録音1987年9月フィルハーモニー・ザール、ベルリン

1970年代にDGに後期交響曲集を録音して以来、80年代にはモーツァルトの交響曲は録音してなかったカラヤンの久々のモーツァルト。他の主要曲をデジタル再録音しているのに、なぜモーツァルトはしなかったのか、これからする予定だったのか、誰も知らない。

1987年と言えば、すでに古楽器による演奏が浸透しつつあった頃で、アーノンクールを始め、ホグウッドやピノック、ブリュッヘンなどが続々と古楽器によるモーツァルトを発表していた。作曲家が生きていた当時の楽器で演奏することについて問われたカラヤンが「ナンセンス!」と答えたという話をどこかで読んだ気がするが、言葉の通りカラヤンのモーツァルトは古楽器奏法など完全無視の大オーケストラによる演奏になっている。

演奏スタイルも明らかに19世紀の美学に基づいており、スケールは大きく、豊かな響きでロマンチックな世界を作っている。低音域は響き、お得意のレガート奏法でフレーズは限りなくスムーズに繊細に奏でられる。時代背景とか考えなければ、この上なく美しく芳醇な響きに包まれて至福の時が過ごせる。

第1楽章は軽快なテンポで進んでいくが、第2楽章、第3楽章はテンポが遅い。堂々とした風格があり、時々出てくる短調の響きはチャイコフスキーかドヴォルザークを思わせるが、潤いがあっていい感じ。

第4楽章ではもっとテンポを上げて一気呵成にかけるけるかと思ったが、そうでもなかった。この辺は以前のカラヤンなら圧倒的な緊張感でグイグイ押してくる気がするのだが、落ち着いた横綱相撲だったので意外だった。

モーツァルト:後期3大交響曲~第39番&第40番&第41番「ジュピター」
カラヤン(ヘルベルト・フォン)
ユニバーサル ミュージック
2016-01-27

気になったので1970年代録音の第39番も聴いてみた。ここでは気力が充実した演奏を聴くことができる。やはり年齢で曲の感触が違ってくるのだろうか。オーケストラを完全に掌握して意のままに動かして音楽を作っている。それだけカラヤンの意思が隅々まで行きわたっていて、高い緊張感を作り出している。

1980年代の録音はオケに自由にさせている部分が大きくなっているが、どちらがいいかは好みの問題だろう。私は圧倒的に70年代の録音の方がカラヤンの個性が出てて好ましい。