March 2009

March 31, 2009

『天使のナイフ』 薬丸岳 【by ぶんこや】4

天使のナイフ (講談社文庫)
天使のナイフ (講談社文庫)
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 13歳の少年グループに妻は殺された。
 この一つの事実から派生するおよそ考えつくあらゆる現象を盛り込み、そしてまた更なる事件と過去の事実をからませた、様々な点で読み応えたっぷりのミステリーだ。江戸川乱歩賞受賞作でもあり、非常に評価が高かったこの作品。読んでみて、その話題性の要因がよくわかった。厚さ1センチ半ほどの文庫に、何冊分もの事件や事実が詰まっている・・・そんな印象を受けた。
 犯人はだれ? というミステリーの謎解き部分もなかなかに意匠を凝らしてあり十分おもしろいが、わたしはやはり、少年犯罪と少年法の現状と、その正統性と理不尽性の矛盾をいちばん考えてしまう。少年法は犯罪を犯した未成年を処罰する目的ではなく、彼らの未来を壊さぬよう更生させる手助けとなるものである。それはもちろん正しい。少年たちの「可塑性」を信じて、正しい方向へ導いてやる・・・それが良識ある大人にできることの一つだ。そう、それはほんとうに正しい。しかし! おそらくそうやって生まれ変わって今を大切に生きているかつての少年たちも多くいることだろう。けれど一方で、犯罪を犯して施設に入れられたことを「ハクがついたゼ」とシャバで吹聴する少年もいるのだということ。そして、その予測や区別は非常に難しく危険であるため、不可能であるのだ。
 どちらが良い悪いではなく、そういう少年犯罪と少年法が孕むあらゆることがらを、この小説は事件や心理や動機や現象などの形を借りて、見事に描き切っている。
 妻を殺された主人公の桧山がオーナーであるコーヒーショップのある街は、ぶんこやにとって非常になじみのある場所であり、そういう意味でも楽しめた(笑) 駅から歩いて・・・おお、あのへんか! なんてね。駅からの道筋、神社や公園など頭にはっきりと思い描くことのできる場所を想い、なんだか泣けてしまった。
 ああ、帰りたいな。

【この小説に郷愁を誘われる人も珍しいだろう★ ぶんこや】
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March 30, 2009

『ドルジ』 武田葉月 【by HANA】3

ドルジ 横綱・朝青龍の素顔 (講談社文庫)
ドルジ 横綱・朝青龍の素顔 (講談社文庫)
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 自分で望んで決めたことに迷いもためらいもなく突き進むドルジは、TVでちらりと見る朝青龍関の印象そのままで、かえって安心した。
 プラス、外国人横綱っていうと遠い人のように感じるけれど、少年のような素直なところもあって、男子の母親としては失礼ながら「かわいらしいなぁ」と思える一面も知ることができた。
 強いし猪突猛進なイメージが先行してちょっと怖いと思っていたけど、一途に目指してきた夢がかなってよかったね!と素直に感じたよ。
 一方、大陸の熱い血と、シキタリや序列、体面を重んじる「恥」の文化との間の葛藤は、おこるべくしておこったのだとも再認識。しかし、写真で見るモンゴル時代の精悍なドルジの肉体には、それをも克服して大成するべき、もって生まれた星を充分感じさせる何かがあった。わたしは、草原の中にまぶしいくらいの生命力の輝きを見た。
 ところで、なんでか特に相撲に興味がないのに、この本を買ってしまったのか今でもよくわからない。多分、この表紙の笑顔から目をそらしたら、逃げたように思えるのが自分で許せなかったんだと思う(笑)屈託のなさがにじみ出ているんだよね。
 わたしのように、彼のことをほとんどまったくといっていいほど知らなかった人には、経歴やこれまでの軌跡をたどれてよかったのだけれど、欲を言えばもっと深く彼の気持ちに重なることができるような、内面的の細やかな描写が欲しかったなぁ。
 ・・・というように思ってしまうのは、彼にとても魅力があるということなんだと思うし、そう思わせたこの文章のおかげなんだともわかっているけれど。
 後輩は頭角をあらわしてきているけれど、これからもドルジはドルジらしく突き進んでほしいなぁ。

【「あばれはっちゃく」を連想・・・って古すぎ?】
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March 28, 2009

こ(BlogPet)

きのう、ぶんこやとぶんこやの焦点に理解する?

