東野圭吾

May 17, 2024

『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』東野圭吾




 ほんとうにおひさしぶりの東野サマ。
 王道の謎解きミステリー。使い古された物語のようなのに、なんかどこか新しい。ひと味ちがう。何がちがうんだろう? わからないまま、さいごまで非常に楽しく読んだ。やっぱりすごいや。

 実家を離れて東京で暮らすアラサーの神尾真世は現在婚約中。ある日、婚約者と結婚式の打ち合わせをしていると、警察から連絡が入る。なんと、一人暮らしをしている父が亡くなったのだという。真世は大急ぎで実家の小さな町に帰る。
 父はなんらかの事件に巻き込まれて命を落としたらしい。つまり殺されたってこと? 地元の中学で教鞭をとっていた父は、退職後も生徒たちに慕われていた。いまでも多くの卒業生たちと交流を続けていて、近々おこなわれる同窓会にも参加する予定だった。誰にも恨まれるはずのない父がなぜ殺されたのか。鍵をにぎるのは、どうやら真世の同級生たちのようだ。
 真世が到着してほどなく、父の弟、すなわち真世にとっては叔父の武史が現れる。真世の実家には長いこと顔を見せていなかったというのに。武史は一風変わったひとで、長年アメリカでプロのマジシャンとして活躍していたが、いまは東京の恵比寿で小さなバーを経営している。突如として現れたこの奇妙な叔父は、この謎を自分たちで解き明かそうぜ、と真世に持ちかける。そして彼は、巧みな話術と洞察力とちょっとしたマジックで、事件をするすると解いていく。

 この叔父の武史、表題にもなっている「ブラック・ショーマン」が、なかなかよい。
 ヒーローというようなカッコよさはない。まあなんというか、かなり胡散臭いオジサンだ。せこいし、ずるがしこいし、調子いいし、昭和のにおいもぷんぷんする。でもやることがどこか粋なのだ(と思うのはわたしがこのオジサンの世代の人間だからかもしれない)。腹立たしいのにどことなく憎めない。なんとなーくだけど、ちょっとシャーロック・ホームズっぽさもあるような気もする。
 こういうヒーローを若い世代はどう見るのだろう。若い世代にとっては老害以外のなにものでもないとか。意外と「カワイイ」とか思われたりして?

 この作品、シリーズ化が決定しているようで、第2作目がすでに刊行されている。
 今回の1作目はたいへん楽しく読んだけれど、武史を好きか嫌いか、本当にこのひとは魅力的なのか、そしてこのシリーズを今後も追いかけていきたいと思うか、判断は2作目に委ねることにしよう。




【ありがちなのに、新しい。なんとも不思議な感覚】




 

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May 11, 2011

流星のごとく 【by ぶんこや】4


 久しぶりの東野サマだ。

 あーんなにたくさん本屋に積まれていると、かえって圧倒されて手に取れなくなる・・・というのは冗談だけど、帰国して本屋に行ってまず驚いたのはあちこち東野サマだらけなこと。近所の大型チェーンショッピングセンターのちゃらい本屋だけかと思いきや、どこにいっても東野サマだらけらしい。おまけに電車には「麒麟の翼」の大広告。ひねくれもののぶんこやは、こりゃ少し距離を置くべきか・・・と思っていた矢先。

流星の絆 (講談社文庫)流星の絆 (講談社文庫)
著者:東野 圭吾
販売元:講談社
(2011-04-15)
販売元:Amazon.co.jp
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 発売日当日に本屋に行ってしまったのですよ。偶然にね。
 そして、ほとんど迷わずに手にとってしまったのですよ・・・

 まさに、流星のごとくスリリングな運び。
 流星のごとく絶え間ない展開。
 流星のごとく切ない設定。
 流星のごとくきらめく恋。
 そして、流星の下で結ばれた流星のごとく美しい絆。
 (ややくどい。すみません)

 東野圭吾の世界を堪能できる、勢いのあるしっかりとした優しさあふれるミステリーだ。
 でも。
 何かが足りない。物足りない。
 作品の出来云々ではなく、わたしの求める東野サマはこれではないのよ、というかんじ。そう、以前解説で馳星周氏が指摘した「ノワール」がないのだ。以前にもこのブログで書いたような記憶があるのだが、東野作品には2種類ある。優しさあふれる清々しいものと、ノワールに満ちたもの。わたしにとっての東野サマは、「秘密」や「トキオ」に代表される前者よりも「白夜行」「幻夜」系の後者でなくてはならない・・・とここまで書いて気がついた。東野作品には2種類と言ったが、後者の方は実は多くないのだな。

