January 2009
January 30, 2009
『悪意』 東野圭吾 【by ぶんこや】
悪意 (講談社文庫)
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幸い、今までの人生で殺意なるものを誰かに抱いたことはない。
人間にはどうして、もしくはどのようにして殺意が芽生えるのだろうか。
今まで殺意を持ったことがないからといって、これからもずっと大丈夫であるという保証はどこにもない。そんなふうに考えるとなにやら薄ら寒いような小説であった。
東野氏はいうまでもなく、そのテーマ、作風ともに非常に多岐にわたる作家であるが、おなじみの加賀恭一郎シリーズの『悪意』でもまた少し変わった手法を取っている。
人気作家の日高邦彦が自宅で何者かに殺害された。その第一発見者は妻の理恵と日ごろ最も親しく付き合っている、幼馴染で絵本作家の野々口修である。そして事件は、野々口と加賀刑事の手記・独白によって語られる。
この小説の注目すべきところは2点(勝手に決めるな 笑)。一つは作品のテーマとなる「動機」であり「悪意」であるが、もう一つは前述したように手記・独白の形で書かれているという、この手法に因るものである。つまり、その人物の「手記」であるのだから、事件は当然その人物の目を通してしか語られない。もっといってしまえば「真実ではないかもしれない」のだ。そのあたりを実にうまく利用した、非常に東野氏らしい、イヤらしい(笑)作品に仕上がっている。
人が持つ悪意の種類や程度は様々である。
そして他人にはそれを推し量ることはできない。
妬みや羨望、プライド・・・悪意に変わりうる感情の素は、誰でも必ず持っているものである。
でもやっぱり、そういうマイナス要素で心の中を真っ黒にするのを、許してしまうのも止めるのも、自分自身なのだね。
今のところ、そういった悪意や殺意から無縁でいられることは、幸せであることの一つだと心から思う。
【★4つはちょっとおまけかな ぶんこや】
January 27, 2009
『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん 【by HANA】
まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)
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先週、中学のプチ同窓会に出かけた。同級生って面白い。学生のときはちょっとの違いだったように思うのだけれど、時がたつにつれてそれぞれの個性の方向に扇状に離れていき、今や誰一人として同じような人はいない。そして違いの幅ほど話題の幅も広がって、みんな強くたくましく、そして美しくなっていた。
人数が集まれば当時はあまり良く知らなかった人とも話す機会ができる。中学のときの私の印象は、ちょっと今の自分とはかけ離れていて、たくさんの人が同じ方向を向かされる中学生の頃には、本質的なものは見えにくいようになっているのかな?と思った。まぁ、精神的にも幼いし。
そんなとき、ちょうどタイムリーに読んでいた本がこれ。
東京郊外のまほろ駅(真ん中駅?町田がモデルなのに?)で孤独に便利屋を営んでいる多田の前に偶然現れた高校の同級生行天。昔は変人イケメンだったが今はどう見ても宿無しで、高校時代よりも「要領が悪くなった」多田の家に強引に転がり込んでくる。
価値観も生育歴も卒業してからの人生もまったく違う2人は、高校時代は交流もなかったのに、便利屋に持ち込まれるいろんな依頼や事件を通してなんだかんだと言いながらも少しずつ大切な存在になっていく。
頑なで不器用な多田と行天にとって、反発しながらもお互いを受け入れるってすごくしんどいし、他人にも自分にも何も期待しないほうがとっても楽なのに、いつのまにか誰かがそばにいるというぬくもりに心地よさを感じてしまう・・・
そんな矛盾と葛藤が、自分の壁を壊していくことに恐怖を感じる一瞬がある。でも、やっぱり切っても切れない二人の関係が大好きだ。
幸福は再生する、元通り完全な形でなくとも、再生する。切れても繋がる、何度でも繋げることは出来る。いびつな形であってもそれはやっぱりささやかな幸福の再生なんだ。絶望の中でも人間は、やっぱり心の奥底では幸福の断片の再生を無意識に希求している生き物なんだと思う。