*このエントリは、ブログペットの「みつむし」が書きました。

bunkoya at 07:33|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!みつむし 

March 26, 2009

『花が咲く頃いた君と』 豊島ミホ 【by HANA】3

花が咲く頃いた君と
花が咲く頃いた君と
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 花が咲く頃・・・いやぁ春ですね。
 花が咲いている間って、その植物が一生に見せるほんのわずかな自己表現の時間だと思う。普段はツンとすまして自己完結しているように見える植物も、このときばかりは他の生き物を強く惹きつけようと、艶やかに清楚にあの手この手でアピールする。そんな時、植物は男であり女である。だってだいたい受粉のときだもんね。
 本の中には、多感な10代をそんな花のモチーフになぞらえた、短編集が4つ。ひまわり、コスモス、椿、桜。夏、秋、冬、春・・・それぞれの季節に切り取られて懸命に咲く男子と女子の凝縮された4話だが、それぞれ青春の「終わり」を感じさせるところが切ない。でも、終わりがあるから美しいんだね。
 忘れかけていたけれど、振り返ってみるとあの時あの一瞬は青春だったなぁ・・・と、なんでもなく過ごした10代の日常をまぶしい気持ちで思い出した。みずみずしくかぐわしいけれどほろ苦くすっぱいグレープフルーツのような一瞬、あったよね。
 自分でもコントロールできない、かといって他人に説明もできない、理不尽に押し寄せる感情の波とヒリヒリ過敏になった感受性をもてあましていたころは、与えられた時間をちゃんと過ごすだけで精一杯だった。
 でも今は細かいディティールを(例えば教室の机の匂いとかプールに入る前のシャワーの冷たさとか)思い出せば思い出すほど、すべてが無条件に守られた温かな思い出に感じるから不思議。
 耳の奥から、放課後の隣の校舎で吹奏楽部が音合わせをする音が聞こえてきたよ。

【HANAは運動部だったけど】
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March 23, 2009

『ナゲキバト』 ラリー・バークダル/片岡しのぶ訳 【by ぶんこや】5

ナゲキバト
ナゲキバト
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 翻訳ものはめったに読まない。
 翻訳作品だという意識があるだけで、原文が気になって仕方ないからだ。一行ごとに文章を英訳して、無意識のうちに原文を探ろうとしてしまうというやっかいな癖があって、それは仕事がら仕方がないとはいえ、これが煩雑極まりない(苦)
 この作品は知人から借りた。最初のうちこそこのやっかいな癖が顔を出し、会話部分なんて声に出して英訳したりなんてバカなことをしてみたものの、気がついたら物語の中にどっぷりつかっていて、読み始めから30分ほどで読了してしまった。正確には、物語の中に、というより物語の中の価値観に、かもしれない。
 9歳の時に両親を事故で亡くしたハニバルは、祖父ポップに引き取られ育てられることになる。動物を通して命に直面したり、人間としての善悪の選択に迫られたりしながら、ポップの深く大きい愛情のもとで、ハニバルはいっしょうけんめいに成長していく。
 生きていくことはつらいこと苦しいことの連続である。
 もちろん楽しいこと嬉しいことも同じだけあるはずなのだが、つらいことの大きさ重さは、楽しくうれしいことのそれをいとも簡単に超えてしまえる。不思議だ。
 生きていくのはつらく苦しいことであるのは当たり前で、でもそれらと自分をなんとか折り合いをつけていかなければならない。乗り越える、とかそういう強く前向きなことばかりではなく、とてもシンプルに、受け止め、受け入れ、そしてそれを自分の一部にしていく。望むと望まざるとにかかわらず、生きるというのはそれの連続なのだ。
 そんなことを教えてくれる、すばらしい作品だ。
 最後の三行・・・この三行によって、この作品の密度と空気と重さががらりと変わる。たとえどんなことがあっても、生きていてこそ人間であり、人間は生きていさえすればどこからでもやり直すことはできる。心からそう信じたくなる。
 幸せな人も苦しんでいる人も、大人も子供も、成功している人も失敗してしまった人も、すべての人にとって、読む価値のある作品だと思う。そして、片岡しのぶさんの訳も素晴らしい。原文も読んでみようと思っている。
 
 何かをして、たとえ苦しくともその結果を引き受ける・・・それが人生だ。
 わしら人間は、祈るなら、苦しいことの意味を理解するのを助けてほしい、と祈るべきだ。
  (本文より)

