香納涼一

May 18, 2010

『アウトロー』 香納諒一 【by ぶんこや】4

アウトロー―ハードボイルド (祥伝社文庫)
アウトロー―ハードボイルド (祥伝社文庫)
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 香納諒一は、こんなバリバリのハードボイルドだったなんて知らなかった。ミステリーも書くし、ちょびっとハードボイルドテイストも入っている、程度だと思っていたけれど、実は完全なるハードボイルド作家さんだったんだなあ。

 短編集を読むとその作家の実力がわかる、なんていうのを何かで読んだことがあるが、その公式に従うならば、香納氏はとても実力のある作家さんであると思う。たった数十枚の小作品の中で、登場する人物のキャラクターはもちろん、現在と過去、大切にしているもの譲れないこと、すべて明確に思い描くことができる。書かれていない容姿までもが想像できるようだ。
 『アウトロー』は、法ではなく、自分の信念や物事の道理、自分の生きる世界での義理や人情、そして己の果てしない欲望に従って生きる者たちのストーリーだ。悪いことをしているからアウトローなのではなく、通したい筋が常識や法律と離れてしまっているだけの、人間味あふれるアウトローたちが主人公である。
 ちくりとひっかかることや、心をえぐられるエピソードが多いので(ついでにバイオレンスも有)、決して読後感が良いとはいえないが、それぞれの生き方にぐっとくるものがあり、じんわりと胸に広がる何とも言えない後味がある。言葉ではうまく言い表せないが、色で表すなら空が夕方から夜に変わっていく深いパープルのような色。寂寥感と重さと孤独と優しさが入り混じったような色だ。

 それぞれ主役の立場も経歴も異なる6編だが、最初と最後、「真冬の相棒」と「愛しのアウトロー」が好みだった。かっこいいなあ・・・と思ったのは「五月雨バラッズ」。
 ぶんこやは、こういう孤独で一途なオトコたちに弱いのだ。


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April 14, 2008

『幻の女』 香納諒一 【by HANA】4

幻の女 (角川文庫)


 自分が固執する何かのなかに、自覚のない深層心理が隠れていたりする。それが無意識のうちに執着してしまうものの、敢えて深く掘り下げないでいるものならば、要注意だ。そこには越えなくてはならないモノがどっしり構えている可能性が否定できない。
 弁護士栖本の越えなくてはならないもの、それは5年前に不倫の末行方不明になってしまった瞭子のと思い出だった。ただそれだけだった、のに・・・
 5年ぶりに偶然再会した日の翌日に、相談したいことがあるというメッセージを残したまま死んだ瞭子。その事件を調べるうち、瞭子の存在自体があやふやになってくる。栖本の愛した女は誰だったのか。この根本を揺るがす事実を執拗に調べていくと、闇から闇へと引きずり込まれ、とうとう10年以上前の殺人事件にまでさかのぼることになってしまう。
 弁護士という、毎日をこなしていれば安定した職や、自分の命まで賭して瞭子の謎を知ろうとする執念は、栖本自身の、人生をきちんと受け止めなくてはこれ以上前には進めない、という内的欲求によるものであろう。誰のことも受容れず生きてきた男の、本当に望んでいたものを自分で勝ち取る、人生に何度とないチャンスでもある。
 事件の解決は自身の解決でもあり、確かな感覚で得たものは、真実だけでなく、心の許せる友、生きてきた軌跡を前向きに受け止められること、そしてこれからの未来を生きていく力だったのかもしれない。
 書き上げるまで2年という月日を費やした、というのもうなずける、力作ハードボイルド小説である。


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April 10, 2007

『ヨコハマ・ベイ・ブルース』 香納涼一3

ヨコハマベイ・ブルース


 海外のどんな大物スターでも必ず出演の約束を取り付けるという凄腕の「元」興行師・金(キム)と、その相棒兼用心棒の「元」マル暴刑事の流(ながれ)。二人は今、どんな事件でも解決する探偵「何でも屋」の看板を掲げている。ただし、関わる事件は多額の報酬を約束されているものに限る。
 世の中を見限った(世の中から見放された?)者同士、どこまでもハード・ボイルドにキメる二人だが、どうも、報酬が見込めない人情がらみの事件に巻き込まれがちである。キムは金のないところには全く食指が動かない男だが、流は金にはあまり頓着しない。かといって、正義漢になれるような立場でもない。危うい中途半端な場所で生きる男たちの、痛いくらいの孤独が感じられる、ハード・ボイルドすぎない、でもカッコいい連作短編集だ。
 あとがきで、作者は「一度作品で描いた脇役をまた別の作品で主役に昇格させて登場させるのが好きだ」というようなことが書いてあった。このキムと流もどこか別の作品で描かれているキャラたちらしい。読書好きたちの間でも、「同じ登場人物」に弱い(好きだ)という意見はよく聞かれる。そういう意味でも、ちょっと楽しみな作家さんなのではないかと思った。いずれ、他のものも読んでみることにしよう。

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