自分の中の壊れたものリストをそっと思い浮かべた。生きているうちにいったいいくつの切り口に断片をくっつける修復作業ができるのだろう。そして再生した幸福はいったいどんな形をしているのだろうか。ぶんこやに聞いてみよう。
【続編も読もうっと!】
January 24, 2009
『君たちに明日はない』 垣根涼介 【by ぶんこや】
君たちに明日はない (新潮文庫)
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すらりと背が高くてさわやか。三つボタンのスーツに淡い色のシャツ、ダークな色のネクタイ、とうの立ったジャニーズ崩れの軽薄な美男子。ホストにしか見えない雰囲気を持つこの男、村上真介の職業は、リストラ請負会社のクビ切り専門面接官である! しかもこの男、年上の気の強い女に弱い。クビ切りの面接対象者である、ずっとキャリアでがんばってきたの建材メーカー・課長代理、41歳の芹沢陽子にも、面接中から惚れてしまう(笑)
垣根さんといえば『ヒートアイランド』であり、また南米系の娼婦たちとの性描写やバイオレンスの作家という印象が強いが、この小説には性も暴力もない。クビ切り面接官とリストラ対象者、という非日常とも日常的ともいえる(苦)特異な設定の中で繰り広げられる、周りにとっては小さな、当人にとっては大きなドラマである。
しかしこの主人公の村上真介は、なんといい男なのだ! 容姿や言動の軽薄さと過去やクールな考え方のギャップがたまらなくいい。先を読む行動や理論詰めに相手をじりじりと追い込む嫌らしさもすごい。そして、ここぞというときにきちんと”ツボを押さえられる”男なのである。うーん、こういう男、たまらん。大好き(笑) 村上真介から見ればストライクゾーンな年齢(笑)で、おそらく好みのタイプであろうわたしなんて、こんなのに言い寄られたらコロンっと転がってしまうだろう。年下男の前で冷静に自分を保とうとする気持ちと、手の内に引き込まれていくどうしようもない快感の中で苦悩してみたい・・・って、何書いてるんじゃ? 今日のレビューは!!
ともかく、村上のキャラの好み云々を差し引いても、この小説は文句なしにおもしろい! 軽いけれど軽くない、社会人としての悲喜こもごもをいろんな身の上に当てはめてちょっと考えてしまう、でもやっぱり爽快で元気がもらえる、そんな1冊だ。
【作者の写真もやばい・・・(惚)★ ぶんこや】
January 21, 2009
『リオ -警視庁強行犯係・樋口顕-』 今野敏 【by HANA】
リオ―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)
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警視庁強行犯第三係長 樋口警部補が主人公の警察小説シリーズ。強行犯係長で上司の信頼も厚いのに、いつも弱気でまわりの顔色ばっかりうかがっているヒグっちゃんのせいか、警察小説といっても柔らかいイメージだ。
どんな弱気かって、まず捜査本部では重要な地位にいながらも、控えめに粗相のないよう心がける。
取り調べも天然で「はかせよう」ではなく「聞こう」とするスタンス。言い換えれば、体育会系刑事のムチばかりの中、ヒグっちゃんのアメはとてつもなく甘く・・・というわけで頑なな重要参考人や容疑者も、なぜかペロリとゲロっちまうわけですよ。
そうやって、小心者ですごく力を入れているわけではないのに人柄に実績がついてくるから信頼されるのだが、自分でもよくわからないまま過大評価されていると思い込んで、ビクつくというところに人の良さがあふれ出ている。
そんなキャラで愛される(?)樋口警部補は世代論者なところが古臭いし、分析大好きで理屈っぽいけれど、家庭においても妻や娘に愛されキャラだ。本人はいたって真面目で組織での立場や家庭を大切にする常識人なんだけれどね。
こんな偏った紹介を書くと、事件はたいしたものじゃなかったのか?という誤解を受けそうだが(そりゃそうでしょ)、連続殺人事件の犯人だとされている少女を刑事の直感で冤罪から救う・・・「名手が描く本格推理小説(裏表紙紹介文より)」です。