【それでも生きていかなくては★ ぶんこや】
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March 20, 2009

『沼地のある森を抜けて』 梨木香歩 【by ぶんこや】3

沼地のある森を抜けて (新潮文庫)沼地のある森を抜けて (新潮文庫)
著者:梨木 香歩
販売元:新潮社
発売日:2008-11-27
おすすめ度:4.0
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 生きてモノを食べモノを考える私たちにとって、「生きていること」はあまりに当たり前すぎる。生きている私たちにとっては、死ぬということが特別に感じられる。
 しかし本当にそうなのだろうか?
 私たちが生きているという事実こそ不思議な事態なのだ―そんな、梨木さん独特の世界観から見た、生きること、すなわちストレートに命そのものを描いた渾身という表現がピッタリな作品だ。
 しかし、自分の命の源が「ぬか床」だったら途方に暮れてしまいそうだな(笑) ぬかどこ、つまりあのぬかづけを漬けるくさーいどろっとぬめっとした、アレね(笑) これがあなたの生命体のモトですよ、なんて言われたらどうしよう。
 死んだ叔母に一人暮らしには十分すぎるマンションの一室とぬか床を残された久美は、そのぬか床がもつ不思議な現象(力?)を持つことを知る。ぬか床の不思議現象はやがて、幼少期の記憶の不確かさを久美につきつけ、断片的な記憶から自分の育った環境やかかわった人物の異常さを認識する。叔母が残した日記を手がかりに、久美はまるで大きな見えない力に引き寄せられるように自分のルーツを探す旅に出る。そしてそこでは、異常ともいえる閉鎖された世界と命の繋がりがひっそりと営まれていた。この世のどこかではないような人間に忘れ去られたような場所と、そこで絶え間なく生まれ続ける生命体。この停止と躍動のコントラストが非常に気味悪く、しかし不思議な魅力も醸し出す。命の誕生が種の保存という目的の結果である、という一般的事実が根底からひっくり返されてしまいそうだ。
 ルーツを探す、系譜をたどる・・・なんて神話的な響きだろう。現代の科学からはかけ離れた寓話的な話が、酵母や微生物といったバイオロジー的観点から、でもやっぱり神話のように、ファンタジーのように語られる。いやそもそも、生命体の不思議というのは、科学で解明しきれないのかもしれないな。
 『家守綺譚』『村田エフェンディ〜』でも独特な不思議ワールドを描いている梨木さんだが、この作品の不思議さはまた違って、ちょっと手強い。この作品自体は決して好きとはいえないのだが、どうにも気になって仕方がない・・・と思っていたら偶然、知人から梨木作品が2冊ほど回ってきた(笑) こりゃ、運命かな?(笑)

【でもやっぱり不気味だ★ ぶんこや】
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bunkoya at 06:34|PermalinkComments(2)TrackBack(0)clip!梨木香歩 

March 18, 2009

『滝への新しい小径』 レイモンド・カーヴァー 村上春樹訳 【by HANA】3

滝への新しい小径 (村上春樹翻訳ライブラリー)
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 レイモンド・カーヴァーの遺作である詩集を村上春樹が訳したという深い1冊。詩を訳すというのはとても危険で難しいことだと思うのだが(遺作だし)、きちんと伝わってくる安心感がある。
 訳者の人柄とか作者に対する理解、思い入れが言葉に変換されると、オーラに響くように心が共鳴する。広い砂漠のさらさらの砂が風が吹くたびきめ細やかに紋様を変えていく光景を思い浮かべた。
 冒頭のテスによる「イントロダクション」、最後の春樹さんによる「解題」を先に読んでから、詩に入るのがオススメだと感じる。詩はあまりなじみのないわたしでも、背景を知ることで魂をストレートに感じることができたから。
 あとは、時間をかけて1冊を続けて読むと良いと思う。人生に途中休憩が入らないのと同じように。
 途中アル中で死にかける日々もあり50歳で亡くなるレイだけれど、誰しもそうであるように、幼い日かわいらしいときがあったはずで、作品の最後になるにつれそんな姿も想像してしまうような、シンプルで無垢な終わりであった。

【静かで切ない訪れ】
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March 14, 2009

インドへ作業しないです(BlogPet)

きょうぶんこやは、インドへ作業しないです。
それで比較したいです。
でも、発覚したいです。
それで発生♪
だけど、先述したかったの♪

*このエントリは、ブログペットの「みつむし」が書きました。

bunkoya at 07:47|PermalinkComments(1)TrackBack(0)clip!

