John Cage: Journeys in Sound [DVD] [Import] クチコミを見る
ジョン・ミルトン・ケージ・ジュニア(John Milton Cage Jr.、1912~1992)は、アメリカ合衆国出身の音楽家。今年はケージ生誕100年に当たり、9月5日が誕生日だったからか、NHKでケージのドキュメンタリーとスタジオでの演奏が放送された。
「音の旅」と題されたドキュメンタリーはとても興味深かった。冒頭に出てきた白黒画面、まだ若いケージがアメリカのテレビ番組に出ている様子は面白かった。いかにも古めかしいブラウン管の中で、ケージが風呂に水を入れる音を「演奏」している。アメリカのバラエティ番組らしく笑い声が入っているが、ケージは真剣そのもの。今の時代でもケージの音楽が一般的になったとは言えないのに、この時代の人達がケージの音楽を聴いた時の驚きは大変なものだっただろう。
ケージの初期の頃のキャリアは、後期のような偶然の音楽や物音音楽ではなく、普通にピアノを弾いたりしていた。ピアノ自体は普通ではなく、ネジやゴムを挟んで変な音にしていたけど(プリペアド・ピアノ)。この頃の曲はアメリカでかなり受け入れられ、楽譜の売り上げも好調だったらしい。
「危険な夜」というプリペアド・ピアノのための曲を一柳慧の演奏で聴いたが、これが結構良かった。ちょっと環境音楽かミニマル・ニュージックのような感じで、単調なメロデイ・パターンが延々と続き、聴いていると心が休まる。後ろで変なダンスを踊っていたが、これは良く分からなかった。
吉野直子がハープを弾いた「ある風景の中で(1948)」もサティの影響を感じさせるいい曲。優しい環境音楽って感じだ。
これが「居間の音楽(1940)」になってくると、これが音楽か?という疑問が湧いてくる。4人のパフォーマーが食卓を叩いたり、鼻歌を歌ったり、食器を叩いたり、こすったり。音楽の演奏と言うより、演劇の部類に入る気がする。確かに主題は「音」であり、パフォーマンスが目的ではないのだが。
究極は「チャンス・オベレーション」で、曲は偶然性に左右され、どんな音を出て来るかは運次第。ラジオの周波数音や繰り返すドラム音など、ほとんど雑音にしか聴こえない。雑音音楽だ。
これは音楽なのか?ドキュメンタリーの中でチャイム・タネンバウムはハッキリと「これは音楽ではない」と言い切っていた。私もそう思う。この問いに答えるなら、「そもそも音楽とは何か?」ということを明らかにしなければならない。雨音や虫の声を聴いて楽しむ精神があれば、チャンス・オペレーションも音楽に聴こえるかもしれないが、私にはその議論は頭の中の言葉遊びに思える。この雑音を聴いて楽しむ気にはなれない。雨音や虫の声は美しいとは思うが、ずっと聴き続ける気にはならないから。
面白かったのはケージの曲をライブ演奏の様子を映したビデオだ。ピアニストはちょっとピアノを弾いたかと思うと、横に置いであるバスタブに水を流し込む。さらにラジオのスイッチを入れ、チャイムを鳴らす。観客は真面目にこの演奏(?)を聴いているが、私にはその顔はハッキリ言って困惑しているようにしか見えなかった。少なくとも楽しんではいないだろう。私は笑いをこらえることができなかった。
今の時代なら、私たちはケージの音楽に困惑したりしない。こんなものだと分かっているから。私も初期の頃の曲は好きだし、偶然の音楽も頭で考えると何となく楽しそうで興味が湧く。知的好奇心を刺激される音楽だが、正直言って「たまに聴くのはいいjと言うのが本音だ。
ドキュメンタリー「音の旅」 出演
ピアニスト・作曲家:シュテフェン・シュライエルマッハー
ニューヨーカー誌記者:カルヴィン・トムキンズ
作曲家:クリスティアン・ウォルフ
C・F・ベータース社現代音楽部門副部長
楽譜出版者:ジーン・カプリオッリオ
C・F・ベータース社元副社長楽譜出版者:ドン・ガレスビー
音楽史家:ヴィヴィアン・ペルリス
哲学者・音楽家:チャイム・タネンバウム
ジョン・ケージ・トラスト:ローラ・クーン
作曲家:ウォルフガング・リーム
美術家:ウィリアム・アナスタシ
作曲家:細川俊夫
笙奏者:宮田まゆみ
芸術家:オノ・ヨーコ
アルディッティ弦楽四重奏団第一バイオリン奏者:アーヴィン・アルディッティ
モード・レコード社:ブライアン・ブラント
美術家:ダヴ・ブラッドショー
ピアニスト:デーヴィッド・テュドア
歌手:ジュリア・へニング
ディレクター:アラン・ミラー/ポール・スマツニ
「ザ・ジョン・ケージ」
1 「4分33秒」(スタジオ環境音)
2 「ある風景の中で」 吉野直子(ハープ)
3 「危険な夜」一柳慧(ピアノ)白井剛(ダンス)
4 「居間の音楽」アンサンブル・ノマド(打楽器&ボイス・パフォーマンス)
木ノ脇道元 佐藤洋嗣 甲斐史子 宮本典子
5 「バリエーションズVI」(武蔵野美術大学学生 チャンス・オペレーション)
6 「One9」から第5曲 宮田まゆみ(笙)
7 「0分00秒」(スタジオ環境音)
白石美雪(音楽評論家)
収録: 2012年2月10日 NHK 101スタジオ
ジョン・ケージ生誕100周年スペシャル・エディション (John Cage 100 - Special Edition) (5CD) [輸入盤]