同シリーズをもう1冊一緒に買ったので、今度はどんな樋口さんに会えるのか楽しみ。支えてくれる同僚たちもあまり激しくないけれど、好感が持てるんだ。シリーズものってこういう空気の心地よさみたいなのがいいよね。
【寒い・・・】
January 19, 2009
『日暮らし(下)』 宮部みゆき 【by ぶんこや】
日暮らし 下
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さてさて。葵殺しの一件は、その後どんな展開を見せたのか。
うーん。これは結末を言ってしまうわけにはいかないので、ストーリーのあらすじは割愛したほうがいいかなあ。
上〜下の3巻を通じての感想を言うと、上はともかく中から下の中盤までで引っ張りすぎだ(笑)。こんなにひっぱる必要あるのかなあ・・・というくらい、下の後半であれよあれよと、ころころ転がるように話が終結してしまう。宮部さんの小説ではこういうドラマチックな展開がある意味とても楽しみなわけで、だからこんな短い後半に集中してごろごろごろーっと終わっちゃったらつまらないではないか! と文句をいいたい(笑)
でもやっぱり宮部さんだなあ〜と思ったのは、さいごのさいご、日暮らしの事件ストーリーが終結した後の短編『鬼は外、福は内』の位置づけと内容だ。詳しくは言えないのがもどかしいのだけど、この短編の中での最後、「ああー、そんな伏線がまだ残ってたなあ!」と、ポンとおでこを叩きたくなるかんじだった(笑) 前半でありとあらゆるところに張った伏線、それがどんなに小さなものでも余すところなく有効活用してしまう。これが宮部さんなのだ。(これは東野サマにも該当するといえよう) そしてたぶんこの小説のコンセプトになっているのだと思われるけれど、この「幻術(めくらまし)」にだまされ、そしてにやりっと手の内を明かされるというのが、この作品の最大の魅力であったと思う。
まあところどころ小さい文句はいろいろあるけれど(笑)、ついでにいえば葵事件の真相もちょびっと不満なのだけど(笑)、やっぱり宮部ワールドは顕在でした。文句言ってもケチつけても、おもしろいことは間違いない。最初から最後まで、にやにや笑いながら読者の手を、あっちへゆらりこっちへゆらり〜しながら引っ張ってって、ちゃあんとゴールに到着させて、最後にまた少し読者をえっと軽く驚かせておく。確信犯だなあ。初期のころの宮部さんのものとはだいぶ違うけれど、こうやって宮部ワールドに翻弄されるかんじは、やっぱりたまらなくイイのである。この『日暮らし』は、”大人が愉しむ宮部ワールド”という感想がちらりとかすめたのだが、どうであろうか?
【3巻あっという間★ ぶんこや】
January 14, 2009
January 13, 2009
『日暮らし(中)』 宮部みゆき 【by ぶんこや】
日暮らし〈中〉 (講談社文庫)
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築地の大店、俵物問屋の湊屋総右衛門の姪であり愛人でもある葵が、芋洗坂の屋敷で殺されているのが見つかった。葵は実は、総右衛門の本妻おふじの逆鱗に触れて18年前おふじに殺された、ことになっていた。というのも、おふじが絞殺したあと息を吹き返したのだという。総右衛門は葵を守るため芋洗坂の屋敷に葵をかくまってきた。
さて、ここで上巻の短編がからんでくることになる。
葵の息子の佐吉は、18年前葵は死んだと知らされ、湊屋を出された。しかし葵が殺される数日前、総右衛門本人から実は葵は生きていて芋洗坂で暮らしている事実を告げられる。事実を知った佐吉は、実は母親に捨てられたも同然だった過去に苦しむ。佐吉は今、なぜか芋洗坂の屋敷で葵の殺害現場に居合わせたことで、葵殺害容疑で番屋にとらわれている。
葵を殺したのは本当に佐吉なのか? それともおふじか? あるいはもっと別のだれか・・・? おなじみぼんくら同心・井筒平四郎と超美形の甥・弓之介が「本当に真実(ほんとう)のこと」を求めて走り回る。『日暮らし』ストーリーが動き出した。
中巻の時点では、まだ事件のほんの一端しか見えない。しかしこの葵の事件の裏には、隠された秘密や因縁がてんこもりであるにちがいない。中巻ではほとんど活躍を見せなかったおでこちゃん、下巻ではまたおでこの人間テープレコーダーが見られるのだろうか?