 東野ノワール論はとりあえずおいといて、とにかくこの「流星の絆」は、(ぶんこやの好みはこの際言いっこなしということで)非常に東野作品らしいおもしろいミステリーである。スリリングで明快なストーリー。魅力的なキャラとその関係。出てくる人がみんなクールでかしこく、でも繊細で優しい。最後の最後まで期待をまったく裏切らない素敵な作品である。
 獅子座流星群を見に行った夜に両親を殺害された三兄妹。世の中をうまく生きぬくすべを身につけ、互い以外はだれも信用せず、ただ両親の復讐を胸に詐欺師を生業にしてきた。そしてついに、最初にして最後の最大のターゲットに偶然にもたどり着く。誰にも知られることなく、目的を果たさなければならない。失敗は許されない。しかし、今まで完璧に偽ることで生きてきた三人が復讐を目の前に思わぬ壁にぶつかる。
 最後の最後まで特定の犯人で引っ張っておいて、でもまだこれだけページの残りがあるぞ・・・というところで、まだまだ読ませるという、とても力のある作品だ。なんだかんだ言っても、やっぱりこれだけのものを書ける人、もとい、書き続けられる人は他にはやっぱりいないんじゃないかな。

 ただひとこと言わせてもらえるならば。
 最後はカッコよすぎないか?(笑)
 なんかずるくないか?
 (まだ読んでいない人、ちょっぴりゴメン)
 あーこういうふうに大先生は女性を落とすのかなあ・・・
 なんていらんことまで考えてしまったよ。

       ・・・口説かれてみたい///



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May 14, 2010

『超・殺人事件』 東野圭吾 【by ぶんこや】4

超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)
超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)
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 読み終えた本はたまっていくのに、一向にレビューがすすみません。
 読んですぐ書かないと、書けなくなりますね・・・

 ではレビューにいきましょう。

 読者を馬鹿にしてるのか? と言いたくなるような、「超」のつくさまざまな殺人事件。いえいえ、馬鹿にされたと憤っているわけではありません。むしろその逆。ぷっと噴いたり、そりゃないよーとあきれたり、背筋がぞわっとしたり、とにかく楽しみました。
 殺人事件といっても、純粋な意味での推理小説やミステリーというわけではなく、推理小説ができあがるまでの様々なケースや舞台や、副題にあるように推理作家の苦悩が書かれています。馬鹿にしてるぅ〜と感じてしまうような「超税金対策殺人事件」「超高齢化社会殺人事件」「魔風館殺人事件(超最終回・ラスト5枚)」、理系の東野サマらしいマニアックというか理系変態チックな「超理系殺人事件」。ストーリー仕立てで、現実と小説とのだまし絵を見るような「超犯人当て小説殺人事件」「超予告殺人事件」。そして極めつけが、近年の出版事情をブラックユーモアをふんだんに取り入れてあらわした「超長編小説殺人事件」「超読書機械殺人事件」。8つの悩める小説家たちの、苦しさいっぱいのヘンなストーリーから成っています。
 ぶんこやのお気に入りは「超犯人当て小説殺人事件」と「超読書機械殺人事件」。次点として「超長編小説殺人事件」のくどさを挙げたい(笑) 最初は「え〜〜〜〜」と思って読み始めたこの短編集だけど、半ばバカバカしくなりながらも、次はどんなアイディアが出てくるのかが気になって、一気読みしてしまった・・・

 こういう小説は受け付けないという読者も多いかもしれません。もしこれが初めての東野作品だったりしたら、けっこうやばいかも・・・
 とりわけ、最初の「超税金対策殺人事件」と続く「超理系殺人事件」は、東野サマのファンでなく彼に対し寛大になれない読者は、怒って本を閉じてしまうかもしれないので、注意が必要です(爆)

 でも、いつかもしもかなうならご本人にお目にかかり、酒を飲みながら毒のある言葉でいっぱいいじめられたりおだてられたりして、ジェットコースター気分を味わってみたい・・・とひそかに思っているなんて実はMなんじゃない? のぶんこやは、こんな東野サマの一面も、大好きなのでありました。


