芦原すなお

October 26, 2007

『月夜の晩に家事がいて』 芦原すなお 【by ぶんこや】3

月夜の晩に火事がいて (創元推理文庫)


 東京の冴えない私立探偵が、故郷の四国で奇妙な事件を解決する――とこんな説明を読んで『ミミズクとオリーブ』みたいなかんじかな、といそいそと手に取った。
 独特な方言やのんびりした舞台、おとぼけな登場人物たち、という意味ではたしかに似ているものがある。でも、こちらはもっとずっとシリアスで、重苦しい雰囲気に満ち、シュールだ。それでもさすがは芦原さん、重苦しい雰囲気を一掃するような、おもしろキャラクターがたくさん出てくる。
 しかし、長い。本の厚さや分量という意味ではなく、事件の核心に迫るまで、ほとんど5分の4くらい(?)を費やしているではないか。どれが事件と関係があって、どこが関係なくて、なんでこんなにちょっと突拍子もない感じの思い出や、ブキミな描写がでてくるのだろう。登場人物たちはどうしてこんなに壊れているのだろう。とあっちこっち脱線しながら話が進んで(正直やや退屈な感がなきにしもあらず)、最後の4分の1から5分の1くらいで、一気に展開を見せておもしろくなる。最初の4分の1くらいを読んだところで、主人公の私立探偵の壊れぶりの感じがあまりよくなくて、挫折気味だった。1週間のブレイクの後、てれてれと読み進んで、半分を過ぎたあたりから一気にページをめくる手が早くなった。そんな小説である。
 故郷で「月夜の晩に・・・」のわらべ歌どおりに事件が重ねられる。キーとなる木兵衛屋敷に関わる人々が、殺されていたり行方不明だったり精神の均衡を欠いていたりして、一向に埒があかない。一人屋敷にのこされたイミコさんという女中さんは、どうも話のテンポがひとつもふたつもずれているような人で、まったく要領を得ない。そして、なんともやりきれない事件の真相が明らかになる。
 説明しがたい不思議な魅力のある作品であるが、中でも、イミコさんが傑作だ。何を聞いてもまともに返ってこなそうな不思議な言葉と思考回路を持つ人なのに、そのイミコ語に慣れてしっかり話を聞けば、大変に重要なポイントが次々と明らかになる。おもしろすぎる。あの独特なしゃべり方を、ぜひ誰かと実践してみたい。

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February 20, 2007

『わが身世にふる、じじわかし』 芦原すなお (創元推理文庫)3

わが身世にふる、じじわかし


 お待ちかね!(といってもこのブログ閲覧者にとってではなく、自分にとって)の『ミミズクとオリーブ』シリーズ第3弾。図々しい友人の警察官・川田がナゼかNYに研修に行って、さらにパワーアップして戻ってきた。主人公との掛け合いはあいかわらずおかしいし、事件を奥さんが解決するのもいつものパターン、なのだが。なんかちょっぴり物足りない。なんかこう・・・もうちっと期待したものが・・・。
 そう、今回の第3弾は、シリーズ名物ともいえる、奥さんの手料理「讃岐・香川の郷土料理」が少ないのだ! このシリーズは、会話の軽妙さや主人公の作家のしょうもなさや奥さんのおっとりなんかも魅力だが、なんといっても奥さんの料理の数々が一番読みたいところ。それが今回は、6つの短編のうち「ト・アペイロン」で”チラシ寿司”、「NY アップル」ではウイスキーのみ。「わが身世にふる、じじわかし」では朝食(味噌汁、玉子焼きなどなど)と”八王子ラーメン”(これは奥さんの手料理ではない。もちろん)、「いないないばあ」には”お好み焼き”、「薄明の王子」では再び”チラシ寿司”と”ソラマメ”、さいごの「さみだれ」では”早稲田のラーメン”(奥さんの料理ではない)と名物の”いりこ飯”がでてくるが、このイリコ飯は前作『嫁洗い池』で登場済みだ。前2作に比べて、ちょっとさみしい顔ぶれである。
 なんだかこうやって食べ物のことを書いて不満をいっていると、この小説の主人公作家と川田警部がのり移ったような気分だ。今回は不満が残ってしまったわけだけど、これであきらめてしまったわけじゃない。第4弾を、もうすでに心待ちにしている。

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September 05, 2006

『ミミズクとオリーブ』 『嫁洗い池』 芦原すなお5



ミミズクとオリーブ


嫁洗い池


 かなり好きなシリーズ物。
 小説家の主人公のところに、高校の同級生で今は刑事をやっている、ずうずうしいがなんとなくかわいげのある河田という男が、いつもおかしな事件をもってやってくる。主人公の奥さんの手料理と推理をめあてに。
 奥さんは超箱入り娘(箱入り奥さん)で、住まいの八王子(の駅からバスで20分の山奥)からほとんど一歩も家を出ずにほのぼのと暮らしている、たいへん心のきれいな人だ。ちょっと天然ボケっぽいこの奥さんが、河田の話す事件を聞いて、ちょこっと意見を言うと不思議に事件はすんなりと解決してしまう。
 謎解き自体はとても軽いので、ミステリーの熱狂的なファンにはものたりないかもしれないけれど、おとぼけ主人公とのんびり奥さんのほのぼのな会話、それに河田がいれるチャチャがとても楽しいのです。
 私は寝る前にかるーいかるい(すでに読み終わっている)小説を30分から1時間くらい読む、寝酒ならず寝読(?)を日課にしているのですが、これはそんなリラックス気分の寝読にピッタリ。香川県出身の奥さん(主人公、河田ともに同郷)が魔法のように作り出す郷土料理にため息が出ます。

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