Tintomara
Wim Van Hasselt
Channel Classics Nl
2015-02-10


ベルギーの国際的トランペット奏者ヴィム・ヴァン・ハッセルトと、 トロンボーン奏者ヨルゲン・ヴァン・ライエンによるデュオ・アルバム。二人は共にロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席奏者として活躍していた。ハッセルトは、2009年から2014年まで首席奏者を務めており、ライエンはゲブヴィレー国際(1999年)、 トゥーロン国際(2001年)で優勝した名手だ。
 
⑥マルティン・パディングは、1956年、オランダのアムステルダム生まれの作曲家。現在ハーグ王立音楽院の教授を務めている。
 
「ワン・トランペット」はその名の通り、無伴奏トランペットのための曲。これを聴くとトランペットという楽器の音色が頗る多彩であることに気づかされる。トランペットって、オーケストラの中の輝かしいフレーズを担当していることから、そういった音色だけが目立ちがちだが、 トランペットー本で聴くと、硬い音から柔らかい音、強い音、弱い音など表現の奥行きがとても広いのだ。
 
ここでは特殊奏法まで駆使して面白い音楽を聴かせる。ブィーって感じの変な音は多分口の中で「ブー」っと言いながら吹いているんだと思う。

⑦ラヴェルの「パサカイユ」は、ピアノ三重奏曲の第3楽章の編曲だと思われる。冒頭でピアノとトロンボーンが抒情的で物悲しいメロディを吹くのが魅力的。弦楽器が金管楽器に置き換わると全く雰囲気が変わっている。最初はパヴァーヌのような抒情的な雰囲気が強かったが、後半になるにつれて不気味なイメージが強くなった。
 
③フローリアン・マグナス・マイヤーは、1973年、ドイツのミュンヘン生まれの作曲家。1994年にオランダに移住している。メタル・ロックやフラメンコ音楽、ストラヴィンスキーやぺンデレツキ、リゲティ、ショスタコーヴィチなどに影響を受けたそうだ。
 
いきなリパーカッションのような「シャカシャカ」というリズム音で始まった。「トロンボーン・ソロとループ・ステーションのための」と書かれているので、このリズム音はループ・ステーションの音なのだ。
 
ループ・ステーションとは、短いフレーズを録音して、それを何度も繰り返す(ループ)させて音楽を作る機械のこと。パソコンでもできるが、曲名に「ループ・ステーション」と断っているからには、単体の機械を使っているのだろう。最近は小さな機械を使って、楽器を弾きながら即興の音楽を作るのが欧米で流行っているらしい。
 
ジャズかファンクのような音楽になっていて、「シャカシャカ」のリズムに重ねていろんな音がループされている。トロンボーンに弱音器をつけた音や、お椀を開閉する「ホワホワ」という音などが出てきて、そのうちどれがループの音なのか、現実に吹いている音なのか分からなくなってくる。もっともその区別に意味はないのかも知れないけど。
 
「シャカシャカ」が消えると、 トロンボーンの生音とループだけになり、より静かになってループと生音の境界が曖味になった。トロンボーンの音が2重3重に重なって奇妙な世界が作られる。
 
ループ・ステーションってやり始めると病みつきになるって言うけど、確かに即興でやったら面白そうだ。ギターのエフェクターで有名なBOSSからいろんな機種が出ている。
 
⑨ジャン・フランソワ・ミシェルは、1957年生まれの作曲家。ミシェルは、「イーストウィンド」を作曲するにあたって、ジプシー達の豊かな民謡からインスピレァションを受けた。バルカン半島やジプシー達が住み着いた東ヨーロッパの国々には、多くの異なったスタイルを持つ音楽が息づいているのだ。
 
これらの民謡は長調と短調の間、野性的な踊りと悲しい歌の間を自由に行き来し、聴衆に悲しくも幸せな魂を感じさせる音楽になっている。
 
「イーストウィンド」は2012年の2月に第61回スロヴェニアのリュブリャナ音楽祭のオープニングで初演され、演奏をスローカー・アカデミーとソリスト達による、4つのトランペットと4つのトロンボーンによるブラス・アンサンブルが務めた。
 
冒頭はブラス・アンサンブルが輝かしいファンファーレを聴かせたが、すぐにメチャメチャにベタな民族的音楽が始まる。ユーモラスで灰汁が強い。ハンガリー辺りの民族音楽に思えた。次々に楽想が変わっていき、民族音楽組曲って感じ。優しいメロディからヒロイックな音楽、ブラス・アンサンブルならではの面白いフレーズもたっぶり聴かれた。最後は全員の「Hey!」で終わり。
 
「ティントマラ:Tintomara」
⑥マルティン・パディング
「ワン・トランペット~トランペット・ソロのための」
⑦モーリス・ラヴェル
「パサカイユ」
③フローリアン・マグナス・マイヤー
「スリップストリーム~トロンボーン・ソロとループ・ステーションのための」
⑨ジャン・フランソワ・ミシェル
「イーストウィンド~トランペット、 トロンボーンと金管アンサンブルのための」
ヴイム・ヴァン・ハッセルト(トランペット)
ヨルゲン・ヴァン・ライエン(トロンボーン)
アラ・リボー(ピアノ)⑦
ピエール・フォルダース(指揮)⑨
アーウィン・テア・ボクト(トランペット)⑨
ヤッコ。フローネンダイク(トランペット)⑨
バート・ランゲンカンプ(トランペット)⑨
アド・ウェルマン(トランペット)⑨
レムコ・デ・ヤハルト(トロンボーン)⑨
セバスティアーン・ケムナー(トロンボーン)⑨
アレクサンダー・フェルベーク(トロンボーン)⑨
ブラント・アッテマ(バス・トロンボーン)⑨
収録:2014年9月29,30日、10月1,2日オランダ、ヒルフェルスム、MCOスタジオ1
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Jörgen van Rijen