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April 28, 2010

『使命と魂のリミット』 東野圭吾 【by ぶんこや】3

使命と魂のリミット (角川文庫)使命と魂のリミット (角川文庫)
著者:東野 圭吾
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2010-02-25
おすすめ度:3.5
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 亡父の執刀医を務めた心臓外科の権威の下で、研修医として働く氷室夕紀は、父の死は意図的なミスだったのではないかと疑っている。そんな折、病院の医療ミスをほのめかす内容の脅迫状が届く。医療ミスは本当にあるのか、あったのか? 父と母、そして執刀医の西園教授のかつての関係は? 何より、父の死は事故か事件か失敗か? そして今日、脅迫状の事件は本当に起こるのか? さまざまな疑惑の中で、夕紀は脅迫事件予告当日に行われる、大きな手術の助手を務めることになる。

 医療ミスをテーマにした小説は多い。医療ミス自体の抱える問題、それを隠蔽しようとする病院の問題、また舞台がある意味閉鎖された場所である、といったミステリに仕立て上げやすい条件がそろっているためであろう。
 数ある医療ミステリの一つ、と言えなくもないが、東野サマの医療ミステリはやはりほんの少し視点と効かせるスパイスが違う。そしてお得意の機械工学分野のトリックもちゃっかり顔を出す。

 東野小説が扱う犯罪ものには、『白夜行』のような非情で冷酷なノワール系のものと、正義感や優しさや弱さといった犯罪とは相反するものから出来上がっているものとがある。これについては好みが分かれるところだが、さて、この小説はいったいどういう形で結末を迎えるのだろうね?(笑)

 ミステリだから、種明かしはしないでおこう。詳細や感想を述べるのも野暮だろう。
 強烈なインパクトはないけれど、スリルとスピード、そして加賀刑事シリーズのような探り合いの人間関係など、東野ミステリワールドがしっかり楽しめる一冊。さあさあ、どっぷりとようこそ!(なんじゃそりゃ)



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December 21, 2009

照明を点ける順序 〜『パラレルワールド・ラブストーリー』 【by ぶんこや】4

 平行して走る山手線と京浜東北線。
 なるほど。こんなところからもミステリーは生まれるのね。

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)
パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)
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 この小説、長い間ひどく誤解されてわたしの頭にインプットされていた。
 インプットされていた言葉は、
 「ゲームの世界」
 ちがうちがう! 全然違う。
 ゲームのようなのは題名だけ(笑) 内容は、『変身』や『分身』のような脳と記憶をテーマにしたものだった。

 長年、自分のほうが優位にいると思っていた親友に、恋人ができた。しかし彼女はかつて偶然見かけて気になっていた女性。親友よりも自分のほうが彼女に似合うに決まっている、という妄想がふくらみすぎて、気が付いたときには彼女をめぐる自分と親友の境遇が逆転していた。しかし記憶はあいまいだ。忘れ去られた、いや忘れるようにと細工された記憶の中に、いったいどんな真実が隠されているのだろうか。
 東野作品にありがちな傾向で、動機的なものは些細である。もしも自分が彼で彼が・・・、うらやましいことへの妄想はだれしもが持つものである。東野作品はそこからが勝負だ。読者は何も見えない暗闇の中で、ひとつずつ明りをつけられていく錯覚に陥る(かな? 笑)。しかし問題はその「明りをつける順番」だ。この順番を間違えてしまうと、ミステリーはミステリーでなくなってしまう。読者を「そんなもの最初から見えてたよーん」という気にさせてしまう。東野サマのこの明りをつける順序、というか小出し照明(ってなんのこっちゃ)は、非常にやらしい。

 すべての照明がついてしまえば、そこにはちゃんと「つながっている過去」と「その場の状況と感情」があり「事実」がある。しかし断片的な過去を抱えて現在を生きていると、あたかも「パラレルワールド」で仮想現実が繰り広げられているかのようである。そこからつけられた「パラレルワールド」という題名、冒頭の山手線と京浜東北線、そしていつもの”不思議なことなどないのだよ”というスタイル。
 うーん。二度目の読了ではじめて、その巧さに気がついた(遅いねえ・・・)