この作品の文庫化にあたって、上下2冊組だったのを上中下と3分冊にしたというのだが、この分冊の仕方は本作品の構成にぴったりである。まさに「中巻」「物語中盤」といえる『日暮らし(中)』であった。
【下巻の急展開を期待する★ ぶんこや】
January 12, 2009
『相対性理論を楽しむ本』 佐藤勝彦 【by HANA】
「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)
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わたしはついつい興味が脱線してしまう。それは、生活全般に言えること(飽きっぽいともいう)だが、読書に関してもよっぽどマイブームが来ない限り同じようなジャンルの本ばかり続けては読めない。飽きるというより、新しいことへの興味のほうが増してしまうんですよね〜・・・(←すごく言い訳くさい)
ふらりと小説以外の分野の本を手にとってしまう、それは大概、未知のものを知りたいとか、ちょっと知っているけれどもっと知りたい、という好奇心から。文学的であるかないかは関係ない。私の中で「読書」のジャンルに含まれないものはHow toものくらいでしょうか?
高校のとき物理が大嫌いだった。実験が良く見えるように段々になった物理実験室は、よそ事をしていてもとても目立つらしく、よく先生に怒られた。土曜の3限は気だるくて、昼からどこへ行って何して遊ぼうかばかり考えていた。
「物理」といわれるとすごく嫌だったのに、宇宙のことにはとても興味があった。「Newton」誌を定期購読していた。でも、相対性理論について結果は知っていても、どうしてそうなのかはとても曖昧にしか記憶になくて、この本を見たときに迷わず手にした。しばらく読んでいたらもう止まらなくてすぐに購入、家に帰るのももどかしく続きを読んだのだ。
この本はとてもおもしろい。電車に乗っている人とそれを見ている人の時間の流れはちがう?という有名な説明から、宇宙旅行をしている間はふけない?という説明、宇宙の誕生とこれから・・・と壮大なスケールに応用されていく理論。物理がちんぷんかんぷんな純粋文系のわたしでも特殊相対性理論まではすんなり受け入れることができた。
時間と空間に対する既成概念を打ち破ったアインシュタインはホントにすごーい!質量と時間、空間、一般相対性理論は何割か本当にわかってないという自覚症状があるけれど、相対という考え方のクセはいつも当たり前だと思っている自分のすべてをもうひとつ外側から見ることのできる大きな視野だ。
物理アレルギーの人に是非オススメしたいですね。
【説明が上手な人ってうらやましい】
January 09, 2009
『日暮らし(上)』 宮部みゆき 【by ぶんこや】
日暮らし〈上〉 (講談社文庫)
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たしかこれは、『ぼんくら』の続きということだった。
『ぼんくら』は単行本で出た直後に人に借りて読んで、それはそれは面白かったのを覚えている。おでこがかわいくて、弓之助という美少年が出てくるのがうれしくて・・・
でも、内容は・・・覚えていない(苦)
それでも登場人物がわかっているから何とかなるだろう、と読み始めたが、これが甘かった!
登場人物の名前や「鉄瓶長屋」なんていう言葉を覚えていても、その内容や相関関係を覚えていないと、もどかしくてしょうがない。あー聞いたことある、読んだことある、って思っていてもしかたがないのだ。
とはいっても、『ぼんくら』を読まずに本作をいきなり読んだ人でも困ることはないようには配慮されている。ただ、『ぼんくら』の知識があるほうが絶対におもしろい。
『日暮らし』上巻は、ストーリー前夜というか、ウォーミングアップというか、まだ話の本題には入っていない。いや、これも話の一部であることは予想されるのだが、この中に収録されている4つの短編は、それぞれ別の話のように見えて、その実、『日暮らし』ストーリーに深く深くかかわっていること間違いなし(たぶんね)。「これらの情報はきちんとインプットしておいてくださいよ」的な短編なのだ(たぶんね)。
お話としては、「おでこ」の悩み、「佐吉」が知ってしまった母親(葵)の消息、死んだはず? 失踪したはず? の「葵」が暮らす屋敷、そして、本作初登場の弓之介の従姉「おとよ」の話。いずれも、うっすらと謎かけをのこしつつ、まったりと語られる。
しかしとりあえずまだ、物語以前である。
なんだかものすごく入り組んで、おもしろくなりそうな予感が・・・
はてさて、中巻はどうなることやら。すごく楽しみだ。
【上中下とわけてレビューかきまーす★ ぶんこや】