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ジョン・ミルトン・ケージ・ジュニア(John Milton Cage Jr.、1912~1992)は、アメリカ合衆国出身の音楽家。今年はケージ生誕100年に当たり、9月5日が誕生日だったからか、NHKでケージのドキュメンタリーとスタジオでの演奏が放送された。
「音の旅」と題されたドキュメンタリーはとても興味深かった。冒頭に出てきた白黒画面、まだ若いケージがアメリカのテレビ番組に出ている様子は面白かった。いかにも古めかしいブラウン管の中で、ケージが風呂に水を入れる音を「演奏」している。アメリカのバラエティ番組らしく笑い声が入っているが、ケージは真剣そのもの。今の時代でもケージの音楽が一般的になったとは言えないのに、この時代の人達がケージの音楽を聴いた時の驚きは大変なものだっただろう。
ケージの初期の頃のキャリアは、後期のような偶然の音楽や物音音楽ではなく、普通にピアノを弾いたりしていた。ピアノ自体は普通ではなく、ネジやゴムを挟んで変な音にしていたけど(プリペアド・ピアノ)。この頃の曲はアメリカでかなり受け入れられ、楽譜の売り上げも好調だったらしい。
「危険な夜」というプリペアド・ピアノのための曲を一柳慧の演奏で聴いたが、これが結構良かった。ちょっと環境音楽かミニマル・ニュージックのような感じで、単調なメロデイ・パターンが延々と続き、聴いていると心が休まる。後ろで変なダンスを踊っていたが、これは良く分からなかった。
吉野直子がハープを弾いた「ある風景の中で(1948)」もサティの影響を感じさせるいい曲。優しい環境音楽って感じだ。
これが「居間の音楽(1940)」になってくると、これが音楽か?という疑問が湧いてくる。4人のパフォーマーが食卓を叩いたり、鼻歌を歌ったり、食器を叩いたり、こすったり。音楽の演奏と言うより、演劇の部類に入る気がする。確かに主題は「音」であり、パフォーマンスが目的ではないのだが。
究極は「チャンス・オベレーション」で、曲は偶然性に左右され、どんな音を出て来るかは運次第。ラジオの周波数音や繰り返すドラム音など、ほとんど雑音にしか聴こえない。雑音音楽だ。
これは音楽なのか?ドキュメンタリーの中でチャイム・タネンバウムはハッキリと「これは音楽ではない」と言い切っていた。私もそう思う。この問いに答えるなら、「そもそも音楽とは何か?」ということを明らかにしなければならない。雨音や虫の声を聴いて楽しむ精神があれば、チャンス・オペレーションも音楽に聴こえるかもしれないが、私にはその議論は頭の中の言葉遊びに思える。この雑音を聴いて楽しむ気にはなれない。雨音や虫の声は美しいとは思うが、ずっと聴き続ける気にはならないから。
面白かったのはケージの曲をライブ演奏の様子を映したビデオだ。ピアニストはちょっとピアノを弾いたかと思うと、横に置いであるバスタブに水を流し込む。さらにラジオのスイッチを入れ、チャイムを鳴らす。観客は真面目にこの演奏(?)を聴いているが、私にはその顔はハッキリ言って困惑しているようにしか見えなかった。少なくとも楽しんではいないだろう。私は笑いをこらえることができなかった。
今の時代なら、私たちはケージの音楽に困惑したりしない。こんなものだと分かっているから。私も初期の頃の曲は好きだし、偶然の音楽も頭で考えると何となく楽しそうで興味が湧く。知的好奇心を刺激される音楽だが、正直言って「たまに聴くのはいいjと言うのが本音だ。
ドキュメンタリー「音の旅」 出演
ピアニスト・作曲家:シュテフェン・シュライエルマッハー
ニューヨーカー誌記者:カルヴィン・トムキンズ
作曲家:クリスティアン・ウォルフ
C・F・ベータース社現代音楽部門副部長
楽譜出版者:ジーン・カプリオッリオ
C・F・ベータース社元副社長楽譜出版者:ドン・ガレスビー
音楽史家:ヴィヴィアン・ペルリス
哲学者・音楽家:チャイム・タネンバウム
ジョン・ケージ・トラスト:ローラ・クーン
作曲家:ウォルフガング・リーム
美術家:ウィリアム・アナスタシ
作曲家:細川俊夫
笙奏者:宮田まゆみ
芸術家:オノ・ヨーコ
アルディッティ弦楽四重奏団第一バイオリン奏者:アーヴィン・アルディッティ
モード・レコード社:ブライアン・ブラント
美術家:ダヴ・ブラッドショー
ピアニスト:デーヴィッド・テュドア
歌手:ジュリア・へニング
ディレクター:アラン・ミラー/ポール・スマツニ
「ザ・ジョン・ケージ」
1 「4分33秒」(スタジオ環境音)
2 「ある風景の中で」 吉野直子(ハープ)
3 「危険な夜」一柳慧(ピアノ)白井剛(ダンス)
4 「居間の音楽」アンサンブル・ノマド(打楽器&ボイス・パフォーマンス)
木ノ脇道元 佐藤洋嗣 甲斐史子 宮本典子
5 「バリエーションズVI」(武蔵野美術大学学生 チャンス・オペレーション)
6 「One9」から第5曲 宮田まゆみ(笙)
7 「0分00秒」(スタジオ環境音)
白石美雪(音楽評論家)
収録: 2012年2月10日 NHK 101スタジオ
ジョン・ケージ生誕100周年スペシャル・エディション (John Cage 100 - Special Edition) (5CD) [輸入盤]
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