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November 11, 2009

『赤い指』 東野圭吾 【by ぶんこや】5

 もっと頻繁にアップせねば・・・と焦るのだが、またもや1週間空いてしまった。

赤い指 (講談社文庫)
赤い指 (講談社文庫)
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 東野圭吾さんの加賀刑事シリーズはわたしにとって、「可もなく不可もなく」というのが正直なところで、加賀刑事シリーズではない東野作品の方が好きだったのだが。
 ここのところ、あまり最近のミステリーを読んでいなかったというのもあって、久しぶりの東野さんらしいこのミステリー、心から堪能しました。おもしろかった!
 おなじみ加賀刑事と事件担当で加賀刑事とは縁が深い松宮。二人の家族と、加害者の家族、事件の中で二つの家族を二重構造にしながら、親の子への想い、子の親への想いをそれぞれ別の形で描いていく。
 加害者家族はもうどうしようもないバカ息子と、それに輪をかけたバカ親たちである。ただ、程度の差こそあれ、そのへんによくありそうな親子関係でもある。もしも、自分の子供が同じ加害者となってしまった場合、親たちは立派な人間でいることができるだろうか。息子の過ちを認めて償わせることこそが本当の愛だと思えるのは、他人ならではの冷静な考えなのではないか。本当に自分の子供の過ちを目の当たりにしたら、・・・とにかくこの子を守りたい、たとえ間違った道に身を落とすことになったとしても、なんとか隠しておいてやりたい・・・そんなことを微塵も考えない親なんているだろうか。
 子への愛は、本当に難しい。「肉親」という言葉が表わすように、とくに子供は、自分の血であり肉であり、自分の一部のような存在だからだ。
 それにひきかえ、親への愛はどうなのだろう。
 親→子、子→親、の想いのあり方とじっくり向き合える作品だ。

 自分が子供だったころ。親の期待は重くうざいものでしかなかった(笑)
 自分が親となった今、子どもに過度の期待をかけまいと思っていても、たぶんどこかで期待をしてしまっている。
 子供は自分の一部であるという気持ちを持ちながらも、子どもは自分ではないと思うことは、とても難しいけれど絶対に必要なことである。




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January 30, 2009

『悪意』 東野圭吾 【by ぶんこや】4




悪意 (講談社文庫)
悪意 (講談社文庫)
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 幸い、今までの人生で殺意なるものを誰かに抱いたことはない。
 人間にはどうして、もしくはどのようにして殺意が芽生えるのだろうか。
 今まで殺意を持ったことがないからといって、これからもずっと大丈夫であるという保証はどこにもない。そんなふうに考えるとなにやら薄ら寒いような小説であった。
 東野氏はいうまでもなく、そのテーマ、作風ともに非常に多岐にわたる作家であるが、おなじみの加賀恭一郎シリーズの『悪意』でもまた少し変わった手法を取っている。
 人気作家の日高邦彦が自宅で何者かに殺害された。その第一発見者は妻の理恵と日ごろ最も親しく付き合っている、幼馴染で絵本作家の野々口修である。そして事件は、野々口と加賀刑事の手記・独白によって語られる。
 この小説の注目すべきところは2点(勝手に決めるな 笑)。一つは作品のテーマとなる「動機」であり「悪意」であるが、もう一つは前述したように手記・独白の形で書かれているという、この手法に因るものである。つまり、その人物の「手記」であるのだから、事件は当然その人物の目を通してしか語られない。もっといってしまえば「真実ではないかもしれない」のだ。そのあたりを実にうまく利用した、非常に東野氏らしい、イヤらしい(笑)作品に仕上がっている。
 人が持つ悪意の種類や程度は様々である。
 そして他人にはそれを推し量ることはできない。
 妬みや羨望、プライド・・・悪意に変わりうる感情の素は、誰でも必ず持っているものである。
 でもやっぱり、そういうマイナス要素で心の中を真っ黒にするのを、許してしまうのも止めるのも、自分自身なのだね。
 今のところ、そういった悪意や殺意から無縁でいられることは、幸せであることの一つだと心から思う。
 

【★4つはちょっとおまけかな ぶんこや】
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December 27, 2008

『時生』 東野圭吾 【by ぶんこや】4


時生 (講談社文庫)
時生 (講談社文庫)
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 この小説には、単行本で発売されてすぐのときに出会っている。そのときは自分の持ち物ではなかったのが、こんどは文庫本として手元にやってきた。
 東野氏とタイムトラベラー、というとなんだかひどくアンバランスな感じがする。タイムトラベラー小説にはなにかしらファンタジー的なものが含まれるというイメージのせいか、ダークなミステリーや社会派ミステリーを得意とする東野氏には、似合わんなあ〜という感じがしないでもないのだ(笑)
 しかし、たぶんいうまでもなく、ミステリーの名手は、タイムトラベルものにおいても名手である。宮部みゆきしかり、恩田陸しかり。東野氏のファンタジックな時間旅行もそれはそれはすばらしいものである。
 難病と闘った末、今まさに命の火が尽きようとしている高校生の時生。もう話すこともない息子を前に、父親の拓実は、二十年以上前に出会った「トキオ」という少年との日々を突然思い出す。世の中を拗ねていたような、どうしようもないダメ男だった当時の拓実は、トキオによって救われ、人間らしさを取り戻したのだという。一見、かつて大ブレイクした「バックトゥーザフューチャー」に似たものがあるが、物語はもう少し、深いものへと進展していく。
 少しずつ少しずつ、ミステリーの謎が解けていくように、時空の隙間とそのとき気付かなかった何かがほどけていくストーリー。やはり東野氏はファンタジー要素を扱ったとしても、隙なくソツなく文句なく、読み応えのある作品にまとめ上げてしまう。