『魔王』 伊坂幸太郎 【by ぶんこや】3

魔王 (講談社文庫)
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 これは・・・評価が分かれそうな・・・非常にむずかしい作品だなあ。
 何が書きたいのか、どこが一番なのか、ただそういう現象を書いているだけなのか・・・。読み手がどこに気持ちを持っていって読めばいいのかがとてもつかみにくい。こういうときは感覚で「良かった」「受け付けない」「好き/嫌い」などと受け止めてしまえばいいのだが、なぜかそれもできない。好きでも嫌いでもなくてぇ〜、でもぉ〜・・・・。なんてことになってしまいそうだ。
 かといって「わけわかんない小説」というわけでもない。なんというか、不思議な世界に迷い込んでしまったような、現実とバーチャルがぐるぐるに渦巻きになったような、すごーく妙な感覚である。あ、これって、伊坂ワールドにハマっちゃったってことかな?(笑)
 会社員の安藤は、ある日突然自分の奇妙な能力に気づく。適度な距離で相手を見ながら好きな言葉を念じれば、そのとおりの言葉をその人が発する、という一種の超能力のようなものだ。近頃巷では、強烈なアメリカ批判から民衆がファシズムに走りつつある。そのリーダーとなる一人の政治家および次期総理大臣候補に安藤は近づき、異様なファシズム化をなんとか食い止めようと試みる。しかしその背後には見えない力が常にはだかっていた。
 一見重くなりがちなヘビィな話題を、伊坂氏ならではの軽妙なテンポと語り口で、ともすればユーモラスに語られるこの小説。ぽんぽんと読んでしまうのだが後味がどうもすっきりしないというかなんというか・・・。続く中編「呼吸」は、「魔王」の舞台から5年後、安藤の弟潤也とその恋人の視点から描かれる。

【で、やっぱり『モダンタイムス』に興味がある★ ぶんこや】
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March 10, 2009

『Cの福音』 楡周平 【by ぶんこや】4

Cの福音 (角川文庫)
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 怖かった・・・
 ちょうど大きい仕事にかかり始めた、一番集中力に充ちていたときで、いつもより神経や感覚が研ぎ澄まされていたときに読んだせいか、本当にこわかった。ただでさえプレッシャーで浅い眠りが、自分でつくりあげたコワイ映像に何度も中断された(涙)
 怖かったのはこの小説のストーリーそのものではなくて、プロットから少々はずれた、コカイン中毒になっていってしまう人たちの描写だ。アメリカでは確かに一般人にもコカインなんて(なんて、といってしまえるほど)遠い世界のものではなく、その辺の中高生だって簡単に、手に入れることができる。試すだけで終わることができたらラッキーだ。別に意志が弱くなくても、遊び半分で試したとしても、それが常習になるのは手に入れることと同じくらい簡単なことなのだ。時が時ならば、状況が状況ならば、自分もその一人だったかもしれないと思うと、膝が震えるほどに怖い。ハドソン川に死体で浮いた、日本の大手商社のNY支店勤務だった男のように。
 しかしこの小説はそこがメインではない(笑) これを1作目としてシリーズになる、裏の世界に手を染める朝倉恭介の序章というか助走というか、そんな記念すべき第1作なのである。同時に、これが楡氏のデビュー作だというのも驚きだ。
 頭脳明晰で鍛え抜かれた肉体をもつ朝倉恭介は、アメリカのエリートと呼ばれる道を歩けたにもかかわらず、身に降りかかった不幸のせいで、裏の世界に入ることを決意する。その、明晰な頭脳と鍛錬された身体を武器にして。そして先述のハドソン川に浮いた男のような「顧客」へ完璧な闇ルートでコカインを提供するビジネスを、ひとりで切り盛りしているのだ。
 朝倉が作り上げたルート、ビジネスはすごい。楡氏自身がアメリカ駐在経験者ということもあり、アメリカで暮らしたことがある人でなければ考えられないルートであると思う。ちなみに、本作に登場する貨物列車が通る線路は、我が家のすぐ近くにも走っている・・・

【むやみに洟をすすれなくなる(苦)★ ぶんこや】
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