【ヒッチコック全作品】 2012.11.27 (Tue)
『いかさま勝負<スキン・ゲーム>(1931英)』
≪感想≫
退屈なセリフ劇。あまりに見所がないので、オークションでの主観カメラワークに注目する評もあるが、べつに褒めるほどでもないでしょ。
それより、DVDタイトルをカッコよさげな横文字にして商売しようとしている映画ソフト会社の魂胆がいやらしい。それに乗っかる客もいるってことだろうから、なおさらいやらしい。
A・ヒッチコック監督第13作 『いかさま勝負<スキン・ゲーム>(1931英)』
出演/エドマンド・グウェン (ホーンブロワ)
ジル・エズモンド (ジル・ヒルクリスト)
フランク・ロートン (ロルフ・ホーンブロワ)
フィリス・コンスタム (クロエ)
C・V・フランス (ヒルクリスト)
ヘレン・ケイ (ヒルクリスト夫人)
≪あらすじ≫
土地の所有を巡って対立する、成金の実業家ホーンブロワと名門のヒルクリスト家。実業家の息子ロルフは名門の令嬢ジルに恋をするが、誇り高きヒルクリスト家が承知するはずがない。ホーンブロワ家の嫁クロエの暗い過去を口実にして、実業家の土地を奪い取ろうとする。
≪解説≫
新興実業家と名門地主が対立する社会ドラマ。原作のゴールズワージーは著名なノーベル賞作家。
脚色はヒッチ夫妻。いつもは原作を大胆にアレンジするヒッチだが、本作に限っては原作戯曲にほとんど手を加えなかったというから、原作ありきの雇われ仕事だったか。
≪ヒッチはここだ!≫
不明
『THE SKIN GAME』
監督・脚本/アルフレッド・ヒッチコック
脚本/アルマ・レヴィル
原作/ジョン・ゴールズウォージー
撮影/ジャック・コックス、チャールズ・マーティン
製作/ジョン・マックスウェル
ブリティッシュ・インターナショナル・ピクチャー社 88分
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【クラシック音楽】 2012.11.21 (Wed)
無限 トリスタンとイゾルデ
フルトヴェングラー版
オーストラリア行き飛行機の長旅に、よくワーグナーをお供にしている。
楽劇 『トリスタンとイゾルデ』 全曲。
CD4枚の計4時間超。
同じフレーズを手を変え品を変え、ひたすら繰り返される 「ライト・モチーフ」 の技法。
官能と陶酔の無限ループに身をまかせれば、気圧の低い上空で、ぼくの血潮はあっという間に煮えたぎる。
【フルトヴェングラー&フィルハーモニアO.(1952年)】
ドラマのスケール感、恍惚のうねりはさすが他の追随を許さない。これぞ正統ロマン派の極致! ただ歌手陣がオジサンオバサンくさい。昔のドイツオペラってこんな感じだったなあ、という艶っ気のなさ。でもやっぱりここに帰ってくる伝説的名演。
一方、名演とされる「草食系」クライバーの盤は、何がいいのかさっぱり分からない。
ひとつひとつの音は丁寧で美しいが、愛と生き死にの迫力がまったく!伝わらない。NHK大河みたい。ただ人気指揮者のブランド力はあるので、普段着感覚でさらりと聴き流すにはちょうどいいかも。歌手陣は好演。
カラヤン盤も違った。 ほかバレンボイムを聴いてみたいな。
DVDプレーヤーは手荷物に入れていいの?
座席に電源はないの?
にべもなく乾いた機内で、むせび、すすり・・・
我を忘れて・・・
この無上の悦びよ!
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【このアート!】 2012.11.17 (Sat)
ウィリアム・モリスはお好き
豪アデレード在住の知人の家にお呼ばれしてきたのですが、これがまた見事なビクトリア調にしつらえてありました。
19世紀後半のイギリス、産業革命の反動として生まれた自然や手工芸への回帰運動・・・。
草花をあしらったカーテンや、作り手のぬくもりが伝わる椅子の背もたれなど、それは瀟洒な調度品。ヴィクトリア期の代表的作家、ウィリアム・モリス作の文様も取り入れているとか。
ただ、イギリスふうに慣れていないので、さすがに圧迫感をおぼえます。
「うちもマネしてみる?」
「いや、それで育ってないから絶対飽きるよ。 廊下に帯の壁紙貼るくらいなら」
・・・でやめました。
同じヴィクトリア調でも、どちらかと言えば、ワイルドの戯曲 『サロメ』 の挿絵でおなじみ、ビアズリーのほうが好きです。
もっとも、壁に貼るのは丁重にお断りしますが。
「お前に口づけしたよ、ヨカナーン」
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【ヒッチコック全作品】 2012.11.14 (Wed)
『おかしな成金夫婦<リッチ・アンド・ストレンジ>(1932英)』
≪感想≫
こんな身勝手なダメ亭主。ヒッチ自身をかなり投影しているそうですが、ヒッチもズバ抜けた映画の才能がなければ・・・まさにこんな男だったのでしょう。ヒッチは作品の不評を役者のせいにしていますが、八つ当たりもはなはだしい。
ヒッチおよびアルマ脚本の純コメディ作品はおもしろくない。彼らが作る 「笑い」 は、場つなぎのスパイスくらいがちょうどいい。
A・ヒッチコック監督第14作 『リッチ・アンド・ストレンジ(1932英)』
(その他の旧題 『金あり怪事件あり』)
出演/ヘンリー・ケンドール (フレッド・ヒル)
ジョーン・バリー (妻エミリー)
パーシー・マーモント (ゴードン中佐)
ベティ・アマン (王女)
エルシー・ランドルフ (メガネ婦人)
≪あらすじ≫
倦怠期を迎えたフレッドとエミリーのヒル夫妻に、親戚から大金が譲られた。ふたりは心機一転にとアジアへの優雅な船旅に出かけるが、そこでエミリーは紳士的なゴードン中佐に、フレッドは某国の王女に惹かれていく。
≪解説≫
東洋のロケ映像をバックに、ヒッチと妻アルマ(脚本)の夫婦生活をそのまま題材にしたライトコメディ。ヒッチ自身は本作がお気に入りだったが、観客には受けなかった。初盤に羅列される船酔いのシーン(ヒッチは船酔いしながらプロポーズした)やパリの踊り子の大胆さに驚くシーンなどは、ヒッチ夫妻の個人的なエピソ-ドである。
妻役のJ・バリーは、イギリス映画史上初のトーキー作品であるヒッチの 『恐喝<ゆすり>('29)』 で、ヒロインの声の吹き替えを務めた女優。
≪ヒッチはここだ!≫
?
