。1738年生ま れなので、この時38歳。彼女のために依頼されて作曲されたためのこの名前がついた。技術的な手加減なしに書かれていることから、アントーニエのピアノの腕前は確かなものだったのだろう。
リュッツオウ家はザルツブルクの名家で、リュッツォウ伯爵はホーエンザルツブルク要塞の司令官にしてコロレド大司教の親戚だった。アントー二エは二番目の奥さん。
モーツァルトはこの曲が気に入っていたらしく、後にも演奏したようで、第1楽章と第2楽章のために書いたカデンツァが残っている。
アンドラーシュ・シフとシャンドル・ヴェーグ指揮カメラータ・アカデミカ・モーツァルテウム・ザルツブルクによるモーツァルトピアノ協奏曲全集からの1枚。シフとヴェーグは共にハンガリー系という事で気心が知れるのかも。
シフのピアノは繊細で感受性豊かな演奏だが、この演奏の立役者はヴェーグと彼のオーケストラだ。音が立っているというか、生き生きとした感興がとても素晴らしく、生気が漲っている。音色はこなれており、ちょっとしたフレーズにも血が通っていて、モーツァルトを聴く喜びを満喫させてくれるオーケストラは他にない。
モーツァルト
「ピアノ協奏曲第第8番“リュッツォウ” K.246」
ピアノ:アンドラーシュ・シフ
指揮:シャンドール・ヴェーグ