Saemtliche Trios fuer Klavier,Violine und Cello
Naxos Deutschland Musik & Video Vertriebs-GmbH / Poing
2017-07-28

K.542のピアノ三重奏曲は、1788年6月22日 ウィーン(7月14日の第6番ハ長調 K.548と、10月27日の第7番ト長調 K.564)で書かれた。1788年、モーツァルトの収入は激減していた。前年末にウィーン宮廷作曲家になったものの大した収入は得られず、その一方で演奏会、楽譜の出版、作曲依頼などが激減し、収入は全盛期の半分近くまで落ち込んだ。

この窮状を打開すべく、モーツァルトはフリーメーソンの盟友プフベルクに2000グルデンの借金を申し込む。モーツァルトの年収に匹敵する額だ。すぐに200グルデンが送られてきたが、それだけではとても足らなかっただろう。

借金申し込み手紙の追伸に三重奏曲を描いたことが書かれているので、この曲はプフベルクへの感謝の形で書かれたのだろう。

モーツァルトのピアノ三重奏曲は全部で10曲あるとされますが、このアルバムでは、断片が残るのみのK.442と初期の作品とされるK.495a(Anh.52)とK.501a(Anh.51)は省き、クラリネットが用いられたK.498『ケーゲルシュタット』も除外。実質上、6曲が収録されています。その上で1776年に書かれたK.254はディヴェルティメントとし、残りの5曲に番号を振り、モーツァルトの充実した時期に書かれた作品としてまとめています。

 スイスのヴァイオリニスト、パキンとロンドンで学んだチェリスト、ヴェガ、そして日本のピアニスト矢野泰世による親密な演奏でお楽しみください。(輸入元情報)

K.542第1楽章はアレグロだが、とても穏やかな音楽。トリオ・ヴェガもしみじみとした情感を大切に演奏している。ピアノのタッチも柔らかで曲想にマッチしている。古典派の第1楽章アレグロとくれば、もっとキャッチーなメロディで華々しく始まるという思い込みがあるが、ここではまったく違っている。

第2楽章はもっと静かで穏やか。第3楽章ロンドで生き生きとしたモーツァルトにしか書けないような可憐なフレーズが聴かれる。

2016年の録音という事で、各楽器の音がとてもリアルに美しく録られている。特にチェロの生々しさは特筆もので、この楽器特有の重さ、弦の擦れる感覚が聴きとれる。ヴァイオリンも同様にリアルだが、少々引っ込み気味に聴こえる。生演奏でもこんなバランスなのかもしれないが。

これに比べてピアノは聴こえ過ぎのような気がした。前に出ているというか、ピアノだけ近くで聴いているような感覚にとらわれる。音量を加減して演奏しているのは分かったが、それでも存在感が大きい。

モダン楽器によるトリオの演奏ではこういったバランスになるのは仕方ないと思うが、モーツァルトが弾いていたフォルテピアノはもう少し音量が小さかったはずなので、そこはモダン楽器とはいえ録音で配慮してもいいのではないかと思った。

【収録情報】
Disc1
モーツァルト:
● ディヴェルティメント 変ロ長調 K.254
● ピアノ三重奏曲第1番ト長調 K.496
● ピアノ三重奏曲第3番変ロ長調 K.502

Disc2
● ピアノ三重奏曲第4番ホ長調 K.542
● ピアノ三重奏曲第5番ハ長調 K.548
● ピアノ三重奏曲第6番ト長調 K.564

 トリオ・ヴェガ
  矢野泰世(ピアノ)
  マルク・パキン(ヴァイオリン)
  オフィーリア・ザイツ・ヴェガ(チェロ)

 録音時期:2016年12月5-8日
 録音場所:マラガ、マリア・クリスティーナ・ホール
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)

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