『RICH AND STRANGE』
監督・脚本/アルフレッド・ヒッチコック
脚本/アルマ・レヴィル、ヴァル・ヴァレンタイン
撮影/ジョン・J・コックス、チャールズ・マーティン
音楽/ハル・ドルフ
製作/ジョン・マックスウェル
ブリティッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ社 83分
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【欧州&世界映画】 2012.11.04 (Sun)
クルーゾー×モンタン 『恐怖の報酬 ('54仏)』
大量の劇薬ニトロを運ぶために雇われた男たちの決死行・・・を描く名作映画 『恐怖の報酬』 (1954年フランス)。
2時間半の長尺のうち、最初の1時間はほんと退屈でした。 アタマの悪い田舎チンピラどもの、仕事もなくダベっているだけのしょうもない日常をダラダラと。
ちょうど1時間ごろから、いよいよニトロを運ぶ命賭けの道のりがはじまります。 少しの振動も許されない悪路、行く手をさえぎる巨岩や原油だまり・・・、次から次へと突きつけられる、スリリングな展開に引き込まれていきました。
後半はあっという間。
そして映画を見終えて・・・。そうか、最初の退屈な1時間はやはり必要だったんだ。
それは 「貧しくとも勇敢に」 なんてきれいごとじゃない。描いてみせたのは、学も仕事もなく社会の底辺に落ちぶれた者の、救いようもない愚かさと逃げられない生活の現実。
ラストがまさにそう。 死と隣り合わせの報酬に浮かれてしまう男の、生の切迫感が悲しいほど伝わってきました。 『蟹工船』 に通じるものがあるかも。
監督はアンリ=ジョルジュ・クルーゾー。もうひとつの代表作 『情婦マノン('49)』 や指揮者カラヤンの映像作品でも有名ですが、小技が過ぎる映像編集が鼻についてあまり好きじゃない人。
主演はシャンソン界の巨星イヴ・モンタン。学生時代、彼の名曲 『枯葉』 でフランス語の発音の勉強をしたものです。
・・・その学生時代以来2度目の鑑賞でしたが、観てよかった。公開当時の映画青年たちに強く支持されたゆえん、ただのスリル映画じゃないことに気付けました。
(NHK-BSの日本語訳はこんなものなのかなぁ? もっと話を盛り上げられそうだが。英語版から訳しているのだろうか。)
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【ヒッチコック全作品】 2012.11.01 (Thu)
『第十七番 (1932英)』
≪感想≫
乗らないスリラー企画を押し付けられたヒッチは、いっそギャグ映画にして茶化そうとしたらしいが、どっちつかずの中途半端な作品になってしまった。ややこしい人物設定には何かの含みがあるのだろうが、まったく伝わっていない*。 失敗作の失敗にもいろいろあるが、これはそもそもの出来がめちゃくちゃ。
ただクライマックスは、ヒッチが好きな列車を舞台にしたチェイスが展開。このミニチュア撮影がたいした迫力で、まったくオモチャに感じさせないのには驚いた。円谷ミニチュアしか知らないぼくは井の中の蛙だった。
(*実際含みがあるが、本人しか分からないつまらないダジャレがらみ。-―冒険映画のヒロインは 「おバカ(dumb)」 と決まっているから、本ヒロインは 「だんまり(dumb)」 にしよう―- みたいな。)
A・ヒッチコック監督第15作 『第十七番 (1932英)』 (別題 『十七番地』)
出演/レオン・M・ライオン (ベン)
ジョン・スチュワート (フォーダイス)
アン・グレイ (アクロイド嬢)
ドナルド・カルスロップ (宝石泥棒)
アン・カーソン (泥棒一味の女)
≪あらすじ≫
17番地の空き家に怪しい影を見つけたフォーダイスは、ベンという宿無しの男と出会う。ふたりは、そこに集まってきた宝石泥棒の一味を捕らえようと奮闘する。
≪解説≫
当時人気の喜劇俳優を主役にした冒険サスペンス。
空き家にうごめく影は、当時の最先端 「ドイツ表現主義」 の影響とされている。
ビジネスライクなBIP社の水が合わず、低迷を続けるヒッチ。本作のあと『キャンバー卿の夫人たち』という作品のプロデュースを担当したが、それで同社との契約も終わり、しばらく不遇をかこつことになる。
≪ヒッチはここだ!≫
?
『NUMBER SEVENTEEN』
監督・脚本/アルフレッド・ヒッチコック
脚本/マルマ・レヴィル、ロドニー・アックランド
原作/J・ジェファーソン・ファージョン
撮影/ジャック・コックス
音楽/A・ハリス (ファーストネームの表記なし)
製作/ジョン・マックスウェル
ブリティッシュ・インターナショナル・ピクチャーズ社 64分
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