【恒例の休暇中です。年末の日本を満喫しています★ぶんこや】


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October 13, 2008

『天空の蜂』 東野圭吾 【by ぶんこや】4

天空の蜂 (講談社文庫)
天空の蜂 (講談社文庫)


 東野作品に、こんなものがあるとは知らなかった。いやもしかしたら、この作品が東野圭吾氏が書いたものだとは思わなかった、が正しいのかもしれない。らしくない、というわけでもないが、題名や裏表紙に書かれた内容が、新保(←字が違います。“真保”が正解。higeruさんありがとう!)裕一氏を連想させるものだったからかもしれない。じつはわたし、東野ファンになる前に、真保氏の作品をずいぶん熱心に読んだ時期があったのだ。
 さてさて。技術系な内容炸裂のこの作品、いやあー実に細かい!(笑) 一般人にはなじみのないヘリコプターの、しかも操縦や技術的なことや、原子力発電という、これまた非常に専門的なものがストーリーの中心であるから、これらの説明に多くを費やしている。しかし、氏のすぐれた筆力により、「この世のあらゆる科学的化学的現象はみんな神様がつくったものでいいじゃないか」なわたしにも(汗)、とても良く分かるようにそれらの仕組みが説明されている。そんな、事件そのものの付属品である説明が、とてもおもしろかった。というのが、この作品に対する正直な感想である。
 ではミステリー(と呼んでいいのかわからないけれど、一応事件があるので便宜上)的な部分はどうか。早い段階で犯人を提示するタイプのストーリーなので、謎よりも解明を楽しむ種類のものである。この点においては、やはりとてもおもしろい。ただ、ときどき東野作品で感じる(わたしにとっては)残念な点のひとつである、”動機”部分がいけない。いけないわけではないのだけど(笑)、なんかしっくりこないのだ。「正義のあり方」というメッセージとしては、ある意味納得はできるけれど、どうもなにか物足りないような気がしてならないのだ。
 わたしは、東野氏が描く正義よりも、東野氏が描く悪、『白夜行』の解説で馳星周氏が書いていたような「東野ノワール」のほうが好きなのだと思う。あのどうしようもない崖っぷちに立っているような、孤独な悪がたまらなく良い。
 東野サマは正義よりも悪が似合う男?(笑) そういうわけでもないと思うけれど。


【時間を置いてしまうとレビューが難しいな★ぶんこや】
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September 29, 2008

『容疑者Xの献身』 東野圭吾 【by HANA】4

容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)


 文句なしの人気作。ガリレオシリーズ3作目にして、待望の初の長篇作である。文庫が出るずっと前から話題の作品で、自分が読むまであらすじなど知りたくないのに、どうしても耳にしてしまうのがイタイ。文庫が出たのは今年の8月にもかかわらず、この「今さら?」感。
 映画ももうすぐ始まる。待ち遠しいなぁ。芸能関係に疎いわたしだけど、フクヤマの白衣見たさに楽しみにしておりますです・・・くふふ(コワイ!)
 もちろん原作も、石神の日常の具体的な視覚描写、冒頭から複雑に見える偽装工作、読者の思い込みを誘う罠がたくさん!の、さすが東野先生という安定したおもしろさでした。
 なんといっても注目点は、石神の数学を追求する純粋さと靖子に対する献身。「崇高なるものには、関われるだけでも幸せ」・・・どちらも相手からは働きかけのない、一方的な石神の主導で得られる自己満足という欲望である。
 抽象的表現を嫌う物理学者である湯川学が、数学者に敬意を払いつつも、事件の真相と密やかな想いを明らかにせざるを得ないというところは、やはり真実のもたらす結果を追究せざるを得ない性なのだろう。
 しかしそこには、数学者としての生き方を極めたからこそ、この世の具体と現実を生きることとそれとを、器用に分けて生きられなかった石神への深い愛情が感じられる。
 事件の解決はひとつの学問的テーマの証明でもあり、身をもって証明する満身創痍の湯川学も色気があってかっこいいのである。早くフクヤマのそんな姿が見たい!(結局ソレなのね〜)


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